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第19話 大の字を決め込む功労者

カズキは今の自分の力を試したい気持ちが膨れ上がり、爆発寸前だった。

高揚する感情のせいか周囲に自分の実力が露見されることなど、頭に無くなってしまっていた。

殺意が込められた棍棒を、自分よりも大きな棍棒を真っ向からロングソードで迎え撃つ。

ロングソードの倍以上ある鈍器をだ。


ロングソードと鈍器が交わった瞬間、今まで感じたことのない衝撃が剣身からカズキの腕を伝わり、身体中に走り抜ける。

恐らくステータスを取得する前や、直後だったら剣もろとも吹どばされるか、最悪の場合両腕ごと剣が吹き飛んでいただろう。

どれだけの技術があれば、スミカはステータス取得直後にこの攻撃を受け流せるのだろうか。


棍棒とロングソードは拮抗せず互いに弾かれた。

冒険者になって言ってみたかった言葉ランキング4位を叫ぶ。


「スイッチ!!!」


嬉々爛々とした表情で棍棒を弾いたカズキの両脇から、同様の表情をした男女が駆け抜け刃を振るった。

オークの苦しそうな声が漏れる。傷が浅く光の粒子に変える事はできない。


攻撃が浅いせいか、すぐに体制を立て直しオークが反撃の一撃を横薙ぎに振るう。


「ちょ!ばか!」


カズキは急いで剣を地面に突き刺し、2人の背中を引っ張り後方へ投げる。

焦りにより思いの外力が入り、そこそこ後方に転がる2人。

やべ、ごめん。後であやまろ。


「今日イチのダメージなんですけどっ」


「助かったカズキ!」


なんだかんだ上手く受け身を取る運動神経抜群コンビ。

棍棒を振り切ったオークに追撃すべく、カズキが動いていた。


武器は地面に突き刺しており回収するのにワンテンポ遅れてしまう為、カズキは体術で対応することにした。

2人を後方に飛ばした反動を利用し、前方にドロップキックを放つ。

またしても実力を隠すことを忘れて本気の蹴りが炸裂し、オークが地面にワンバウンドし3m程吹き飛ぶ。


「うふひゅっ」


重たい一撃をくらったオークが短い悲鳴をあげる。

それと重なり変な声も聞こえた。

変な声を上げた主はドロップキックを放った後、受け身を取らなかった為、顔面着地を盛大に決めたカズキだった。


今までの熱量が吹き飛び、その場が凍りつくのをお団子お姉さん事サヤは感じ取った。

そんな雰囲気に負けじと襲いくる爆発的な笑いたい衝動。

体内から込み上げる場違いな衝動を、手で口を塞ぎ込む事でサヤは抑えていた。

残念ながら肩は盛大に震えていた。


「いってぇ……ふがっ!?」


衝撃に表情を歪めながらカズキが立ち上がろうとしところに、思わぬ追撃が入る。


「ナイスっぅう、アシストー!!!」


それはカズキが華麗な顔面着地を決めたのを笑いもせず、怯んだオークへの追撃をしようとしたユキによるものだった。

本来はカズキの背中を利用し高く、飛び上がり落下する勢い、即ち重力を活かした斬撃を放つ予定だったのだ。

しかし思いのほか早く上半身を起こしたカズキのせいで、踏み込んだユキの右足は、背中ではなく顔面に着弾した。

その一連の流れを見たサヤの口から、押さえ込んでいた爆笑が噴き出した。


高く飛び上がったユキはロングソードをオークの頭に叩き込む。

綺麗な真っ向切りが炸裂しオークの悲鳴が上がる。

しかしオークのHPを削り切ることが出来なかったようだ。

オークは左腕で傷口を抑え、右腕でユキを潰しにかかった。


「っやば」


焦るユキを救ったのは、サヤや近くで待機しているタカシでは無かった。

ましてや顔面を踏み抜かれ大の字に寝転んでいるカズキは論外。


では誰なのか。


それは今日このフロアで誰よりも戦場を、戦況を見ていた男。

見て見て見て、見に見続け分析し吸収していたアツシだった。

アツシもユキ同様にカズキのドロップキック後に走り出していた。

ユキの攻撃でオークを討伐できなかった時の為にだ。


走っていた勢いをロングソードに乗せた逆袈裟斬りがオークの脇腹に叩き込まれ、大きなオークの身体は光の粒子へとなり消滅した。


「っしゃあ!!!」


珍しく大きな声で感情を押し出すアツシがガッツポーズをし掌を上げる。

そこに吸い込まれたユキの掌が乾いた破裂音を鳴らす。

それは本来ならレベル差的に敵わない相手に、勝利をもぎ取った喜びの祝砲。

そんな良い雰囲気をぶち壊すかのように、ドローンから聞こえるお団子お姉さんサヤの笑い声が、暫く止まらなかった。



◯●◯


「暫く1人にしてください」


またしてもオークとの戦闘後に大の字を決め込むカズキは、近寄ってきたパーティメンバーにぼやく。

