第43話 封印されしモンスターは決闘を勝利へ導く
S級ダンジョン【東京】に入り、サンドマンを討伐しながら進む事3時間が経過した。
一同はお目当ての下北沢に到着していた。
「かなり荒らされてんな」
「考えることはみんな一緒ね」
「S級ダンジョン内で誰が盗んだとか特定出来ないもんな」
おしゃれなカフェや古着屋が沢山並んでおり、休日問わず人通りが多かったメインストリートは、ゴーストタウンと化していた。
目を閉じると昔3人で来た時の光景が思い浮かぶ。
店舗の閉じられたシャッター達は、無惨にもこじ開けられたり穴が開けられており、過去に冒険者が探索ついでに物色したのだろう。
「おじゃましまーす」
「おいユキ、モンスターいるかもしれないから勝手に入んなよ!」
穴の空いたシャッターに吸い込まれていくユキを追いかける。
ユキは昔から服の事になると真剣になる様で、バカになる。
時間を忘れるならまだしも財布の残金までわからなくなり、レジ前でカズキやアツシによく頭を下げお金を借りていた。
興味のないカズキには理解のできない行動だ。
「これ可愛い、うわこれも!」
「意外と服残ってんな」
シャッターの穴と、窓から差し込む日差しにより店内は意外と明るい。
「きっと大量に持ち出すと荷物になって戦闘に影響が出たり、ドロップ品を持ち帰れなくなるからじゃないかな」
「なるほどねって、何だその服装」
「何って持って帰んの、帰るぞ野郎ども!」
いつもの緑ジャージの上に、大量に服を着込み膨れたユキがテンションをぶち上げ、高らかに帰宅宣言をした。
しかしアツシの説得という名の説教を10分受け、ジージャンと帽子のみ来て帰ることが許された。
「ちぇーもったいなかったなー」
「何かあったらどうするの?」
「もう等々力まで帰って来たのに、何も起きなかったじゃん!」
不貞腐れるユキを論するアツシという珍しい構図が出来上がる。
俺らが言い合ってる時、アツシはこんな気持ちなのか。
2人の仲が良いからこそ起きる衝突は見てて心地が良く、自然と口角が上がる。
どんな表情してるのかなっと
「んんん?」
先頭を歩くが故、見ることの出来ない2人の表情を見るべく振り返ったカズキの目に映るのは、空飛ぶ茶色い小さな拳だった。
それはゆっくり大きくなっていく。
わかった
あれは大きくなってきているんじゃない。
飛んできていますね。
「何か飛んできてるぞ!」
皆が一斉にカズキの指差す方向を見る。
自分に何か物が飛んできている時は、その方向と直角に逃げるべきだ。
平行に逃げると思いのほか当たる可能性がある。
陸上競技の槍投げの審判を手伝った時に学んだ知識だ。
カズキの身長くらいある拳が着弾し、勢いのままアスファルトを数メートル捲り削って止まった。
運がいい事にかなり距離がある状態で気がついたので、簡単に回避ができた。
「なんだこれ」
「岩でできた右手だね」
まんま見た通りの岩でできた右腕だ。
肩まであるそれは、5m以上あるんじゃないだろうか。
有名なA級上位のモンスタービックゴーレムの物だと、魔物に無知なカズキでさえわかる。
その握られた拳が力無く開かれた。
「サンドマンの核?」
黒い10cm程度の黒い水晶が、手のひらから何個か転がり落ちてきた。
見間違えるはずも無い、今日嫌というほど戦った魔物の核だ。
「これって砂がないと無意味なんじゃない?」
「確かに、核だけってどうなんの?」
「私が知ってると思う?なんか嫌な予感がするから今のうちに割っとこ」
「天才かよ」
薄暗く光る水晶を刀で斬ろうとした瞬間だった。
大きな拳から岩が核に纏わり付き、形を変えていく。
「やばっ」
急いでアツシと1個ずつ核を破壊したが、間に合わず2個取り逃がしてしまった。
拳から岩を吸い出した核は、3m程度の岩の巨人となり立ち上がる。
「さがれスモールゴーレムだ!」
サンドマンの上位種であるスモールゴーレムとなったそれは、腕の先にサンドマンとは比にならない巨大な石をつけている。
石なんて可愛い物じゃ無い、岩だ!
