第52話 ジンジャーエールは未成年にとってのビール
「ユキちゃん今日はありがとう。また頼むよ」
「こちらこそありがとうございました!」
「もうウチのパーティーに来て欲しいくらいだよ」
「またまたー」
緑を基調とした戦闘服に身を包んだユキは、更に着込んだ化けの皮を活用し爽やかな笑顔で返答した。
そんな笑みに当てられ冒険者は、更に勧誘の手を強める。
「いやいや本当に来て欲しいな、その支援と回復魔法は是非うちに欲しい!」
「じゃあ、うちのリーダーに勝てたら良いですよ」
「本当かい!?今すぐぺちゃん子を討ち取るぞ!」
「「「おおおおー!!!」」」
男まみれのパーティー【ソリューション】は、打倒ぺちゃん子を目標とし燃え上がる。
自身のパーティに紅一点を招き入れる為に。
「本当に面白いですね」
爽やかな笑みに隠れ悪魔は嗤い、更に焚き付ける。
他にもパーティーが沢山いる中、男達の雄叫びは止まらない。
⚪︎⚫︎⚪︎
「っ!?」
急に身を包んだ悪寒に身震いする。
その悪寒は、まるで男に抱きしめられた様な感触を伴っており、戦闘中にも関わらずカズキは振り向いた。
「どうしたの?よそ見なんかして」
「なんか誰かに抱きしめられた様な気がして」
「風邪?」
「いや体は至って元気」
蒼い勇者候補と、黒い聖騎士候補は2人でL級ダンジョン【ラゾーナ】の2階層にて、レベル上げをしていた。
2階層に出現するのはゴブリンレンジャーだ。
ゴブリンが様々な武器で武装し、集団行動を取ってくるゴブリンの上位種だ。
個体としては然程脅威ではないが、集団行動が厄介極まりない。
その脅威は1階層のボス オークをさえ上回る。
今も前衛後衛に分かれ、カズキ達の出方を見ている。
「階段ひとつ上がるだけで難易度上がりすぎだよな」
「たしかにね、でもレベルも経験も上がるから最高だよ」
「ポジティブですねー、そういやユキ大丈夫かな?」
「B級ダンジョンレイドだから心配だね」
「性格的な方で心配してんだよ!」
⚪︎⚫︎⚪︎
カズキ達はお金に困っている。
いくら特別指定モンスターを討伐し特別報酬を得て、大きなお金が入ったといえ、ケイコ社長との契約金5000万円には到底届かない。
冒険社【SKY】は、燃え上がる知名度と3ヶ月半額キャンペーンにより、人気を得た。
おかげで月に3〜4回【踏破】依頼が来る様になった。
それでも装備を揃えたり、その維持費、また生活費も相まって5000万から遠ざかる一方だった。
ケイコ社長に大見得きったは良いものの、たったの2ヶ月にして行き詰まっていた。
そんな6月の中旬、3人は茶の間でまったりとしていた。
決して焦ったからといい、何かが変わるわけでも無いからだ。
「こ…こっこっここここ」
「こ?」
「ここここここ」
「ニワトリにでも進化したの?」
3人でテレビを見ていた中、急に発作の様に「こ」を連発するカズキに、アツシとユキは疑問を抱くが、その視線は決してカズキに向かずテレビに集中している。
テレビの中では優柔不断な主人公が、己の心の穴を埋める為にレンタル彼女を申し込み、レンタル彼女と関係がもつれ、繋がる甘酸っぱい物語が今も流れている。
「これだあぁぁぁー!!!」
何の脈絡もなく「こ」の発作を出し始め、急に立ち上がり雄叫びを上げるカズキを見た幼馴染2人は、さすがに言葉さえも失い、カズキを心配そうに見る。
「辛い事でもあったの?」
「私も強く当たりすぎたね。ごめん、辛い事があったんだね」
「ちげーよ!思いついたんだよ妙案を!」
「なんの?」
「【踏破】と【探索】だけじゃ5000万に届かないだろ」
「そうだね」
「そこで、これだよ!」
カズキの人差し指が指す方向では、可憐なレンタル彼女が物語の主人公の心を鷲掴みにしている。
「はあ?私にレンタル彼女やれってんの!?」