自分達のボスがやられた事で、カズキ達にゴブリンは近寄らず物陰に隠れていた。


「制限時間近いから上がるってさ」


オークとの再戦を大の字で完結させた男の瞳は、いつもより潤っていた。

それはそれはもう今にも決壊しそうだ。

パーティメンバー2人は顔を合わせ笑みを浮かべる。


「カズキさんのドロップキックがHP削ってくれなきゃ勝てなかったなー」


「僕ら2人ともカズキさんがいなかったら死んでたかもなー」


2人はヘソを曲げたカズキをひたすら褒め始めた。

たしかに事実だ。カズキが今回の戦闘での功労者だ。


「カズキさんのスイッチって声痺れたわー」


「やっぱりリーダーは違うな!」


この大の字で意地を張っている男と、長い付き合いの2人は知っていた。

この男は割と拗ねやすく、一度拗ねると動かなくなることを。

だからこそ対処法も熟知している。それはもう、ひたすら褒め煽てることだ。


「「いくよリーダー!!!」」


「しゃーねーなっ!行くか!」


パーティメンバーである幼馴染達から差し出された手を両手で握り、勢いよく立ち上がったカズキの表情は先ほどまでとは打って変わりご満悦だ。


「タカシさんに迷惑かかるから早く行くぞ2人とも!」


立ち上がった勢いで出口へと向かって走り出すカズキをジト目で見つめる2人。


「ちょろすぎ」


「あとでこの話題で制裁しよう」


カズキの背中を追って走り出す2人からの制裁は、約2時間後に開幕されるのであった。

そんなことも知らず嬉しそうに走る哀れなカズキは、満遍の笑みを浮かべオークを倒した武勇伝をどう話すか考えていた。


◯●◯


「「「かんぱーい!!!」」」


グラスとグラスがぶつかり合う音が祝勝の合図だった。


「今日は皆んな頑張ったからお姉さんが奢ってあげる!」という言葉に群がる若者3人と社長が1人、サヤとタカシ合わせて6人で焼肉に来たのだ。


「にくにくー!」


「ちょっと私が選ぶんだけど!」


誰が肉を選ぶかで猫みたいな喧嘩を始めるカズキとユキ。

見かねたアツシがタブレットを取り上げ「タブレットは僕が管理します」と宣言。


「カルビが良いであります父上!」


「私はハラミが食べたいパパ!」


「社長達の方が先に決まってるだろ」


アツシの父性に訴えかける作戦にシフトチェンジした2人を一掃するアツシパパ。


「まあまあ今日頑張ったのは3人なんだし好きなもの選びなよ!食べ放題なんだから」


「カルビカルビ」


「ハラミハラミ」


サヤの優しさに一瞬で群がるピラニア達に頭を抱えながらも、タブレットを操作し注文を行うアツシ。


「社長は何にしますか?」


「ぷはー!私はつまみとビールさえ飲めれば何でも良い!!!」


勢いよく空のジョッキをテーブルに叩きつけ、おかわりアピールをするケイコ社長。

混沌とする祝勝会に頭を抱えながらタブレットを操作するアツシ。

そんな状況を見てサヤはニコニコと笑っていた。

話は進みダンジョンでのことを聞き始めるケイコ社長。


「んで!3人はどうだったんだいサヤ」


「3人ともかなり戦えてましたよ。ユキちゃんはセンスの塊で剣術がかなりの腕でした。怖いもの知らずで前衛まっしぐらですね。アツシくんは分析力と適応能力が高く、最善の対応をするように動く意思が見え、安定した戦闘をこなしていました。」


ユキとアツシへの評価はかなりのもので、期待の新人だと結論が出ていた。


「あのビックマウス君は?」


「カズキくんは他2人のようなセンスは見られなかったんですけど、地の力というか運動能力に長けていて、ぎこちない戦い方でしたが力でねじ伏せるパワープレイヤーでした。戦闘経験を積んで地の力を使いこなせれば化けると思います」


サヤの分析力は確かなものでカズキの現状を言い当てていた。

カズキは最弱のスライムを潰すだけの作業で力を手に入れてしまったが故、ステータスだけ上がってしまった一般人なのだ。

戦闘経験が皆無で運動神経が良い訳でもない。その為、サヤの評価通り経験値が足りないのだ。


「地の力が強いねえ。口だけで終わらないことを祈るよ」


他2人に比べると評価が低い結果となったカズキは席にはいなく、心の中で安堵するアツシ。

ではカズキはどこかというと、食べ飲み放題という誘惑に負け飲みすぎたコーラで爆発寸前の膀胱を解放しにトイレにきていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。


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