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第38話 夕焼けの想い

「なるほどね自宅の庭にダンジョンが出来てコツコツ1人でレベリングしていたのか」


「だからあんなに強かったんだ」


「はあ?せっこ教えてくれればいいのに」


カズキは1人だけ立ちながら、スライムとの思い出を事細かに説明した。

椅子が3個しかないから仕方ないが、何故家の主人が立っているのかと心の中で悪態をつく。


「正直2人には話そうと何回も思ったけど」


「けど?」


「自分の経験値が減るのに耐えられなくて」


「はい殴る」


「いった殴る宣言する前に殴る奴がいんのかよ!」


「私ことユキ様がいますけど何か?てか打撃、痛覚無効なんだからいいでしょ」


「いた!衝撃はくんだよ、殴んなおい」


カズキに痛覚無効があると知った途端、手加減無しに本気の拳を振り抜くユキに、オーディエンスの2人は苦笑いしか出来なかった。


「冒険社アースの試験で取得した隠蔽でカズキ君のステータス見えないんでしょ?今レベルいくつなの?」


「んーと…です」


「え?聞こえないよ」


「レベル39です」


「「「ええええええええ!!!」」」


そりゃあビックリしますよね。しますとも。

俺だって驚いてるからね。


「私だってレベル29なのに」


「えハズキさん29なの?私とアツシなんて14だよ」


「隠蔽といて僕たちにステータス見せてよ」


「仕方ないなー」


カズキが持つ少ないスキルの1つ【隠蔽】を解き、ステータスが露わになる。


佐倉和希  人間

LV:39

HP:60

MP:302 

STR:280 

VIT:12

AGI:80

SP:19


スキル一覧

・スライム化 ・雷 ・硬化 ・隠蔽   


我ながら誇らしいステータスだ。


「すっっご」


「僕たちのステータスとはレベルが違うどころじゃないね」


「あのパワードスーツに勝てるのも頷けるね」


3人とも驚愕していた。

すこし、すこしだけ鼻が聳え立ち始める。


「なんか偏りすごくない?MPとSTR以外低くない?」


「わかってないですねユキさん」


「ちっちっちっ」と指を振りながら指摘するカズキに、うんざりするユキ。


「ステータスってレベル34から35になれば35ポイント貰えて、その人に合わせて自動的にポイントが割り振られるんだよ」


「知ってるよそんなの」


「んでここからが本題です。俺は硬化があるからVITは必要ないし、雷でAGI、スライム化でHPもカバー出来るんだよ。だから他にポイントが振られて歪なステータスになってるんだと思う」


「せっこ」


「てか俺だけ色々聞かれるのもずるいだろ。2人だってレベル10越えたんだから、スキル手に入れたんじゃないか?」


この世にステータスを手に入れる方法は色々あるが、誰しもがレベル10になると、ランダムでスキルを入手できる。

そのスキルは、本人の性格や本質を読み解き最適格な物が与えられる。

しかしカズキはレベル10になった時、何故だかスキルを取得できなかった。

これに関しては理由が不明だ。


「私は【治癒】と【補助魔法】。やっぱ聖女になれって神に言われてるんだよ」


「僕は【選択】って変なスキルだった」


「お前が聖女ってのは神様は何も見えてないな。表面ってか薄皮しか見てねえよ。てか選択って何に使うんだ?」


「いやアツシのスキルすごいんだって、レベルアップした時の強化ポイントを自分の好きな項目に自分で割り振れるんだよ。だから私もレベル11から好きな項目のポイントあげてるんだ」


聞き捨てならなかった。

好きなステータスの項目に強化ポイントを割り振れるだって?

そんなのチートじゃないか、魔法職ならMPに全振りしたら化け物になる。

好きな動きができる様になるってことだ。


「なんでユキちゃんも選択のスキル使えてるの?」


「さすがハズキさんお目が高い、アツシとパーティー組んでると恩恵が得られるみたいなんですよ」


「それだと俺もアツシとパーティー組んでるうちにレベル上がったぞ?」


「僕が選択を手に入れたのは昨日だからね。カズキはハズキさんの家で修行中で気づけなかったんだろうね」


「なるほど」


「まあカズキが強い理由もわかったし、寝たいから帰るかな私は」


「僕も一緒に帰るよ。カズキは実家に残るの?」


「いや俺も帰るけどハズキさん送ってくるから、先に帰っていいよ」


「もしかして今日も朝帰りですか?お熱いですねー」


「ちげーよバカユキ!ジャージ取りに行くんだよ」


「どうだか」


ニシシと笑うユキが秘密基地ダンジョンから出た後に、大声でマキに帰ることを伝えお開きとなった。

4人は2人ずつに別れ帰路に着く。


「カズキ君、今日はごめんね」


「え?なにがですか」


「足を引っ張っちゃって…」


申し訳なさそうにハズキは俯き歩みを止めた。

何を言っているのかわからない。


「ハズキさんがいなかったらギャル女が、ユキに何するかわからなかったんで助かりました。ありがとうございます」


本心を伝える。

カズキのかけがえの無い宝物を身を削り守ってくれたのはハズキだ。

もしユキに万が一のことがあれば、あそこでアツシがカズキの怒りを鎮火出来なかったかもしれない。

そう思えばハズキは今日1番の功労者なのかもしれない。


「ふふっ可愛いとこもあるんなあ、もう」


肘で脇腹を小突かれる。

ユキと幼馴染で本当に良かったと思う。

今の小突きはズルすぎる。美少女耐性が無かったら惚れていただろう。

なんだあの赤面しつつも嬉しそうな表情は、話を変えないとやばい!


「刀ってどれくらいの頻度でメンテナンスしたらいいですか?」


「それはもちろん使ったらだよ」


「じゃあモンスター倒したら毎回見せに行きますね」


「う、うん楽しみに待ってる」


ハズキは友人との絆を育まず生きて来たので、男の子に耐性が無かった。

少しの優しさ、約束で自分の感情に勘違いしてしまうほどに。

勘違いさせた当の本人は気づく事は無いだろうが。


「今日はありがとうございました。また頼みます」


カズキはジャージに着替え店先で感謝を述べた。


「じゃあまたね」


「また!」


今日少女は危機的状況を彼に救われ、親しくなった彼とまた会う約束をして別れを告げた。

胸が張り裂けそうになる淡い感情が、身体の芯から溢れ出し少女を赤く染めた。

しかし夕焼けが少女の紅潮した頬を照らし帳消しにしたので、振り向きながら手を振る彼がそれに気付く事は無かった。

最後までお読み頂きありがとうございます。


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