スモールゴーレムが振るった腕はアスファルトを抉り、カズキ達に迫る。
「サンドマン戦法は通じないだろうね」
「アツシが岩でも貫けるってなら囮になるけど?」
「絶対むり!」
相談なんてさせてくれるはずもなく、2体のスモールゴーレムは腕を振るう。
サンドマンの時からそうだったが、刀で受け止めることが出来ないのが厄介だ。
もしその攻撃を刀で受け止めたのであれば、刃こぼれどころの話じゃ済まないだろう。
『刀を大事にすることだ。これが守れねえやつは俺が殺す。その手に持っている刀を刃こぼれひとつでもさせてみろ。あいつはヘラヘラして治してくれるだろうが、俺は違う。その日のうちに俺が墓に埋めてやるから覚悟しろ』
長いセリフだったのに、脳内に一言一句逃さず刻まれた大将の言葉が自動再生される。
核を直接叩かないと俺の命は、大将に刈り取られるだろう。
サンドマンより肉体がしっかりしているからか、スピードも早い。
アツシと各1体引きつけ攻撃を交わし続ける。
アツシは交わすというより、走って逃げているけれど。
ゆっくりとスモールゴーレムの動きに目が慣れてきた。
戦闘経験を積むことで、ステータスだけ成長していたこの体を、使いこなせる様になってきた気がする。
「ここだ」
スモールゴーレムの猛攻を潜り抜け、スライディングで股下を抜け背後に周る。
サンドマンとは違い核が少ししか飛び出していない上、身を守る様に格子状の岩で保護している。
「信じるぞハズキさん!」
他力本願な掛け声と共に、大きく振りかぶった刀をコア目掛け振り下ろす。
斬ると決めたら止められない!
うまく行かなきゃ大将に殺されるだけだ。
ビビりながら振り下ろした刀は、意外にもすんなりと岩の格子を切り開き、核を斬り割った。
力なく倒れるスモールゴーレムがアスファルトと衝突し砕け散った。
「すげえ」
自分が握る刃と、大将が教えてくれた斬る技術に感動する。
ふと我に返り振り向くと、スモールゴーレムの攻撃範囲に入らない様、アツシが鬼ごっこを繰り広げている。
ダンジョン内じゃなければしばらく見ていたい気持ちもあるが、ここはダンジョンだ。
一大事があってからでは遅い。仕方ないので助けに行く。
「あ、っはあはあ…ありがとうカズキ」
「なんもよ」
「どうしたのユキ?」
普段もマヌケだが、ポカンと口を開け更にマヌケな顔をしている。
その手が上がり空を指差す。
「またかよ…」
次は岩で出来た左腕が迫ってきていた。
「S級ダンジョンやべえな!」
「とりあえず回避して握られてる核を割ろう」
左腕の着弾で揺れる大地を急いで走り、拳が開くのを待っていると更に大地が連続して揺れた。
また何かが降って来たのだ。
見渡すと少し離れた位置に、落ちる岩で出来た両足がアスファルトに突き刺さっている。
「まじ?」
「嫌な予感どころじゃないよね」
「逃げよう!」
今、上空でカズキ達に迫る大きな岩が揃うとどうなるんでしょう。
きっと【封印されし】と語頭についた最強のモンスターの様に、合体して襲ってくるんじゃないですかね?
全力で走りダンジョンの入り口である橋に辿り着いた一同を待ち受けていたのは、己を焚き付ける青い炎を纏った生ける屍だ。
「空飛ぶゴーレムの次はデュラハンかよ…」
A級モンスターの中でも上位のモンスターが、カズキ達を挟み込みんだ上に逃げ道を塞いだのだ。
さすがにタカシも武器を構え戦闘体制となる。
「俺がデュラハンに隙を作るから逃げろ」
走り出すタカシをデュラハンの大剣が横薙ぎに狙う。
大きく飛び上がり回避したタカシは苦痛の声を漏らした。
「なんだ、と?」
タカシの背中に黒い何かが衝突したのだ。
A級モンスターがその隙を見逃すはずも無かった。
大剣を振り切ったデュラハンは拳を突き出し、タカシの体を殴り飛ばした。
カズキ達の前に飛ばされてきたタカシの体には、サンドマンの核が岩と共に纏わりついている。
タカシは即座に核を割り、己に纏わりつく岩を皮膚と共に引き剥がす。
そんなタカシの左腕は曲がってはいけない方向を向いていた。
「タカシさん!」
ユキが近寄り治療魔法をかけるが、今のレベルでは短時間で回復する事が出来ない。
流れる血が止まり痛みが緩和された頃、アツシは回復魔法を止め立ち上がる。
ゴーレムの体が飛んできた時とは違い、カズキの体を恐怖が包み込んでいた。
さっき飛ばしてきたビックゴーレムの右腕をオモチャの様に回す、醜いモンスターがカズキ達の背後で嗤っているのだから。
カズキはビックゴーレムが己の体を飛ばしていると勘違いしていた。
体が揃う時、それらが合体しビックゴーレムになり襲いくるのだと思っていた。
しかし違った。
その狡猾なモンスターは、カズキ達に自分が倒したビックゴーレムの体と、集めたサンドマンの核を投げつけ弄び、方法はわからないが出口にデュラハンを設置し逃げ道を奪ったのだ。
その醜く瞼のない4つの瞳が、カズキ達を舐める様に見つめていた。
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