第50話 口コミがその店の全てを物語る
猫をかぶる
それは本性を隠し自分の印象を操作する術であり、この世に生きる人間が一度は行ったであろう。
見せる事が不利益となる本性を隠し相手にとっても、自分にとっても都合のいい姿を演じるソレは、最終的に不利となる事もある諸刃の剣。
今目の前でそんな諸刃の剣を担ぎ上げ、何重にも化けの皮を被った自称聖女は依頼者と対峙する。
「そうなの?頑張ればきっと君も冒険者になれるよ!」
アツシが依頼主夫婦へ踏破の詳細報告を行う中、ユキは夫婦の息子と接していた。
きっと小学生の高学年くらいの少年は、冒険者を夢見ているらしい。
「だって私でもなれたんだから!」
そう言って少年の追う夢を、後押しする明るく爽やかな笑顔は、何を悪魔に差し出して得た特殊スキルなのだろうか。
外側だけは良いユキの笑顔に当てられ、少年の頬が赤らむのを見てカズキは頭を抱える。
少年よ。
悪魔に心臓を捧げる覚悟があるなら応援するぞ。
見た目や話術を使い、人間を堕落させるのが悪魔の常套手段なのに、目の前の少年はしっかりとその手のひらで転がされ始めている。
依頼者の前じゃなきゃ自称聖女の脳天を引っ叩きたい。
「この度はご利用ありがとうございました!」
「またねユウスケくん!」
しゃがみ込んで自分の目線を少年の目線に合わし、別れの挨拶をするユキは女子力がバグっている。
少年の頬の赤らみが拡大し、顔全体を覆う。
その羞恥心を子供ながらに隠そうとした少年の矛先は、ユキから大きく外れる。
「ま、またね!ぺたゃん子もまたな」
「おう!またな」
依頼者夫婦はカズキ達にお礼をし、少年と共に家に入っていった。
その顔は笑顔で満足していた様に見える。
「っぷ…はぁーっあはははは!」
「おい。なんで笑ってんだよ気持ちの良い最後だったろ、なあアツシ」
「そうだね。ごめんカズキ」
同意をした癖に肩を振るわせ笑いを堪えるアツシと、爆発した笑いを止められないユキ。
間違いなく少年が最後に残した言葉によるものだろう。
「あー笑った!依頼者達が家に入るまで我慢するのに必死で呼吸できなかったわ」
「うるせーよ!あのガキ引っ張り出して人生の厳しさ教えてやる!」
「やめなよカズキ」
「止めるなアツシ!この感情はどこかに吐き出さないとダメなんだ!」
腹の底から湧き上がる感情が、カズキの血管を圧迫している。
今にも吐き出さないと爆発してしまいそうなほどに。
「ユキに吐き出していいから依頼者だけはやめて!」
「アツシさん!?」
ユキの後引く笑いはアツシの手のひら返しにより止まったが、それにより更に燃え上がる事となった。
「ぐべしゃっ」
「ユキさん!?」
怒り狂うカズキが殴り飛ばされ、アツシの目が驚きにより見開かれる。
もうあと一押しで眼球が転げ落ちそうだ。
「やられる前にやる!」
「ぜってー許さねえクソユキ!」
「上等だバカズキ!」
謎の理論で加害者方面の人間が、先に拳を握り振り切ったのだ。
それにより両者の心のゴングは鳴り響き、猫のじゃれあいの様な喧嘩が始まる。
そのじゃれあいも「2人とも!」とアツシパパの一喝で終焉を迎えた。
この日のカズキ達【青空】の口コミは、ホームページはもちろん依頼者夫婦のSNSにも投稿された。
要文すると、ダンジョン化する前より家が綺麗になっていた。
それにアツシとユキの、容姿と接客がとても良かった。
そして
ぺちゃん子は動画で見るよりも普通の人だった、と。
タイキとのゴブリン討伐勝負の動画により、カズキの人間性を不安に思う人が大多数だろう。
そりゃあ勝利して相手を、「きっもちいいいぃぃぃぃぃぇぇええあいい!!!」なんて奇声を上げながら煽り散らかしているのだから、仕方がない。
そんなSNSの投稿は拡散され、カズキ達の燃え上がる知名度という炎を大きくした。
燃え上がり続ける炎により、依頼が沢山くる事をカズキ達はまだ知らないのだった。
◯●◯
「えーこうして実験体07番は【青空】によって討伐されました。はい」
研究員は実験体07番と呼ばれる何かが、【青空】と呼ばれるパーティーにサンドマンやデュラハンをけしかけ、体力を削ったのにも関わらず、敗北し討伐された事を報告した。
「その冒険者は実験体に関して、討伐した以外の情報は世に流していないのか」
「今のところは無いですね」
「そうか、【青空】というパーティーを新しく監視対象に入れておけ」
「ええ、私が手配するんですか?」
上司が研究員を睨み上げると、研究員は両手を上げひらひらと降参する事を示した。
「あーわかりましたよ!だから仲良くしましょって」
そうして冒険者パーティー【青空】は監視対象となった。
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