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第23話 特殊ダンジョンとの出会い

成長


それは人が歩を進めること。

成長には二種類有る。肉体的な成長、そして精神的な成長だ。

前者は時間経過により、基本的に最低限の成長をするが、後者はそうで無い。


きっかけが必要なのだ。


誰かに教えて貰う、怒られる、悔しいと思う。

どんなきっかけであろうと、成長したいと自ら思う事が重要なのだ。

カズキ達3人は初めてC級ダンジョン踏破を目の当たりにし、きっかけを得たのだった。


◯●◯


「じゃあ次のダンジョンは3人が主体で、タカシは補佐で踏破するように!」


サヤの言葉に大きく返事をしダンジョンと化した屋敷へ向かう。

そう、屋敷なのだ。先ほどの一軒家と違い大きい、というより壮大だ。


「今回はお前たちが戦いやすい様に、広いC級ダンジョンを選んだ」


松本家がカズキ達の初挑戦に選んだダンジョンは、かなり大きい屋敷だった。

噴水付きの庭には整えられた植物が綺麗に並び、両開きの大きな扉が待ち構えている。

日本の首都となった神奈川県の川崎に、こんな広大な家を建てる為にはいくら金額が必要なのか。


「念のため俺が1番初めに入るから着いてこい」


タカシのぶっきらぼうな優しさに、各自返事しながら後に続く。

タカシが顎でカズキに指示を送る。

「うっす」と小さく返事をしカズキは両開き扉の左側を開けた。

同時に反対側をタカシが開け、先にダンジョンへ侵入していく。

カズキも最初の指示通りタカシが入ったのを確認し中へ入った。


「…なんだこれ、城?」


とんでもなく広い。

建物の奥行きを見てなかったから把握出来なかったとか、そんな次元の話じゃない。

カズキの口から自然とこぼれた感想通り、映画やアニメとかに出てくる城の様にレットカーペットが中央に敷かれ、その先に階段がある。


「っやばい!!!」


ダンジョンを覆い隠す様な魔力が迸るのを感じ取ったカズキは、後方にいたユキを押し飛ばした。

隣を見るとカズキより先に異変を察知したタカシがアツシを押し飛ばし、手を引いている最中だった。


「痛っ、なにすんのよ!」


ダンジョンに入ろうとした瞬間、急にカズキに押され後方に勢い良く転がったユキは、文句を言う為に心の中で盛大にゴングを鳴らした。


「嫁入り前のレディーのから…だに」


「ユキそれどころじゃ無いかもしれない」


隣で同じく尻餅を着いていたアツシが冷静にユキを宥める。

そんなアツシの言葉を聞く前に、心のゴングは消え去りユキは冷静になっていた。


「なによこれ」


目の前にあった屋敷、もといダンジョンは漆黒の黒い壁に遮られていた。

立ち上がったユキは確認の為、漆黒の壁に触れようとした。


「ユキっ!触らない方がいいかもしれない」


得体の知れないモノを、不用意に触れようとしているユキの腕を掴みんで止めに入るアツシ。

後方にいるドローンのレンズ越しにこちらを観察しているサヤが、異様な状況に気づいているだろうと思いアツシは振り返る。

8台のドローンを従え、普段着用していない顔を半分ほど覆うゴーグルや、配線が組み込まれた肩まで隠れるゴツい手袋を着用したサヤがこちらに向かっていた。


「端的に状況を説明して」


普段と全く異なるサヤの雰囲気に、状況の悪さを察する。


「2人がダンジョンに入った瞬間、僕たちを突き飛ばし強制離脱させました。ほんの一瞬しか見えませんでしたが、ダンジョン内の大きさが外見とは異なり広く見えました」


「ありがとう、少し離れてて」


漆黒の壁から2人が離れたのを確認した直後、4台のドローンが動き出す。

2台が上空へと飛び2台は漆黒の壁の前へ移動した。


「うわっ!」


「きゃあっ!」


漆黒の壁へと2台のドローンが火炎を吹いた。

轟音と共に飛び散る火の粉により、2人の口から驚きが漏れた。

5mは離れているのに伝わる熱波で、火炎の威力が高いものだとわかる。

数秒して火炎の放射が収まる。


「ダメかあ」


火炎の先からは健在な漆黒の壁が現れる。

火炎を放ったドローンと、サヤの周囲に待機していたドローン2台が素早く入れ替わる。


「6号機パイルドランカー射出っ!」


サヤが指定したドローンから腕くらい太い杭が、目に見えない速度で射出され漆黒の壁に激突する。

衝撃音と共に飛び散る火花がパイルドランカーの威力を周知させる。


「なっ!?」


攻撃を放った側のドローンが押し負け大破する。

ドローンは見る影もなく部品となり周囲に飛び散る。

明らかに自分の攻撃の反動で大破したとは思えない。


ユキは転がってきた杭だった物が目に入り戦慄する。

先端は消滅し、金属が粉々になり黒く焦げていた。

もしあの時に何も考えず漆黒の壁に触れていたら、こうなっていたのは自分の腕だったかもしれない。


「もしもし社長、特殊ダンジョンに遭遇してしまいました。私のパイルドランカーが逆に粉々にされる結界でダンジョンを覆ってる上、『空間支配』を使用している可能性があります。私の見立てではA級ダンジョンかも知れません…」


