第2話 スイカの見た目って悪魔の卵だよね
3/10 2投稿目です。
1週間は毎日2話投稿をします!
よろしくお願いします。
丸い形をしたそれは、深く濃い緑色を基調とし稲妻の様な黒い線が不規則に刻まれている。
まるで悪魔の卵のような見た目をしており、割ると真っ赤な身が詰まっており夥しい量の黒い種子が不規則に散りばめられている。
これを食べ物だと思い、人類で初めて口にした人は偉大であり、大馬鹿なのかもしれない。
その禍々しい見た目とは裏腹に頬がとろけ、自然と口角が上がる甘さを秘めた最強の果実。
そんな見た目、味共々悪魔的に美味いスイカを貪りながら、夏休みよりも長い長い休日を過ごす少女がいた。
少し明るめの茶髪は短めの切りっぱなしボブであり、目が大きく整った顔をしている。
中学1年生の幼なさが可愛らしさをより際立てている。
そんな少女は学習机の椅子に胡座をかきながら、口に含んだスイカの種を「ぷっ」と皿へ飛ばす。
種は皿にバウンドして布団の方に飛んでいった。
興味なさげに種の行方を視線で追っていたが、やがてその視線は、目の前の少年へと向けられる。
「それでなスミ姉が窓枠に足をかけて飛び出したんだ!」
まるで名高い語り手のように大きな身振り手振りで英雄譚を語る。
「気を引くために鞘を投げ当て振り向いたオークに」
話が進むにつれテンションが高まり続けるカズキは、まるで手に刀を持っているように手を振り上げた。
「オークの左腕を叩き折ったんでしょ?もう何回も聞いたわよ、ぷっ」
カズキの話の腰を叩き折ったのはスイカを貪る石井夕記。スミカの妹でありカズキの幼馴染だ。その口から放たれたスイカの種はまたしても皿から外れ布団の方に行方を眩ました。
「きっとカズキが酒を飲むようになったら同じ話を何度もするんだろうね」
一緒に呆れているのは、もう1人の幼馴染、大内敦だ。3人とも幼稚園の頃からの付き合いで、気が付けば、腐れ縁と言わざる仲になった。
話の腰を叩き折られ手を振り上げたまま固まるカズキに追い打ちが掛けられる。
「まあ確かにスミカさんは格好良かったけど、それと同じくらい有名人になった人もいたよね」
「ううっ」
「たしかにねー、今じゃ世界中の人々がカズキの事知ってるもんね」
「うううっ」
アツシとユキはケタケタと笑いながらカズキの精神を削っていく。
カズキの気持ちと共に、振り上げた手は徐々下がり最終的には膝と手を地に付け項垂れてしまった。
「あんな状況でも動画撮った上にSNSに投稿するやつがいるなんてね」
アツシはそう言ってスマホで例の動画を流す。
それはオークが警官を襲い始めてから、スミカがオークを討伐するまでの動画だった。
問題はその動画の最後だった。
オークが光の粒子となり勝者を祝福する幻想的なシーンが終わった後、オークに潰されて白目を剥いて気絶する少年が映り込んでいるのだ。
壮絶な戦いを繰り広げた現場で少年をどうこう言うものはいなかった。しかし映像にして見ると、おもしろ映像そのものだ。
危機的状況からの大勝利を遂げ、幻想的な光が霧散したあとは潰れたカエルのような少年が現れるのだ。
緊張が解けた瞬間に現れるその姿を笑わないものはいない。
「あの野郎動画を拡散しやがって」
自分の失態がダンジョンという最強のインフルエンサーと共に、世界中に発信され時の人となってしまったカズキは元凶の男を思い浮かべる。
「まあタイキもやりすぎよね。SNSだけじゃなくて動画投稿サイトやニュース番組にまで送りつけてなくてもいいのに」
「俺のおかげでタイキはインフルエンサーになって収入が入ってきてるとかムカつくよな!」
そう。今回カズキの失態を全世界にお届けした首謀者は塚内大樹という男だ。
いつも高圧的で嫌なやつ。今やダンジョンの情報を世界中にお届けするトップDouTuberの顔を思い浮かべ嫌な気持ちになる。
「SNSのトレンドで‘ぺちゃん子‘がランキング入りした時は僕も笑ったよ」
ゲンナリしているカズキを見てまたしてもケタケタと笑う幼馴染達。
「俺の気持ちがわかるか!?どこに行ってもヒソヒソと後ろ指を刺され笑われる気持ちが!」
コンビニに買い物に行くだけで知らない人から声をかけられたり、「ぺちゃん子じゃん」とヒソヒソ笑われる様になってしまった少年は、顔を真っ赤にして怒りを露わにする。
「ごめんごめん!そう言えばスミカさんの腕は大丈夫だったの?」
