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第28話 100万円の行方

お昼に登場人物紹介を投稿しており、本日2投稿目です。



フラッシュバック


それは過去の記憶が鮮明に思い返される現象であり、基本的にはトラウマとなった大きな記憶が思い出されるとの事だ。

現在、刃の3分の2が消滅したロングソードを眺め、絶賛フラッシュバックなうの男は、蘇る記憶の中でミラ・フレデストにより、フランベルジュで切り裂かれている。

斬撃無効、痛覚無効なんて剣士泣かせのスキルを持ち合わせたカズキでさえ、自分が切り裂かれる感触、光景はトラウマになるのに充分だった。

フラッシュバックで思い返しているだけなのに、「思い出してくれて嬉しいわあ」なんて幻聴まで聞こえてくる程だ。


「新しい武器が必要だな」


そう思い立ったが吉日だ。行動あるべし。

カズキは思わぬ大金を手に入れ懐が潤っている。

自分は何にもしていないのにA級ダンジョン踏破報酬として、333万円を手にしてしまったのだ。

これの内訳は取り敢えず、300万円を共同口座に入れケイコ社長との契約金5千万への足しにした。

残りはカズキへのご褒美として、懐にしまうことを許されたのだ。


「昨日は大変だったけど、2年前に見つけたいい感じの鍛冶屋に行ってみるか」


その語尾はフラッシュバックなど物ともせず、上がったテンションと同様に弾んでいた。

ミラ・フレデストとの戦闘でタカシが1週間安静になったので、カズキ達は自由時間を貰ったのだ。

もしL級ダンジョンに行くなら、2人以上で1階層のみに行くことを条件に許可も得ている。


カズキは冒険者に憧れた日から毎日、ランニングを行い体力を付けてきた。

毎日川崎の道を思った方向に走りゆく中、銀柳街から少し離れた路地に鍛冶屋とだけ看板を掲げた店を発見し、厨二心がくすぐられ入りたい気持ちに駆られていたのだ。

しかし、もし「なんだガキじゃねえか。冷やかしなら帰りやがれ」なんて言われた日には、小心者のカズキは何言わず、買うことも出来るず退店を余儀なくするだろう。

その為、2年間入店する事すら出来なかったのだ。


「しかし今は購入者とした大義名分を得たのだ!」


店の前で過去の記憶と対話するカズキは、気持ちは勢い良く、扉はゆっくり開け入店した。

そこには和が、男のロマンが詰め込まれていた。

決して広くない店内の壁には、日本刀が数本掛けられレジがあるだけ、だけなのに最高の雰囲気だ。

いつの時代だよと言いたくなる。


自分の喉を潤すために、生理的に飲み込まれた唾が喉を通る音が響く。

歩を進めるたびに擦れる舗装されていない、剥き出しになった床のコンクリートが味を出す。

心の中で舞い上がっていると奥の襖が開かれ店の方が出てきた。


「なんだガキじゃねえか。冷やかしなら帰りやがれ」


ええええええええええ!!!


頭に手ぬぐいを巻き、整えられていない髭面に貼り付けられた悪い目つき。

低い身長だが鍛治仕事のせいか、白いタンクトップから生える太くゴツい両腕が、これまでかと主張している。もう本当に店とマッチしているというか、何というか融合している。

そんなことよりも、何よりも2年前に言われるかもと思っていた言葉を、そのまま投げかけられるとは思わなんだ。


「おい固まってねえで帰れ。それとも邪魔しにきたのか」


つい先ほど潤した喉が急速で乾燥しひり付く。と同時に思い出す。

自分には大義名分があることを!