「そんな…カズキ」


サヤがケイコ社長へ報告の電話をしている中で、聞こえてくる単語が最悪の展開を想像させる。

ユキとアツシは自分の無力さを痛感する。

今の自分達は無力であり、目の前にある想定ランクA級ダンジョンに手も足も出せない。何も出来ないのだ。

ユキは握りしめた拳と、悔しさを噛み締める顎に力が入りすぎ痛みすら感じていた。

それは隣にいたアツシも同様の心境だった。


「無事でいてくれよカズキ」


◯●◯


「その腕は大丈夫か?」


「はい、魔力を込めれば修復できます」


カズキの腕は手首から先が無かった。

ダンジョン内の異変と、ダンジョンを覆う強力な魔力を感じ、後方にいたユキを離脱させるべく押し飛ばしたカズキは手を引くのが遅れ、結界と思われる漆黒の壁が降りてきた際、巻き込まれたのだ。

魔力でスライムである、自分の身体を増幅させ腕を再生させる。

使用感に問題が無いか手のひらを握っては開きを繰り返す。


「このダンジョンは何なんですか?外見に比べて中が広すぎません?」


「ここは特殊ダンジョンだろうな。予想だがA級モンスターが『空間支配』でダンジョン内の拡張を行なったんだろう」


「空間支配…」


教習の時に聞いた気がする。

なんならニュースで稀に報道されるC級ダンジョンに潜む最大のトラップで、『踏破』にて起こる死亡事故の大半はこれによる物だとか。


そもそもダンジョンのランクの割り振りは、基本的にA〜C級になる。

基本的にはダンジョン化した建物、土地の大きさでモンスターの強さが異なる。

A級は大きな複合型ショッピングモール程度の広さで、中ボスやボスが存在する。

B級はデパートや学校くらいの広さで、ボスが存在する。

C級は一軒家くらいの広さでボスが存在しない。


そして例外がある。

人類が踏破出来ないと言われているS級超大型ダンジョン。

今確認されているS級ダンジョンは「アマゾン」「砂国」「東京」の3つだ。

総じて世界三大ダンジョンと呼ばれ、規模が広大な土地であり様々なモンスターが出現する。

A級冒険者になるとS級ダンジョンでモンスターを討伐し、ドロップ品で生計を立てる「探索」なんて働き方も有る。


上記で説明した通り、モンスターの強さは基本ダンジョン化した建物や土地の大きさに依存される。

しかし稀にその枠組みを潜り抜け、ダンジョンに適さない強力なモンスターが産まれ落とされる。これが特殊ダンジョンだ。

それだけならまだしも、『空間支配』を使用するモンスターはA級上位のモンスターだ。

ダンジョン内を自分に適した環境に整えたり、好みに合わせ形を変えるのだ。


「なるべく壁を背にして死角を減らせ。奇襲に注意しろ」


「わかりました」


広いエントランスだ。今のところモンスターが現れる気配は無い。

大量に有る扉を開け探索しなければいけないのか。


「あれぇー4匹閉じ込めたと思ったんだけどなあ」


2人並ぶカズキたちの間に割って入り、強制的に肩を組む人物。

ふわりと靡く銀色の髪の毛が、視界にちらりと入り込む。


「君かわいくないなあ」


カズキが謎の人物に気がついた時には振るっていたタカシの短刀は、ターゲットに届くことなかった。

長髪が再び靡くと同時にタカシの姿が消える。

轟音と共に対面側の壁へ激突し、血を吐くタカシの姿がカズキの瞳に映る。


「っ!?」


不意に顎を掴まれ強制的に振り向かされる。


真っ赤な瞳だ。


吸い込まれるほど綺麗な赤色の瞳をした女性だった。

まつ毛が長く整った顔に、癖毛混じりのロングヘアーがとても似合う。

街中で出会えば目を引かれるのが約束されたスタイルを兼ね備えた女性だ。

ただ、ダンジョン内で出会わなければの話だ。


「しぃーっ大人しくしなよお」


「くっ!そぉお!!!」


カズキがロングソードを鞘から抜き出そうと柄を握りしめた拳に、人差し指を当て止める女性。

近距離にある、妖艶で美しい瞳に吸い込まれそになる。

驚きを隠せなかったが、バックステップをとり距離を取ったカズキがロングソードを今度こそ振るう。


「あーあぁ大人しくしてれば、ペットにでもしようと思っていたのに」


女性の手が軽く振るわれる。

カズキが全力で振るったロングソードと衝突し拮抗するる事も無く、飴細工の様に砕け散るロングソード。

ロングソードを砕き尚、止まることの無い細く白い腕がカズキの胴体に直撃した。


どぷぁっん!!!


自分の耳に響き渡る、自分の胴体が弾け飛ぶ爆音。

最後に見た光景は自分の右頭部に吸い込まれる真っ赤なネイルが施された手と、血だらけで血走った目を大きく開き、短刀を女性に叩き込もうとするアツシの姿だった。

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