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第60話 選定とブースト

『アストラル因子の選択を開始します。以下より選択して下さい』


この場にいる皆の脳内には響かない世界の声が、カズキにのみ届く。


『・HP ・MP ・STR ・VIT ・AGI ・MEM』


ワーウルフを討伐した時にも起こった謎の現象が再度発生し、カズキの眼前にステータス画面が展開される。


世間で公開されていない謎の現象だ。

こんな大勢の前でバレるのは面倒なことになりそうなので、埃が被った【隠蔽】のスキルを発動し周囲にバレない様にしてMPを選択した。

するとカズキの中に、レッドドラゴンだったはずの光の粒子が舞い込んでくる。

幸い巨大なドラゴンが光の粒子として霧散したおかげで、劇場内には光が溢れていたのでカズキに光が入り込んだことは誰も気づいていない。


『MP値が50上昇しました』


「まじすか…」


思ってたより50倍多くMPが上昇し驚愕する。

ワーウルフの時は1しか上昇しなかったのに。

そもそもアストラル因子とは何なのか。


それがアツシが持つ英雄の始まりと言われるスキル【選択】の上位スキルであり、モンスターのみに与えられし権能【選定】だなんて本人は知らない。


【選択】に与えられた能力は、レベルUP時のポイントを好きなステータスに割り振ることができる選択権と、SPによるスキルの選択権だ。

本来ならば、ステータスとスキルも好きに選ぶことが出来ない物だ。

それを好きな方向性に、得意とする戦闘スタイルに合わせ調整することが出来る破格のスキルだ。

そしてそれは自身のみならず、パーティーメンバーにも選択権を与える。

現にアツシは前衛で戦う為に、STRとVIT値をメインで成長させ聖騎士の道を進んでいて、ユキは【支援】と【回復】のスキルを使いこなせる様にMPをメインで選択している。


【選定】はSPによるスキルの選択権はあるものの、ステータスの割り振りは出来ない。

しかしアストラル因子を吸収し、レベルアップせずともステータスを上昇させられるのだ。


何故カズキに【選定】が備わっているのかと言うと、【スライム化】により半分はモンスターになったからだ。

しかし殆ど人間よりなカズキには、備わるはずのない不完全だった【選定】のスキルは、始まりのダンジョン【光陽中学校】が踏破された時に送られたギフトにより、アストラル因子の吸収頻度は低いものの形を成し、スキルとして機能する様になったのだ。


『ワールドミッションを達成しました。世界初のアシストを達成したので祝福を贈呈します』


あの時オークの下敷きになり、気絶した時に鳴り響いた祝福の音声を本人は知らない。

そもそも一生知る術すら無いのだ。


『ブーストを取得しました』


そうして贈られた祝福は【ブースト】。

当人と、パーティメンバーの獲得する経験値を3倍とし成長を促し、レアアイテムのドロップ率を25%上昇させ、スキルの熟練度でその効果を高める破格のギフトだった。

それはスキルとは違い、カズキのステータスに刻まれた権能であり特性の様なもの。

これによりスライムを潰すという小学生でも倒せる最弱のモンスターを討伐するだけで、ドラゴンや特別指定モンスターと戦っても死なない程度に成長出来たのだった。

もちろん幼馴染2人もカズキを追いかける様に、急速に成長したのは【ブースト】の恩恵だ。


「がっはっはっははは、今日はありがとうな。こいつらにも、俺らにも良い刺激になったよ」


踏破した【ららぽーと横浜ダンジョン】から出たカズキ達に、キャプテン=マサオは労いの言葉を送る。

それは言葉の通りカズキ達への感謝だ。


「いえこちらこそ初めてのA級ダンジョン踏破で良い経験になりました」


カズキに肩を貸したアツシが丁寧に返答する。

少し魔力が回復したカズキは、アツシの肩を借りユキにバフを掛けて貰う事で、やっと歩ける様になったのだ。


「お前も礼を言え、パーティメンバーを助けて貰ったんだろ?」


「……」


キャプテンに背中を押されて出て来たのは、【楽業】のリーダーでありカズキを毛嫌うラナだ。

笑顔だったキャプテンは口角を下げ、その大きな手でラナの頭を掴み、強制的に地面と向き合わせる。


「礼を言えねえ奴は人間じゃねえ。モンスター以下になりたくなきゃ今すぐ声を張り上げろ」


その声は低く響き渡り、現場をひりつかせた。

キャプテンに頭を下げられたラナの耳は赤い。

カズキ達との差を見せつけられただけで無く、自分の力量不足から仲間が機器的状況に陥り、剰えそれをカズキが助け出した。

その悔しさは、無念の感情は、瞳を濡らすだけじゃ無く、そこから溢れ出し地面を丸く濡らした。


「…あ、ありがとう、ございます」


振り絞った感謝の言葉を聞いたキャプテンは、口角を上げ直し優しい口調で声をかけた。


「それでいい。それが成長だ」


カズキに投げかけられた感謝の言葉は、虚しくも当の本人に刺さらなかった。

歯が砕けそうになりながら、プライドを噛み殺して捻り出した感謝の言葉を受けたのにも関わらず。


何故ならその男は、デリカシーを母の子宮に忘れて来ているのだから。


「感謝される様なことしてねーよ。てか、怖かったのか、汗かきすぎだぞラナ?」


今まで事あるごとに想い人であるスミカとの会話を邪魔され、罵倒されて来たか。

考えただけで腹が熱を帯びてくる。

そんな私的な復讐を、レンタル冒険者という仕事中に執行する。

隣にいたアツシは空いている手で頭を押さえ、ユキは顔を引き攣らせている。


「お、お前だけはぶっ殺してやる!!!」


「ははっ元気になりすぎだろ、やっぱ泣いとけよ!」


言葉にならない絶叫を上げながら、カズキに刀を振りかざそうとするラナを【楽業】のメンバー達が全力で押さえつける。

それでも尚、止まりそうにないので海賊達が手を貸し怒れる剣士を退場させた。


「本当に面白いなお前ら、どうだこのまま俺らと働かねえか? 俺の守りにユキの支援が加わればウチはもっと強くなる! それに男2人の実力も文句がねえ、上には俺から言っとくから考えてくれねえか」


それはあの日、カズキだけが不合格だった冒険社【アース】への就職キップだった。

あの時だったら喉から手が出るほど欲しい物だった。

しかし


「遠慮しておきます。今は私たちだけで頑張ろうと思っています」


ユキが即答した。

やはり自分の意志が強く、芯が通っているのだ。


「即答かよ、ならしゃあねー今日の報酬は色つけておくから楽しみにしておけ」


「そんな困ります!1人5万円って契約です」


アツシが急いで断りを入れるがキャプテンは止まらない。


「馬鹿野郎、それほどお前らから得るものが有ったんだよ俺らに、でもよ船の上にいた奴ら全員にエアバック掛けてたから飛龍からの攻撃を受けても平気だったんだけどな!」


「も、もしかして」


「そのもしかしてだ、本当は黙っとくつもりだったんだけどラナを虐めるからついな」


という事は、本来飛龍に襲われているロナをカズキが助けなくても、怪我ひとつしない予定だったのに、でしゃばったが故に劇場に愚かな男は落下したのだった。

カズキの耳はラナに負けず劣らず赤くなっていた。


そうして初めてのA級ダンジョン踏破を体験したカズキ達【青空】は、また大きく成長したのだった。

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