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第3話 黄金の液体がもたらす恩恵

3/10 3投稿目です!


よろしくお願いします。

ニュースに自分の失態が取り上げられ、SNSでトレンドに入る。


#ぺちゃん子


とんでもないハッシュタグが爆誕し、カズキの首を締め上げる。

コンビニに行くと後ろ指を刺される。


「ぺちゃん子だーウケる!」って


SNSを開くと大量のDMが届いている。

「マジだせえ乙」

「是非当局の番組に出演してほしいと思っております。もし良ければ…」

「あなたの潰れている姿に一目惚れしました!付き合ってくダサい」

「剣の申し子の引き立て役ありがちょりす」


それでも俺は笑顔を絶やさない。

辛いことや嫌なことがあっても笑顔だ。


え?なんでかって?


それは


俺にはスライムがいるから!


あの日、自宅の庭にある秘密基地がダンジョン化しているのを発見してから、俺の日常が変化を遂げた。


◯●◯


ぴちょんぴちょん


どんな体の構造をしていれば、こんな動きができるのだろうか。

薄く潰れてから、体を一気に上へ伸ばし飛び上がる。

そんな動きで移動を続ける2匹のスライムが秘密基地の中にいた。

侵入者に気づいているはずなのに襲う素振りがない。


「ダンジョン化しているのか?」


ダンジョン化、ニュースでも散々取り上げられている。

「ダンジョンを見つけたら早急にその場から逃げてください!」が合言葉のダンジョンだ。

モンスターはダンジョンから出ることは出来ない為、襲われて怪我をする前に逃げるのが一般常識であり、謎多きダンジョンで唯一明確化しているルールだ。


しかし、ここにいるスライムは襲ってこないどころか害が無い。

恐る恐るスライムを触る。


「ぬぷん」と不思議な感触に指が包みこまれる。痛くも痒くもない。

誰しもが遊んだ事のある市販のスライムとは少し違う。

ゼリーの様に弾力もあり冷たくて気持ちが良い。

スライムも何故か指を入れられて大人しく震えている。


「まさか喜んでいるの?」


なんとなくそう思った。

だから俺もスライムに対し同意する。


「ああ、俺もだよ」


もちろん返答返ってこない。

しかしスライムと以心伝心している気がする。お互いにお互いが出会に喜び感謝しているのだ。

それは対話なのか独り言なのか当人達にもわからない。


スライムに目は無い。しかし何故だろう不思議と目と目が合っている気がする。

好奇心が爆発している事により、カズキの頭の回転が早くなっていく。

「ぬぽぽ」と小気味のいい音と共に指を引き抜くと、指が刺さっていた穴がゆっくりと埋まっていく。


「ありがとう」



バチュン



スライムに向けられた感謝とは真逆の暴力が、カズキの右足裏に込められスライムを踏み貫いた。

靴底と地面が衝突した衝撃はスライムにも伝わる。

理を捻じ曲げ存在している様な、半液体状の身体が飛び散る。


狭い空間の為、スライム状のそれは床に、壁に、天井に、そしてカズキの頬や身体とありとあらゆる場所に飛散した。

瞬きをする間に飛散したスライムは光の粒子となってカズキを祝福する。

薄暗い秘密基地の中が一瞬明るくなった。


幻想的だなあ


『スライムを討伐しました』


『ワールドミッションを達成しました。ステータスを贈呈します』


カズキの不名誉な二つ名が誕生した日に、いや勇者とぺちゃん子の誕生日に聞き逃した謎の声。

やっと聞くことが出来た。

幼馴染のユキが言っていたが通り、モンスターを討伐する事でステータスを獲得したのだ。


「よっしゃぁぁぁぁあああ!!!」


第一歩だ。

勇者になる為の歩を踏み出した。

大きく足を振り上げて、力強く踏み込んだ。


「これがステータスか!」


視界の端にステータスが表示されている。しかし邪魔ではない、しっかりと見なくても手にとる様に理解できる。

元々あった体の一部のように。


佐倉和希  人間

LV:1

HP:1

MP:1

STR:2

VIT:1

AGI:1

SP:1


