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第27話 青空の先に

「うふひゅっ」


カズキの体内から無理矢理空気が押し出される。

スライムの身体になったと言えど身体の作りは極力人間に寄せている為、思いっきり腹部を踏みつけられたら空気が漏れ出す。


「笑ってんじゃねえ!!!」


姉を探す謎の少年へ、向かっていたユキの怒りの矛先は、日常へ帰還した余韻に浸り笑っていたカズキにシフトチェンジし、羽交締めにされたユキの足元にいたカズキへ、躊躇いもなく足を振り落としたのだ。


少し気が晴れたユキは落ち着きを取り戻した。

横たわるカズキ以外、肩を上下に揺らす謎空間にダンジョンを踏破した功労者が入ってきた。


「みんな大丈夫?叫び声が聞こえたけど」


カズキやタカシが2人がかりで挑んでも、遊び相手にもならなかったモンスターを討伐したS級冒険者のヒトミだ。2つの拳のみで戦う暴力の化身と呼ばれる彼女だが、とてもおっとりした話し方だ。

しかし、その声に混じる息切れが苦痛を表す。

そんな彼女の右腕は肘から先が炭化し、拳が中央から割れている。

炭化しているおかげというべきか、出血はしていない。

更に身体のあちこちに重度の火傷を負っている。

他人の心配が出来る状況には決せて見えなかった。


「ね、ねえさん!大丈夫!!!?」


少年の探し求めていた姉はヒトミだった。

少年は何の躊躇いもなく重傷者であるヒトミの胸に、弾丸のように飛び込んだ。


「おいクソガキ離れろ!中川さんは重傷なんだよ」


「大丈夫ですよー私にはこれが必要なんです」


怒りにより脳内沸騰中のユキが、少年の行動にみかね食ってかかる。

しかし被害者であるヒトミが必要だからと宥め、少年を抱きしめ返す。

少年とヒトミが徐々に発光し出す。それは淡い桃色であり、ヒトミの息が安定を取り戻しゆっくりと傷が癒えている。


「ヒーラーならタカシさんを、あそこに倒れている人も治療してくれないか?」


カズキが指を指す先にいるのは、壁に上半身をめり込ませ気絶しているタカシだった。


「倒れてるって言うよりめり込んでますね…すみませんこの子の治癒は私専用のスキルで他の人には使えないんです」


「そうですか」


「そうだ報酬の分前を渡しますね!」


残念な表情を隠すことが出来ずにいたカズキにヒトミが声を掛ける。

炭化した掌をトンっと拳で叩き、閃いた事を表現する拳からは灰がこぼれ落ちていた。


「いや俺達は何もしてないですよ」


カズキが横になりながら否定する。

そりゃあ少しはダメージを与えたが、ヒトミの戦闘を見て自分達が遊ばれていたのは明白だったのだから。


「いえいえ2人がやつを弱らせてくれたからスムーズに倒せたんです!私の証言でA級ダンジョンとして国に認めさせるので報酬金は確実に1000万出るから1人333万円前もって渡しますね」