ぺちゃん子を笑いながら宥め、別の話題を振るアツシ。
「実はここだけの話でスミカの腕完治したんだよね」
「「ええ!?」」
「いやーさすがに気味悪いからまだギプスして隠してるけど、なんかスキルのおかげだって言ってるんだよね」
他者の目からでもわかるくらい真っ二つに折れてたであろうスミカの腕は1週間で完治したという。しかもその理由がスキルとかいうファンタジー用語の恩恵だと言うから頭の整理が追いつかない。
「なんでも初めてモンスターを討伐した時に『わーるどくえすと』ってのを達成したからステータスを授与しますって言われたらしい」
「誰に?」
「あの変な声にだって」
オークが討伐されダンジョン踏破が成されたあの時、ダンジョン内にいた全ての人がアナウンスを聞いていた。
しかし、ぺちゃん子だったカズキだけがあの不思議な声を聞きそびれているのだ。
「そうかカズキは気絶してたから知らないんだよ」
「もったいぶらずに教えろよ!」
「スミカさんがオークを討伐した時にユキが言った通り、変な声が頭の中に響いてダンジョンを踏破したって教えてくれたんだ」
アツシが事細かに状況を説明してくれる。
自分だけが知らなかった事に唖然としていたカズキだが、何かに納得して立ち上がる。
「そうか!俺もモンスターを倒せばスキルが手に入るんだ」
「てことでモンスターを探してきます」
思い立ったが吉日。すぐに家を出ようとするカズキをユキが止める。
「外に出たらまたぺちゃん子って馬鹿にされるよ」
ドアノブに手を掛けたまま動きを止めるぺちゃん子。
「それに」と言葉を続ける。
「確かに世界中にダンジョンが出現してるけど、そんな簡単に見つからないでしょ。国がほとんど管理してて入れないらしいし」
ユキが言った通り世界中にダンジョンが次々と出来上がっている。
始まりのダンジョン光陽中学校が踏破された当初は、光陽中学校のことでニュースがパンク寸前であった。
しかしニュース番組のみならずほとんどのチャンネル、SNSを見てもダンジョンの事でオ溢れ出したのは、それから直ぐの事だった。
「緊急速報です!」
テレビを付けてこの言葉を聞かない日は無い。世界中にダンジョンが現れ出したのだ。
公園が、ショッピングモールが、ビルが、そして普通の民家でさえ等しくダンジョンになる。
普通に生活していても、悪事を働かず善良な生活をしていてもダンジョンは等しく襲いかかる。
そしてダンジョンの悪意によって生み出される悪意達、モンスターは人間に必ず襲いかかってくる。
「もしモンスターを見かけても近寄らずに逃げてください!」
緊急速報です!とセットの合い言葉。
警察官や自衛隊が駆けつけ拳銃にて討伐を試みるも、総じてモンスターに通用せず返り討ちに遭ってしまうそうだ。
世界中のダンジョンも同様でモンスターの討伐に難航している。
その為、ダンジョンを研究すべく政府がその管理を徹底している。一目モンスターを見たいという人々が押し寄せ混乱を招いた。最初は罰金等の処置だったが、今や公務執行妨害で逮捕されてしまう様になった。
「だからダンジョンに行くなんて無理なのよ、ぷっ」
新しいスイカを頬張りユキが現実を突きつける。
「ああー!!俺のスイカじゃねーか」
「だってダンジョン探すとか言って出て行こうとしたからー」
「返せ!」
無理矢理スイカを奪い返し屠るカズキ。
そんな兄妹みたいなやり取りを見てアツシは嬉しそうに微笑んでいる。
子供の様なカズキとユキといるせいか大人に見えるアツシ。これが3人の日常だ。
「スキルを手に入れたら皆を助ける勇者になるんだ!」
鼻息を荒げ厨二病全開の宣言を高らかに唄う。
「じゃあ僕は背中を預けながら戦ってあげよう」
「私はヒーラーかな聖女って呼んでもいいよ」
自分でも馬鹿なことを言っていると思う。
そんなカズキの夢物を馬鹿にする事なく乗ってきてくれるアツシとユキ。
大切にしようと思える存在が心を暖める。
「さて僕は用事があるから帰るかな」
ご馳走様と言葉を残し立ち上がるアツシ。
「じゃあ私も帰ろスイカ無いし」
「けえれけえれ!」
早く帰れと言わんばかりにしっしと追い払うカズキ。
「マキさんによろしく」
「私からもマキちゃんに言っといてー、またスイカよろしくって」
「はいはい」
人の母親を友達のように扱う2人だが悪くない。
ツンケンしているカズキは内心家族のような2人といると心が温まるのだ。
大きく音を立て閉まった玄関が1人孤独になった事を告げる。
