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第56話 心の底から現れしもう1人の自分

自由落下に身を委ねたどり着いた先は、もちろん建物の屋根だった。


「やっばいいいいぃぃぃぃ、いだあっ」


正面衝突した屋根とカズキの勝負は一瞬で決した。

硬化したカズキが屋根を粉砕し突き進み、椅子が大量に並ぶ薄暗い場所に落下した。

思っていた以上の衝撃が身体を駆け抜ける。


目の前には何も映し出されていない巨大なスクリーンが設置されている。

どうやら映画館に落ちてしまった様だ。


「映画館って久々に来たな」


スクリーンに近良い位置に、今まで座ったことが無かったから知らなかった。

首を上げても全体を見渡せない。


「すげーな…んー、んんん?」


頭の中でお団子を振りながら楽しそうに話すサヤを思い出す。


「【ラゾーナ】のダンジョンボスは映画館に住み着いてるんだよ。理由はダンジョンボスがのびのび戦える場所だからだって推測されてて、A級ダンジョンになった大型商業施設は映画館がボス部屋って相場が決まってるんだ」


背中に走り抜けるのは悪寒じゃなく、生暖かい吐息だった。

スクリーンに当てていた視界を全方向に展開する。


「まじかよ!!!」


今にもカズキを食らおうと大きく開いた口が迫っていた。

下顎に生え揃う凶悪な牙が、地面や椅子を削り一直線に迫り来る。

高速で手前に飛びスクリーンの中央に両手両足を突いて着地し、その手足を力一杯伸ばし跳ね返る。

目指すはドラゴンの後ろにある出口だ。

しかしドラゴンが開く大きな翼に阻まれ、はたき落とされる。


「いっつう」


ドラゴンがカズキに迫ることで、天井に空いた穴から差し込む光に照らされ、その全容が明らかになる。

飛龍を何倍にも膨れさせ、筋肉を内包した巨躯に生える大きな翼。

引っ掻かれれば最後だと思われる大きな爪はもちろん、尾の先には棘が乱雑に生えている。

更に邪悪さを引き立てる2本の大きな角が、俺はボスだぞと訴えて来ている。


これはどうしたものか…


目の前にいるのは最強を体現するレッドドラゴンだ。

赤々と取り込んだ光を反射する鱗のひとつひとつが、鋼鉄の鎧の様だ。


考える必要も無い。


「逃げ一択だろ!!!」


身体の中を駆け巡らせている雷に魔力を注ぎ増幅、加速させ出来る限り加速する。

一直線に出口へ逃げるべく、全力疾走する。


スピードには自信がある。


さっきだってキャプテンの風刃を追い抜いた。


なのにドラゴンの大きな瞳と確実に目があっている。

加速される視界の中でその黄色い瞳がカズキと同じ速度で動いているのだ。


カズキが高速で動くのを確実に捉える瞳が意味する事とは


「まじっすか!!!」


映画館出口手前にカズキがたどり着く場所に、タイミングを合わせ凶器同様の尾が振り下ろされる。

決してドラゴンの動きが速いわけでは無い。

ただカズキの動きを見て予測し、タイミングを合わせただけだ。

潰される前に急ブレーキをかけ難を逃れる。


これがA級モンスター上位の化け物だ。


デュラハンに勝てたから少しだけ、ほんの少しだけ強くなったと勘違いしていた。

あの時はA級冒険者のタカシがいて、カズキの動きに合わせ最適な動きをしてくれたから勝てたのだ。

ほんの数秒対峙しただけでわかる。


絶対に勝てない。


ネガティブな自分が久々に心の奥底から顔を出している。


ドラゴンが振り上げる前足の爪先がカズキを狙い振り下ろされた。

スピードだけは速いカズキは寸でのところで交わす。


しかしもう片方の前足がカズキが逃げた場所目掛け横凪に振るわれたので、ジャンプしてそれを回避する。

空中に飛び出したカズキを襲う衝撃は、先ほど上空から落下し天井に激突したそれとは比にならない。


「っふぐぅ」


尾の先に生える棘がカズキの硬化した身体に突き刺さり、衝撃のままスクリーンに衝突し壁を崩す。


ドラゴンから目を離すことができない。

離すなんて愚かな行いをすれば、死がカズキを迎えにくるだろう。


大きな口がカズキに近づいてくる。

後ろに見えるゆらゆらと揺れる尻尾の先には、カズキの右腕が刺さったままだ。


助けを呼びたい気持ちが歯の裏側まで来ている。

しかし、ユキやアツシがこのレベルが違いすぎるモンスターの元に来るのは嫌だ。

でも叫ばずにはいられなかった。


それでは久しぶりにお聞きください。


「誰かあああああ、たすけてえええええええ!!!」


それはそれは大きな声で劇場に響き渡ったのだった。

完璧にネガティブなカズキが心の奥底から踊りながら出て来たのだった。

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