第40話 ドロップ率という永遠の課題
カズキ達はS級ダンジョンを理解していた。
東京という広大な土地を飲み込み、誕生した世界三大ダンジョンの恐ろしさを。
しかし、この後に起こる危機を避ける術は無い。
そのモンスターは静かに獲物が来るのを待ち続けているのだった。
「本当はもっとラゾーナでレベリングするべきだと思うんだけど、社長がS級ダンジョンっていうから渋々連れていきまーす」
社用車のハンドルを握るお団子お姉さんのサヤが、嫌そうな顔で素直な気持ちを吐き捨てる。
「ずいぶんストレートな言い方ですね」
「そりゃあC級冒険者が行く場所じゃ無いからね」
「ですよねー」
「でもA級のタカシが着いて来てくれる間に、経験を積んで欲しいんだろうね社長は」
数日したらカズキ達は自分達で会社を立ち上げ、自分達だけの力で稼がなければいけない。
ケイコ社長はそんなカズキ達に可能な限りの経験を積ませようと思っているのだ。
C級ダンジョン踏破やL級ダンジョンでレベルが上がり、いずれカズキ達のみでS級ダンジョンに挑む時、間違えを犯さない様に。
「ずいぶん遠回しな優しさですよね」
「昔から不器用なんだよねあの人は」
今の言葉は娘として母親であるケイコに当てた言葉だろう。
すたれた河川敷に到着した一同は車を降りる。
ここは多摩川の河川敷で、世界にダンジョンの毒牙が沈み込む前は平日でも多くの人がいた。
「この橋を渡ったら東京だから気を引き締めてね。今回もタカシは監視役としてだから自分達で探索するように!」
やはり親子なのだろう。
ケイコ社長と似た言い方をしてカズキ達を送り出す。
「じゃあ陣形は昨日話した通りで行こう」
昨日の夜、S級ダンジョンに挑むにあたりカズキ達は話し合ったのだ。
今までC級ダンジョンは戸建の家で、陣形もクソも無かった。
しかしS級ダンジョンは土地に巣食う最凶のダンジョンであり、モンスターが四方八方から襲いくる危険性がある。
何かあってもスライム化で大事にならないカズキが先頭となって、その3歩後ろくらいに支援魔法を使えるユキを護衛する形で、アツシとユキが並ぶ。
これが移動時の陣形で、戦闘時はカズキとアツシが前衛で戦い、後衛のユキが支援をする形になる。
後衛がもう1人欲しいと切実に思う。
「いや橋渡ってる時から薄々見えてたけどモンスターいすぎじゃない?」
「カズキのすね毛並みにキモい量いるわね」
「うっせーよ早く支援しろウンコ」
「はあ、バカズキにはデバフかけるから」
「2人とも!!!」
アツシの注意が開戦の合図となった。
ユキが新しく新調した杖に魔力を流し、支援魔法をカズキとアツシに掛ける。
ステータスが1.2倍になるバフがかかる。
小さく見えるかもしれないが1.2倍はかなり恩恵がある。
もし仮に幅跳びで10m飛べたなら12mに伸びるのだ。
「いくよカズキ、昨日話した通りユキから離れすぎない様に気をつけてね」
「わかってるよ!」
駆け出す2人を待ち構えるのは、2種類のモンスターだ。
武装したスケルトンの上位種アーマードスケルトンの大群と、額が岩になっている猪型モンスターガンチョウだ。
「猪はまかせろ!」
猛突進してくるガンチョウをカズキが受け止める。
硬化のスキルで体表を高質化させ、中身はふわとろスライムにする事で衝撃を受けても爆散しない上、内部のスライムで衝撃を拡散したのだ。
「あ、やば。うわぁぁぁぁー」
衝撃は殺せてもガンチョウが踏み出す脚力に勝てず、カズキもろとも再び走り出す。
アツシはアーマードスケルトンが大量に襲いくる中、確実に1匹ずつ倒しているというのにカズキはガンチョウと共に消えていった。
「あのバカ…どうするアツシ!」
「ユキも剣を抜いて戦って」
早速崩れる陣形にアツシを頭痛が襲う。
本来なら回復役のユキを守らなければいけないのに、開戦1分で前線に召喚したのだから。
「どけどけどけー!!!」
遠くから聞こえる聴き慣れた叫び声が注意を促す。
両耳をハンドルの様に抑え、体を眼前で左右振る事でガンチョウがカズキを狙う為に方向を変える。
それを利用して上手く乗りこなしているのだ。
しかも大声で釣り上げた大量のアーマードスケルトンというオマケ付きで。
「うげえ何やってんのあのバカ!」
「ユキこっち!」
察したアツシに合図を送り、アーマードスケルトンから距離を取る。
そこを通り抜ける額が岩のモンスター。
先ほどまで元気に動いていた骨の戦士達は、粉々に吹き飛び光の粒子に変換されたのだった。
その経験値はもちろん戦闘に貢献した分だけカズキ達にも還元される。
カズキの大声が引き連れてきた大量のアーマードスケルトンは、アツシとユキが追い込み一纏めにしたところで、カズキとガンチョウペアが轢き殺す。
そんな最強の布陣により短時間で大量の経験値を得たのだった。
アーマードスケルトンを3桁討伐した功労者を無慈悲に討伐した3人は座り込んでいた。
「結局ガンチョウが1番手強かったね。僕レベル3つもUPしたよ」
「私も、あと暫くスケルトン見たく無いわ」
「よーしドロップアイテム見にいくぞ野郎ども!」
追い込み漁で走り込んでいた2人が上下に肩を動かす中で、余裕の表情なカズキは速る気持ちを全面に出す。
「ごめんちょっと待って」
「1人で行ってこい」
動く意志を全く持たない2人組から離れ、1人で戦利品を探しにいく。
まてよ、今の2人を襲うモンスターが来たらどうなるんだ?
「タカシさんいるからいいか」
楽しげに歩くカズキの右肩に衝撃が走る。
敵襲かと思い脳内のスイッチを切り替え、周囲を警戒するとアツシ達の後ろに立つタカシから殺意を感じる。
「……」
「……」
悔い改めようと思いました。
右肩に深々と刺さるアツシの短刀を抜きながら懺悔した。
「これが今回の戦利品です!」
カズキが皆の前に戦利品を展示した。
太くて大きい骨が1本、小さいのが3本、そして頭蓋骨が1個だ。後は魔石が15個。
「すっくな横領してんじゃないの?」
「バカいえ」
「たしかに100体以上倒してこれは少ないね」
「でもゴブリン討伐耐久レースしても魔石しかドロップしないって思うと、妥当なんじゃないのか」
想像以上に下回るドロップ率に頭を抱える3人は、更にS級ダンジョンを探索することを選んだのだった。
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