「333マンエン!?」


驚く若者3人の声が爆竹の様に鳴る。


「はい、割り切れなかった1万円は討伐報酬として私が頂きます。後々連絡するのも大変なので今渡しちゃいますね」


そういってSと大きく記載された冒険者ライセンスを取り出した。

冒険者なら皆が憧れるアルファベットを刻まれらたソレは最強の証だ。

それをカズキ達にひけらかす様な人間で無いはずだ。

何故目の前にライセンスを出しているのだろうか。


「ああ!ごめんなさい。貴方達は冒険者になってどれくらいなの?」


「半月くらいです」


「半月!?それでA級を引き当てるのは逆に運がいいかもね。話を戻すけど、冒険者ライセンスにキャッシュカード機能があるのは知ってる?」


カズキ達は知っていたので頷き返答する。

もちろんカズキ達は貯めているお金を全てライセンスに送金済みだ。


「ライセンスをかざす事で設定した金額を相手に送金できるの。だからライセンスを出して」


「わかりました」


アツシに肩を借りながら起き上がったカズキは、S級ライセンスの上にC級ライセンスをかざす。

うわ、恥ずかしい。最高ランク特上肉の上に誤って乗ってしまった雑草の気分だ。


小気味の良い音がカズキのスマホから鳴り響く。

取り出すと戦闘の余波で割れた画面に666万円受け取りました、と表示されている。

あまりの驚きに3人は目を押し出し画面に見入りながら、言葉を出そうにも出せずに口をパクパクさせている。


「やっぱこんなの姉さんじゃない」


「こんなのって何だおらぁぁぁぁぁぁ!!!」


太い綱がはち切れる音と、整った見た目からは似つかわしく無い怒号、更には激情を乗せた拳がユキから同時に発せられた。

カズキに肩を貸していたアツシは止めるのに出遅れてしまい、生意気小僧にユキの拳が襲い掛かる。


「ごめんなさい。この子私の事しか見えてないらしくて」


やっと届くと思った怒りの鉄拳は、やんわりとヒトミに受け止められた。

受け止めた瞳の表情は嬉しそうで「こら、ショウタ」と優しく注意した。

怒られた当人もデレデレと嬉しそうにしているのが、反省していない証拠だろう。

どうやら生意気小僧は正太というらしく、一連の流れを見る限り、姉の優しい?甘い教育により生意気に仕上がったと難なく想像される。


「じゃあ私達はここで失礼しますね」


「じゃーな」


中川姉弟が元ダンジョンを後にしていった。

かなりの重症だったが右腕以外は大体回復していた。

個人に対する専用回復スキルだから回復能力が高いのかもしれない。


S級冒険者が去った後の、閉まりかけていた扉が勢い良く開かれる。


「みんな!ああ良かった無事で本当に良かった!!!」


お団子が弾丸のようにカズキ達に突進してきた。

3人はお団子に押し倒され仲良く仰向けに倒れ込んだ。

その上に覆いかぶさり、3人の生存に涙を流し抱き締めるサヤ。


「ご心配おかけしました」


「サヤさん痛いっすよ」


「本当に心配したんだからああああああ!急にダンジョンから見たことない火柱は上がるしい、ううう」


暫くの間、無理矢理で優しい抱擁は続いた。

女性からの抱擁で恥ずかしいからとかでは無く、早く離れたいと心の中で思っていたカズキだった。

それもそのはずで、真ん中で抱擁を受け止めていたカズキの服には、涙や鼻水に涎がべっとりと付着していた。


綺麗な女性からの体液は、生存に対するご褒美と言っても過言ではない。

しかし、ユキと幼い頃から過ごしてきたカズキは意外にも美人耐性が有るのだ。


「これ使ってください」


泣いている女性にすかさずハンカチを渡すあたり、アツシの完璧さが滲んでいる。

盛大に鼻を噛み「洗って返すよお」と萎れたサヤがカズキ達の上から退ける。


「ううう、ちょっと弟引っこ抜いてくる」


後日聞いたのだが、外で監視のため待機していたサヤの前の壁から、急にタカシの上半身が飛び出してきたそうだ。それに話しかけても完璧に気絶しており内部の情報を引き出せなく、又、引き抜こうにもダンジョンが干渉しているのか、びくともしなかったのだとか。

サヤが弟救出劇を繰り広げる中、1人だけダンマリだったユキに声をかける。


「どうした?冒険者やるの怖くなったのか?」


「いや、ヒトミさんに止められた時なんだけどさ、壁殴ってるかと思った。しかもコンクリートとかそんなんじゃ無くて鉄が圧縮して詰め込まれたって感じでびくともしなかった」


生意気小僧とデレデレしながら、やんわりと受け止めていたヒトミだが、ユキには理解の追いつかない防御力だったのだ。


「あれが私たちの目指す場所なんだって思ったらさ」


「思ったら?」


カズキの問いに口角を上げ返答する。


「俄然やる気出てきた」


「だろ」


「ちょーたのしみ!」


その満遍の笑みは美人耐性、幼馴染補正を持ってしても見入るものがあった。

そして心の底から湧き上がる武者震いが、更にカズキのやる気を燃え上がらせる。


「それにしても、あんな理解できない次元のヒトミさんをボロスミにした化け物相手によく生き延びたわね」


「たしかにS級モンスターで間違いない相手にすごいね」


ユキとアツシは純粋にカズキを賞賛する。


「いやタカシさんが相手してたし、ヒトミさんとの戦いを見る限り俺らは遊ばれてたよ」


「なんだ褒めて損したわね」


「うっせ」


3人は自然と笑っていた。

押し倒されたまま仰向けになった3人の目に映るのは、天井が消滅したおかげで広がる雲ひとつない青。

ミラ・フレデストが顕現させた蒼炎の大樹が、雲を撒き散らかしたのだろう。


「気持ちのいい天気だね」


タカシが思わず声にするのもわかる。

それくらい綺麗な空だ。


「なあ俺らのパーティ名さ。『青空』ってのはどう?」


今の気持ち。これが薄れない様に。

若く何色にでも染まり、強く荒れ狂うことのできる青空。


「安直ね、だけど悪く無いわね」


「僕も賛成だよ」


「じゃあ決まりだな」


これがカズキ達『青空』の始まりであり、これから幾度なく荒れ狂う大空の、ストーリの始まりだった。

いい気分に浸る中、救援の声が上がりその日は幕を閉じたのだった。


「誰かタカシ抜くの手伝ってええええええ」


第一章が完結しました。

初めて書き上げる小説がここまで来たのに喜びを感じます。

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます。


皆様の評価、ブックマークがとても励みになっています。

第二章も頑張ります!


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