「暇だな」
ついつい独り言が出てしまう。
学校は毎日毎日行きたくないと思う。
しかしいざ急な長期休暇になると無性に恋しくなってしまう不思議なものだ。
家で出来ることはここ1週間でやり尽くしてしまった。
インクを塗りあうゲームにハマっているがアツシ達と通信プレイを行うのはまだ先だ。
「ああ暇だ」
外に行こうものならば、どでかいデジタルタトゥーを背負ったカズキは心を疲弊する。
何か家で出来ることはないか歩き回っても12年間慣れ親しんだ家で新しいことを見つけるなんて不可能に近い。
「海に行きたいな」
そうと思えば即実行!フットワークが軽く思い付いた事や、やりたい事はやったほうが人生うまく行くものだ。
水着を着用し庭に飛び出す。
普段うるさいが夏を感じようと思うと蝉の鳴く声が心地良い。
バケツに水を入れて足を付け、縁側に座りくつろぎ始める。
「最高だ!」
実は冷蔵庫内に残っていたスイカを食べながら、足先のひんやりとした水を楽しむ。
ただ中学校指定のブーメランパンツで無ければ尚よし。
ぴちょん
締め込みの甘かった蛇口から水滴が垂れる。
ぴちょん、ぴちょん
「うむ。水という自然が織りなす音色にうっとりする」
我ながら気持ち悪いと思う。しかしこうでも考え事をして独り言を言っていないと恥を思い出してしまう。
ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん
そう言えば水滴が滴る音は水琴といいリラックス効果があるのだとか。
心の傷を癒すのには丁度いい。瞼を下ろし視界という膨大な情報源をシャットアウトする。
ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん
それにしても漏れすぎじゃないか、蛇口閉めようかな。
水琴の聞こえる頻度が増したが、この最高の日光浴を中断するか悩む。
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
「いや漏れすぎじゃね!?」
勢いよく起き上がり、足を振りある程度水気を払い蛇口を閉めに行く。
「………」
蛇口からは何も漏れていない。
確かに夏を満喫したいと思っていたが、背筋の凍る心霊体験は求めていない。
しかし止めどなく聞こえてくる水琴はカズキの恐怖心を煽ってくる。
怖くて独り言も出ない。
塀を越えた先のお隣さんかな、と思いたいが明らかに敷地内で音がする。
最初は風情ある音に感じていたが、今は恐怖以外の何者ではない。
いいやこんな事で怖がっていたら勇者になんてなれる訳が無い。
明らかに音がする発生源へと恐る恐る歩を進める。
思い込みとは怖いもので、自分で閉め忘れた蛇口から水が滴っていたと思っていたが、庭の隅が発生源となっている様だ。
そこは小さい頃に亡くなった父親が作ってくれた秘密基地だ。
庭の隅にある小さな山。父親がこつこつ土を持ってきて作った大作だ。
その山の下に半地下の秘密基地があり昔はよく皆んなで遊んだものだ。
緊張と恐怖で乾く喉を唾で潤す。
集中しているのか、やけに喉越しの音が大きく聞こえる。
不恰好な階段を少し下った先にある小さな空間。
小さな机と椅子が置かれているだけの場所だが子供心くすぐる秘密基地だ。
中は陽の光が若干入るものの視界が悪いため、簡易的なライトが置いてある。
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
ライトを付けるのが怖い。しかし、ここまで来て成果を上げない訳にはいかない。
スイッチに手をかけ深呼吸をして、一思いにライトをつけた。
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
音の発生源を見つめる。
ぴちょんぴちょんぴちょんぴちょん
恐怖心は無くなり、好奇心に転じる。
アニメやゲームの世界から飛び出してきた様な奇怪な存在が跳ねていたのだ。
丸く半透明なボディ
ゲームの中で勇者を目指す時、誰しもが一番初めに対峙する相手。
知名度No1モンスター
スライムがそこにいた!!!
最後までお読みいただきありがとうございます。
もし面白かった!続きが読みたい!と思ったら、広告下にある【☆☆☆☆☆】評価ボタンで応援をお願いいたします。
又、ブックマークや感想を頂けると励みになります。