スキル一覧

無し            


「よっわ」


開いた口が閉まらないどころか舌まで出てきた。

さすがレベル1だ。とんでもなくステータスが低いし何のスキルも無い。

じーっともう一匹のスライムを見る。

秘密基地の奥で飛び跳ねもせず大人しくしている。


もう経験値にしか見えない。


「だめだだめだ!」


涎が垂れるマヌケな顔を大きく左右に振り我に返る。

ダンジョン踏破の条件がわからない今、この経験値、いやスライム、いや親友を討伐して踏破条件を満たしてしまうと、ダンジョンが消滅しレベリングが出来なくなってしまう。

討伐したい気持ちを抑え、奥で大人しくしているスライムに手を振り秘密基地を後にする。


「またね」


明日また来よう

その時に新たなスライムが補填されていることを祈ろう。


その日カズキの興奮は異常なほどまで高まり血を湧き上がらせ、ドーパミンを大量に生み出した。

ドーパミンにより幸福を最大限に感じ、ネガティブ人間ぺちゃん子は、最強のポジティブ人間ぺちゃん子へと変貌を遂げたのだった。


「なんか気持ち悪いんだけど」


母の佐倉真希は息子の異様な変化に恐怖を感じた。

ご飯を一口食べる度に「うまい」、「ありがとう」、「最高だ」と口にする息子。

今日の朝まで「俺はぺちゃん子なんだ」、「ナマコになりたい」だのネガティブの化身だった息子が一新、ポジティブの化身と化していた。


「美味しいご飯をありがとう!ご馳走様でしたお母さん!」


大きな声でハキハキと感謝を述べて母親マキに抱きつくカズキ。

鼻の奥が染みるのをグッと堪えカズキの母親マキは母性全開放で抱擁する。

久々に抱きしめる息子は壊れかけているのかもしれない。

過度のストレスにより精神を病んでしまった息子を支えようと決意した母親マキであった。


「むしろ食べてくれてありがとう息子よ」


マキは強い決意と共にポジティブの化身を抱きしめる腕に力を込めた。


食事が終わり日課となったインクを塗りたくるオンラインゲームを嗜む。


「俺がインクの神だあああ!!!」


「うるさ、静まれ」


「カズキなんかテンション高いな。いい事あった?」


「はっはっは、あーはっはっはっはああああ」


「マジでキモいんだけど、ヘッドホンから涎飛んできた気がする」


「音以外は来ないよユキ、でもさすがに気持ち悪いね」


気分の高まりにより血液が沸騰中のカズキを幼馴染は心配、罵倒する。

この後も1時間以上罵倒され続けたが関係ない。


なんてったって俺にはスライムがいるから!


シャワーを浴びて布団にダイブする。

枕に顔を埋めと謎のヌメリが顔に着く。手に取って確認するとスイカの種だった。

よく見ると布団のあちこちにスイカの種が鎮座している。


「んんスイカの種?…あんの小娘ー」


「ぷっ」とスイカの種を口から噴き出す幼馴染の顔がフラッシュバックする。

せっかくシャワーを浴びて気持ちよく眠ろうとしたのに顔がベタついてしまった。

布団中にあるスイカの種を回収し、顔を洗い直せば良いだけなのに、またもや風呂に入る。

決して幸せとは言えない状況なのに、カズキの口角は上がったままだ。


何故怒らないかって?


そう!


俺にはスライムがいるから!


好きな歌を大熱唱しながら何故か2度目の風呂に入る息子を見て、母親マキが抑え込んでいた物が

決壊し頬を伝う。

20歳を迎え社会に飛び立った人々は荒波に揉まれ、誰しもがストレスの海に沈むだろう。


叫び出したくなる。愚痴りたくなる。怒鳴りたくなる。


しかし大人はそれを堪え飲み込み帰宅後、もしくは帰路で黄金に輝き泡立つ飲み物を、勢いよく飲み腹の中でストレスと中和するのだ。


小気味のいい音が聞こえる。


封印された神の雫を解放したのだ。

ストレスに頭を抱える社会人達が群がるだろう缶ビールを開ける音。

頬を伝う涙を拭い、母親マキは勢いよくストレスとビールを飲み込んだのだった。



最後までお読みいただきありがとうございます。


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