第18話 L級ダンジョンでの再会
どうにか書けたので本日3/17 2投稿目です!
「注意事項は以上となります。ご武運を!」
笑顔が素敵な受付お姉さんは、歓迎の挨拶をしてくれた。
たとえレベリングとはいえ危険が伴う場所に行く相手に対し、笑顔で元気よく言うセリフなのであろうか。
注意事項は沢山あった。
①各階層のフロアボスは討伐しても良いが、5階層のボスは討伐してはならない。
②他の冒険者と戦闘してはいけない。
③制限時間8時間以内に退場すること。
④制限時間8時間を超過した場合死亡したものとして扱う。
⑤入場前に遺書を提出すること。
⑥推奨レベル以上の階層に入場しないこと。
⑦救助目的以外で他の冒険者の戦闘に参加してはならない。
L級ダンジョンはボスモンスターを討伐しない限り踏破されないので、それ以外のモンスターはいくらでも討伐し放題なのだ。
「今までありがとう!とか簡単な言葉で大丈夫ですよ」
遺書を初めて書く相手に向かって言うものでは無いであろう。
カズキは受付お姉さんの精神を疑った。
カズキ達は初めて描いた遺書を提出した。
なんだか少し寂しくなるのは何故だろう。
簡易的であるが遺書を書いたことで緊張が入り混じり、皆口数が減っていた。
川崎駅に隣接した入口から入場し中央広間に辿り着いた。
そこには武器や防具、魔道具を取り扱う出店が大量にあった。
この中央広場はモンスターが出現しない安全地帯らしい。
「すごいね、ゲームの世界に迷い込んだみたいだ」
アツシが感動の言葉をあげるのも無理はない。
ここは世界でも屈指のダンジョン探索用具専門店が並んでいるのだから。
冒険者産業は大きく分けて2つ有る。
1つ目はダンジョン踏破による報酬とドロップ品売却。
2つ目はドロップ品を加工し製品を製造、販売する事で利益を得る。
今、目の前に広がる光景は後者の出店達であり、初めて見るカズキ達は目を輝かせていた。
「じゃあ時間無いし1階に行こうか!」
無情にもお団子お姉さんサヤは、レベリングを優先し先を急がせた。
L級ダンジョン【ラゾーナ】は各階層に推奨レベルがある。
1階が1〜10、2階が11〜20、3階が21〜30、4階が31〜40。
そして5階がボス部屋であり推奨レベル70代である。しっかりとボスモンスターだけはA級ダンジョン上位の強さを誇っているときた。
A級ダンジョンであるが階層ごとで出てくるモンスターのレベルが固定されているのが特徴だ。
階段を下った先の1階フロアには大量のゴブリンがいた。
あの日、世界に初めて出来たダンジョン【光陽中学校】で、カズキが初めて遭遇したモンスターであり、命の危機を生まれて初めて味あわされたモンスターだ。
大量のゴブリンを見て「この時期は初心者がいないから大量だね」何ていいながら指を差しながら数えているサヤが続けて言った。
「3人が危険になるまで手助けしないから死ぬ気で戦え!以上が社長からの伝言だよ」
そうして口元にホイッスルを持っていき、盛大に大音量を鳴らす。
「嘘でしょ…」
ユキの顔面と声が引き攣る。
「んじゃあ!出勤初日がんばれみんな!」
後日、新入社員一同はこの瞬間、揺れるお団子に殺意を覚えたと語る。
緑色の皮膚、長く汚い爪と歯、大きな黄色い瞳の小鬼達が獲物を見つけ、歓喜の雄叫びを上げる。
カズキの脳裏にあの日の光景が映る。
あの日、トイレからの帰り廊下を歩いていた時に出会い、人生で初めて死の危機に陥った時のことを。
大きく息を吸い込みロングソードを構えゴブリンを待ち構える。
俺はレベルが32だから問題ないけど、2人はまだレベル1だ。
3人で固まって、お互いをカバーし地道に討伐した方が安定するだろう。
「みんな固まっ」
「討伐数少ないやつが今夜の焼肉奢りねー!!!」
「僕は寿司がいいな!」
カズキが待ち受ける姿勢の中、幼馴染2人は呑気に晩御飯のことを考えながら、大量のゴブリン達へ向かい走り出したのだ。
レベル1〜10推奨のモンスターが大量に向かってきている中へ。
