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第33話 親子喧嘩の生放送

「はい皆さんこんにちはー!今日はL級ダンジョン【ラゾーナ】第1階層で、レベリング生放送を行いたいと思いまーす」


カメラのレンズが向けられた男は、意気揚々と挨拶をして今日のテーマを発表する。


「ここが受付で綺麗なお姉さんが対応してくれます。注意事項とか沢山あるので利用される方は、よく確認して下さい」


「うわー遺書とか書かなきゃいけないんだ」


「レベリング専用ダンジョンで危険が少ないといえ、危険が無い訳では無いからですよ」


男が説明していく隣でリアクションを取るギャルがいた。

それに淡々と事実を突きつけるメガネ男もいる。

このネット配信グループは、どうやら3人組らしい。


「この時期の1階層は利用者数が少なくて、ゴブリンの数が多いらしいんで気合い入れてレベリングしようと思いまーす」


3人が階段を談笑しながら降っていく。

開けた階層に見えたのは、ゴブリンが殆どいない広い空間に立つ、4人組の冒険者だった。


「あれえ?ゴブリン少ないな」


「先客がいたっぽいわね」


「刈り取られた後って感じですね」


来訪者に気付き振り向く先客達。

明らかに嫌な顔をする3人とは逆に、嬉しそうな笑みを浮かべタイキは声を張り上げた。


「おお久しぶり!カズキ達じゃ無いか。えー皆さん聞いて下さい。L級ダンジョンに来たらモンスターが殆どいない最悪の状況でした。しかし、僕の友達が、いいや皆さんも知っている有名人【ぺちゃん子】がいました!」


カズキの心の中のゴングが鳴り響いた。いや雷の間違いかもしれない。

ダンジョン内で人が死んでも跡形もなくなる。

そう証拠が残らないならば、いっその事やってしまおうと思い臨戦体制に入ろうとしたところ、ハズキに裾を引っ張られる。


「あの人たちドローンで生放送してるっぽいから言動に気をつけた方が良さそう」


本当だ。

気持ちの悪い上がり方をした口角で歪んだタイキの後ろに、小さなドローンが2機飛んでいる。

呼吸を整え名付け親に向き合う。


「ありがとうございます。久々だなタイキ」


「もしかしてこの階層のゴブリンが少ないのはカズキ達がやったの?」


学校にいる時とは違う口調だ。

視聴者向けに柔らかく嫌味のない言い方が、逆にカズキの心の波を荒立たせる。


「ああ2日連続でレベリングしてた」


「なるほど、どおりで少ない訳だー」


「ちょっとタイキ、すんごい勢いで閲覧数増えてるわよ」


「おおお本当だ!みんなカズキが見たいらしいぞ」


タイキ達は近代的な片目用ゴーグルを着用しており、そこからネットの反応を見ている様だ。

そのゴーグルの見た目だと、戦闘力まで見透かされそうな気がする。


『#ぺちゃん子』が5年振りにトレンド入りしているのを見つけ、カズキが項垂れるのは今日の夜のことだった。


「いいこと思いついた。企画を変更します!」


タイキは手を合わせ嬉しそうに提案する。


「僕とカズキくんのどちらが先にゴブリンを討伐するか勝負します!みんなもカズキの成長を見たいらしいよ。やらない?」


「いいよカズキ面倒だから帰ろう。乗る必要ないわ」


ユキが声を掛けてくれるがカズキの答えは決まっていた。


「視聴者は何人いるんだ?」


「ええと、65000人だよ。今も伸び続けてる」


タイキを馬鹿にすることが出来ないくらい、己の口角が上がっているのを感じる。

他人からの評価なんてどーっでもいいわあ!