「ちげーよ…いや違くないか。俺らじゃC級ダンジョンの踏破依頼しか来ないだろ?でもA級やB級は報酬がいい」
C級の踏破報酬は、依頼者の支払いと国からの報酬で大体50万円なのに比べ、B級は300万円、A級は1000万円と一気に上昇する。
その分、ダンジョンの規模も危険も上昇するので、B級からは複数パーティーで挑む事になる。
カズキ達が行くS級ダンジョンの浅瀬に比べたら、特別指定モンスター等のイレギュラーがない限り、B級ダンジョンの方が危険度は高いらしい。
ならばB級以上の踏破依頼も募集すれば良いのではと、話し合いにも上がった。
しかしB級以上を受けるなら、パーティーが複数必要でカズキ達が受けるには、他のパーティーに協力依頼をしなければならない。
その依頼料等の差額を考えると今の所、C級ダンジョン踏破が【SKY】のスタイルとして適切だ。
「んでユキの出番だ」
「まわりくどいんだけど」
「ユキの支援魔法はかなり希少なスキルだから、B級以上の踏破に貸し出すんだよ」
「なるほどね、後方支援だし余程のことがない限り安全だろうし良いかもしれないね」
「私だけ出稼ぎに出されるってこと?」
「いや一応全員貸し出し可能にする予定だけど、スキル的にユキの需要が高いと思う。1回の依頼受けたら、そいつに特別報酬って感じにすれば文句も減るだろ」
「まあそれで5000万に届くなら私は良いけどさ」
こうして冒険社【SKY】のレンタル冒険者という新たな事業が始まった。
もちろん宣伝の画像や、HPの編集をお願いしないといけないので、カズキ達はお団子お姉さんの元へ来ていた。
「なるほど案としてはかなり良いと思うけど」
「「「けど?」」」
「私にHPの編集しろとか言いに来てないよね…みんな笑顔が怖いんだけど!なんか言ってくれない!?」
【青空】の3人組は笑顔でサヤに近づき、紙を突き出した。
その紙面には『第一条 一年間甲は乙が創業する事業への支援を怠らない。』と書き込まれていた。
「……わかった、わかりましたよー!!!」
「「「よろしくお願いしまーす!」」」
「ああああ!あの時もっと真面目に止めていればよかったー!!!」
お団子から煙を上げながら、契約が結ばれた瞬間の事を鮮明に思い出すサヤは、ものすごい勢いでHPを更新していく。
「みんなの顔写真撮るから並んで!」と宣材写真を撮ったのだが、これがカズキの脳内で物議を醸した。
ユキとアツシだけビジュアルが良すぎて、なんだかHPに映る自分の写真だけ遺影みたいだ。
少しだけ、少しだけこんな顔のいい幼馴染を持った人生を呪ったのだった。
◯●◯
「ぷふぁー仕事終わりのジンジャーエールうまーい! マキさんがビールに取り憑かれてるのも、なんかわかる気がする」
風呂から上がったユキはいつもどおり、スウェット生地のショートパンツに丈の短いキャミトップを着用している。
腰に手を当ててコップに注いだ黄金の液体を一気に飲み干したユキが、歓喜の声を高らかに上げた。
「お疲れ様ですユキさん!」
「おうおうカズキ君もお疲れ様」
「今日のB級ダンジョン踏破はどうでしたか?」
「なんか後ろで支援魔法かけてるだけで、お金も経験値もこんなに貰って良いのかなって思った。あんなんなら毎日行っても良いわ」
「それ人前で言ってないよな?」
「さすがにそこまで馬鹿じゃないよ」
「ありがとうございます!生まれて初めてユキの必殺猫被りに感謝した気がする」
さすが猫を被り続け生きてきただけはある。
「馬鹿にしてんだろ」
「してませんよ」
この後、いつものキャットファイトが始まったのは言うまでもない。
そうして始まった冒険者レンタルサービスはユキの猫被りの成果もあり、良い口コミが入った事で波に乗るのであった。
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