「大将、今日は刀を買いに来ました」


「馬鹿にしてんのか?帰れ」


「ですから刀を買いに」


「帰れ」


なんだこの話の通じねえジジイは…下手に出てれば帰れの繰り返し。

しかし、あの日からここで刀を買うと決めコツコツ貯めた小遣いは、今回のボーナスにより7桁となっており、資金としては充分だろう。


「100万です」


「ああ?」


カズキに背を向け、襖の取手にに手を掛けていた店主の動きが止まる。

引き合いに出した値段が功を奏したのだろう。


「100万円、それが今支払える金額です」


「少ねえな」


カズキが5年間必死にバイトやお年玉で貯めた100万を、少ないと鼻で笑う店主。

しかし、ずっと語尾に付いていた帰れが無くなっている。

良かった。このまま帰っていたら店主の語尾は帰れだと、誤認するところだった。


「てめえ歳はいくつだ」


「…18歳です」


「てめえは何で刀が欲しいんだ」


「何でって、ロングソードが折れたからです。あとカズキって言います」


こう、てめえてめえと言われ続けると、いつ血管の耐久値が底をつくかわからないので名乗っておく。

そして無惨にも折れたロングソードを抜刀し見せる。

店主の鋭い視線が、ロングソードの隅から隅へと突き刺さる。


「答えが浅え。もっと根本的な理由を聞いてんだ小僧」


カズキの名乗りは意味を成さず、てめえから小僧に多少ランクアップしただけだった。


「モンスターを倒すためです」


「浅え」


「浅い…ですか?」


「何でモンスターを倒すんだ?」


まるで圧迫面接だ。一応客だよな俺は。

武器が必要な理由をとことん聞かれる。

何故モンスターを倒すのか熟考する。


深く


より深く


モンスターを倒すのは、生活費を稼ぐのも理由だが1番は強くなる為だ。

では、何故強くなりたいのか。

幼馴染達と強くなり、S級冒険者として憧れの人の隣に立ちたいし、誰もが認める勇者になりたい。


それは理想では無く目標だ。


武器が必要なのは


「仲間と強くなりたい」


「憧れの人の隣に立ちたい」


「誰もが認める勇者になりたい」


想いが溢れ自然と口から紡がれる、カズキの刀が欲しい理由達。

それはどれもが刃を手にする根本的な物への付属品達だ。


もっと根本にある物は


「…自分の為だ」


「ああ?小声で喋んなさっきから、ぶつくさ1人で何だって?」


「自分の為です。自分の為に武器が欲しいです」


カズキの意志が篭った眼差しが捉えた店主の目は見開かれ、灰色に濁った瞳がカズキを差し貫く。

その視線の先はカズキを見ているのか。

それともその先を見ているのかは定かでは無い。


「俺の前で馬鹿正直にそう答えたのは、てめえで2人目だ」


意味がわからなかった。

武器の欲しい理由を根本的に詰められ、今目の前で楽しそうにしている初老の汚い店主が理解できなかった。

選ぶ店を間違えたかと思っていたその時、鼓膜をちぎり取る様な大声を発したのは店主だった。


「おいハズキ!早くこっちに来い!!!」


店主が開き掛けていた襖の奥から、慌ただしい音が聞こえる。

そこから出てきたのは、長い薄緑色の髪を適当に一つに括った綺麗な女の子だった。

歳はきっとカズキと同じくらいであろう。


「急に呼ばないでよ!耳が痛いよ爺ちゃん」


ゴヂンと痛々しい音と共に「いっったーい」と悲痛な声が響き渡る。

見ればさすが職人の拳というべきゴツい拳骨が、女の子の頭に叩き込まれていた。


「なんど言えばわかんだ!客の前では大将って呼べ!」


「うう、ごめんよ爺…大将ぅ」


何を見せられているんだろう。

そう思っていたが引っかかるものがあった。

店主は、いや大将は確かに客と言ったのだ。カズキを前にして。


「早く案内しろ」


「本当に良いの!?あいたあ!」


「早くしろ」


手を出してから要件を伝える店主、いや大将を見て戦慄する。

あまりにも早すぎるからだ。

カズキもあの勢いで殴られたらと、想像するだけで頭が痛い。

「こちらへー!」と元気な声に引かれ、大将が開きかけていた扉の奥に入る。

女の子の後を着いていくと細い通路になっていた。


「私は辻利葉月 19歳よろしくです!お客さん凄いね、金に物言わせず大将を納得させて、ここを通るのは私が知っている限り2人目だよ」


「へー佐倉和希です。歳は18です。よろしくお願いします」


「おお韻踏んでるね私達の名前。え、もしかして今年高校卒業?」


カズキは頷いて返事をするとハズキは驚く。


「冒険者になりたてじゃん!本当によく大将が通したね。あの人は最低A級冒険者じゃないと売らないはずなんだけどな。ねえ!なんて口説き落としたの?教えて!」


物凄くグイグイくる上に距離が近い。

大きく瞳を輝かせ、括った髪を犬の尻尾みたいに振り、興味津々に聞いてくる様は、あまりにも可憐だ。

見た目がクールな分、ギャップが凄い。


「ちょ近いっす」


しかし美女耐性が突出しているカズキは、大将と同じ白いタンクトップから出ている細く白い肩を掴み押し返す。

それにも負けず「ねえねえ」と聞いてくるハズキと押し問答していると、雷だと錯覚する様な怒号が2人に落雷する。


「てめえら!イチャつくなら外でやれ!」


「「ごめんなさい!!!」」


名の似た2人が急いで通路を駆け抜け、先にあった襖を開け逃げ込む。

父親がいないカズキは怒った時に1番怖い男は、冷静に小言をジャブの様に打ち込んでくるアツシだと思っていた。しかし、今この瞬間ランキングは更新され大将が玉座に鎮座したのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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