今すぐ目の前で猫の毛皮を被っているウンコを泣かせてやる。


「受けて立ってやるよ!ぺちゃん子様に負けて無様な姿を65000人に晒してやるよ!」


タイキ以外名前もわからないけど、相手の3人が笑っている。

なんで笑っているかわからない。

でも煽られているの気がして、血管が爆発しそうになる。

1回爆発させた方が冷静になれるかもしれない。


「いい意気込みだね。でも俺らが今着ているこれは、冒険社アースが開発したパワードスーツ的なので、身体能力がレベル10以上跳ね上がるんだ」


タイキが隈なく見せびらかすパワードスーツは、機械的であり近代的だ。

男心をくすぐられ、羨ましく思う気持ちが前に出ようとしてくる。

どうりで3人がニヤニヤしている訳だ。

新人の駆け出しに負ける事が無いと思い込んでるんだろう。


「俺らは今日これの試験を含めここに来たんだ。ステータス上昇で気が大きくなっているかもだけど、負けても泣くなよ」


「上等だよ!!!」


2人の因縁がぶつかり合い爆発寸前だ。

2人がゴブリン討伐勝負の準備をしている中、ハズキが疑問を投げかける。


「あの2人は何であんなにギスギスしてるの?」


「あーぺちゃん子って知ってます?」


「聞いたことはあるね」


「ぺちゃん子って実はカズキなんですよ、んでそれの名付け親ってか全世界に配信した諸悪の根源がタイキなんですよ」


「ええ!?カズキくんがぺちゃん子だったんだ」


「そして何でかわからないけどタイキは昔からカズキを目の敵にしてて、お互い仲悪くて」


「なんか大変そうだけど面白そうだね」


「それはもう最高ですよ」


女子達が意気投合し合うの中、因縁の2人は準備が完了した。


「先にあそこにいるゴブリンを倒した方の勝ちということでいいか?ぺちゃん子くん」


「ああ」


「では視聴者の皆さんもぺちゃん子くんと俺のどちらが勝つか予想して下さい」


やはり配信者として視聴者への気遣いを忘れないタイキ。

メガネを掛けたタイキの仲間が「よーいっ」と掛け声を出す。


カズキは緊張していなかった。

むしろ最高のコンデションだ。

今すぐ隣の男に恥をかかせたくて、背中から羽が生えて来そうなくらい舞い上がっていた。


破裂音が響き渡る。


メガネ男が手を叩き鳴らした、開戦の合図だ。


「んんんっ?」


足が動かないぞ。

見るとカズキの脚に、まとわり付く石の蔓。

きっとスキルによる物だろう。合図を出したメガネ男が若干にやけている。


前を見るとタイキは、ゴブリンとカズキの中間地点にいた。

さっきまで隣にいたが15mはある距離を数秒で移動している。

パワードスーツとやらの性能は確かな物らしい。


「くそったれええええ!」


カズキは知っていた。

強者は踏み込んだ力さえ斬撃に乗せると。

踏み込みがいかに大事か知っているからこそ、全身全霊で地面を蹴り込む。

地面を蹴り込んだ力が跳ね返り、踏み出す脚力に加算され石の蔓を砕く。


S級冒険者ヒトミの様に1歩でこの距離は縮められ無いが、3歩でタイキに並ぶ。


「なっ!?」


タイキが高速で自分を追い越すカズキに驚くが、もう遅い。

もう3歩踏み抜き、抜刀と同時にゴブリンを切り裂く。


思いっきりブレーキを掛け、勢いを殺す。

しかし、カズキのテンションは止まらなかった。


「きっもちいいいぃぃぃぃぃぇぇええあいい!!!」


圧倒的なドヤ顔を顔に刻み込み、剣先を名付け親へ向け歌舞伎の様に見栄を切る。

それはもう全力の煽りだ。名付け親と愉快な仲間達を煽り散らかしたのだ。


全世界にドヤ顔を生放送で撒き散らかした影響が、今後の活動にどう影響するのかと考え、頭を抱えるアツシ。

その横で、何も考えず笑い転げるユキと、一緒に笑うハズキ。


一刀両断にされた哀れなゴブリンは、光の粒子となり勝者であるカズキを祝福したのだった。

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