第48話 ドロップアイテムで方向性って簡単に変わるよね
視線が痛い。
7年前なら銃刀法違反で即連行されていたであろう。
約束を果たす為、人通りの多い川崎の銀柳街にて歩を進める。
ヒソヒソと声が聞こえて来るので、聴覚をシャットダウンさせる。
その声が今のカズキの状態を見て出されたものなのか、それとも名誉によるものか。
目的地に到着し、開け慣れた古めの引き戸を開けレジに進む。
これまた慣れた手つきで呼び鈴を叩く。
「あれ故障かな?」
叩けど叩けど鳴らない呼び鈴を連打する。
「誰もいないのかな?」
しかし鍵が開いているから、誰かいるだろう。
壊れた呼び鈴を押しながら待っていると鬼の形相をした大将が、レジ後ろの襖を開け放ち現れた。
その瞳を囲う白目に走る赤が、何を表すか。
近づいてきた大将が胸ぐらを締め上げ、大きな口を開けてきた。
「ーーーーーー」
「ん?」
「ーーーーーー」
もしかして…
聴覚をシャットアウトしたままだ。
最近外出するたびに色々あって、スライムの身体なら聴覚を任意で無くせるのではと、疑問に思いやってみたら出来たのだ。
やはり人間やればできるのだ。
はたして今自分が人間なのかはさておき。
聴覚を復活させる。
頬を叩く大将の鼻息が、聞こえてくる。
もしかしてと思い、手に握る呼び鈴を押してみる。
チーン
「てめえ喧嘩売ってんのか?」
呼び鈴の音は、大将にとって開戦のゴングとなり、カズキには己の死を悼むおりんの音となった。
「申し訳ありませんでした!!!」
全力だった。
大将が掴む胸ぐらの服が引きちぎれても関係ない。
デコを硬化し、雷を循環させ高速で土下座をぶちかます。
「今のなんの音!?」
カズキの全力の謝罪により、店頭にハズキが召喚された。
疑問を貼り付けた顔面が、驚きに上書きされる。
「どんな状況!?」
地面に顔をめり込ませながら、最大級の謝罪である土下座をするカズキと、怒りにより血走った祖父が謎の布を握りしめ立ち尽くしている。
「あの、その色々あってデュラハンの大剣を手に入れたので持ってきましたです。はい」
「ええええええ!?」
今だに血走る大将の視線が突き刺さっているが、壁に立てかけた大剣を持ち2人に見せる。
「うっわおもっ」と言いながら大剣を隈なく見つめる、ハズキも血走り始める。
「そんな事があったんだ……みんな無事でよかった」
「まあ約束したんで見せれればなって」
「ありがと!」
嬉しそうな笑顔が更に上書きする。
S級ダンジョン【東京】での出来事を話し終えると、大将が近づいてきた。
「これをどうするつもりなんだ」
「なんの予定もないですね。でかいし重いしパーティーメンバーが使える様になれば使うかなって」
「ハズキ、てめえが打ち直せ」
「打ち直す?」
「そいつを依頼主が使える様にすんだ。やれ」
「う、うんやってみる」
俺の所有物なのに、話がどんどん進んでいき置いてかれている。
なんだろう、この状況。
「小僧、それで良いだろ」
「え、まあいいですけど」
「こいつの修行として使うから金はいらねえ。どんな武器に仕上げて欲しいか教えろ」
「は、はい」
だから何なのだこの状況。
お願いされてるはずの立場なのに、圧迫面接を受けている様な感じは。
「お願いします」
「じゃあ出来たら連絡するね!」
こうして何回も会う仲だったのに、初めて連絡先を交換した男女は、他愛もないメッセージを毎日送り合う事になった。
ホームに手ぶらで帰ってきたカズキは幼馴染達に問いただされた。
「え、なんでA級モンスターのドロップアイテムもTシャツの首周りも無いのよ」
「僕にも詳しく教えて欲しいな」
「色々あって大剣は強制的にお嫁へ行きました」
「は?意味が全くわからないんだけど」
「ですよねー」
噛みついてくる怪獣に大将の横暴を、ハズキとのやりとりを詳しく説明した。
「だからアツシは武器を買い換えんなよ」
「わかったよ楽しみにしておく」
「えーアツシだけずるー!今回アツシばっかじゃん!」
怪獣がゴネる気持ちも少しわかる気がする。
それもそのはず、今も茶の間に置かれる漆黒の鎧もアツシが使う事になったのだ。
デュラハンは頭部以外を綺麗に残し光の粒子となりドロップ品を多く残した。
本人は「あんま黒は好みじゃないんだけどな」なんて言っていたが、残ったドロップ品は、スピード重視のカズキと相性の悪いゴツゴツの鎧なので自動的にアツシが使う事になった。
デュラハンの鎧は大きく、アツシが使える大きさではなかった。
しかし、アツシが装着する意志を示し触れると、ピッタリサイズに縮んだのだった。
装着したアツシを見たパーティーメンバーの反応といえば。
「9割モンスターだな」
「勇者パーティーに魔王っていいの?」
前向きではない意見をぶつけられた聖騎士候補の魔王は、悲しげな声を漏らした。
「僕だって聖騎士的な感じを目指してるんだけどなあ」
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