2人は先のことを考え目の前の事に向かい走っているのに、カズキは守りの姿勢で後のことばかり考えていた。
この時点で差を感じてしまった。
きっと2人は根っこから冒険者なのだろう。
この数秒の間で劣等感を感じたカズキは奥歯を軋ませ走り出す。
「バカいえ!焼肉決定で最下位はサラダオンリーだろ!」
4匹のゴブリンがカズキに醜悪な笑みを向け飛びかかる。
1番前にいたゴブリンをロングソードで切りつけると、ゴブリンが苦痛に顔を歪め声を上げ光の粒子へ昇華する。
初めて生きも物を切った感覚に腰が引ける。
しかし怖気付いている暇はない。
2匹のゴブリンがカズキに噛みつこうとしていた。
片方のゴブリンの頭を思いっきり剣の腹で殴り、その反動を利用し反対のゴブリンの首を刎ねる。
2匹のゴブリンの後ろから、大きく棍棒を振り上げたゴブリンが現れる。
剣を振った遠心力を利用して回転し、醜い土手っ腹回し蹴りを吹き飛ばす。
「あれ?」
ワーウルフを討伐した時に出て来た【アストラル因子】ってのが出てこない。
あれは何だったんだろう。
「やっば!」
ユキの焦りが混じった声を聞き振り向く。
2匹のゴブリンに対して綺麗に剣を振うユキの姿があった。
その姿は焦る声を出す必要は感じられない。
「楽しい!癖になりそう!」
実家の影響で学んだ剣道のお陰か、ゴブリン達の動きをしっかり捉え対処している。
心配して振り向いた事に憤りを感じるくらい、彼女は楽しそうに戦っていた。
「なんで楽しんでんだよ…」
生き物を殺めるのに喜びを得ている自称聖女様にドン引きする。
やはり大事なリミッターが外れてしまっているんだろう。かわいそうに。
それに比べて奥で戦っているアツシは少しぎこちない戦い方をしている。
だがアツシは持ち前の分析力と判断力で、壁を背にし奇襲を防ぎながら1匹、1匹と安定的な戦いをこなしている。
「カズキくん!よそ見はダメだよ!」
近くに飛んでいたドローンからサヤさんからの注意が鳴る。
ユキとアツシを見ていたカズキに数匹のゴブリンが、ここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。
カズキは振り向くのと同時に剣を振いゴブリンを光の粒子へ変える。
スライムの身体となり視覚が全方位となったカズキに奇襲は通じない。
「お、おみごと!」
ドローンから困惑と驚きの声が上がる。
よく見ると3人の周りには各一台ドローンが飛んでいた。
このドローンでカズキ達を監視しているのだろう。
余裕はある。
正直今更ゴブリンには負けないであろう。
しかしカズキはレベルに見合った戦闘を行わずに成長してしまった。
その経験不足を今ゆっくりと取り戻していく。
襲いくるゴブリンとの戦闘を開始してから7時間が経とうとしていた。
幾らA級ダンジョンとはいえモンスターの補充が間に合わず、ゴブリンの数が激減した。
かといってもカズキ達1人に対し3匹のゴブリンが襲ってくる。
その中をゆっくりと歩いてく巨体。
カズキをぺちゃん子にしたモンスターが歩み寄る。
L級ダンジョン【ラゾーナ】第1階層フロアボス オーク。
オークがあの日のリベンジと言わんばかりにカズキへ歩み寄ってきた。
そのカズキの身長くらいある棍棒に闘志を纏わせ、己の階層を荒らした侵入者を排除すべく歩を進めている。
周囲の小鬼達が道を開ける。
「さすがにフロアボスは無理があると思うなー」
緊迫する空気を切り裂く間の抜けた声がドローンから鳴る。
「ちょうど時間だし、ここは撤退しよう!…ってカズキくん!?みんなも!?」
リベンジだった。
あの日討伐されたのはオークだけじゃない。
世間に醜態を晒し、『ぺちゃん子』なんて不名誉なあだ名を全国周知させられた哀れな少年もリベンジに燃えていた。
冒険者を目指すきっかけになった憧れの人が討伐した怪物を目にし、魔力で操作しているはずの身体が勝手に走り出していた。
「5年ぶりのリベンジだな!怪物野郎!」
握りしめたロングソードの柄が軋むほど力が入る。
初めてモンスターと戦うのに心が躍る。
「大物は私の獲物でしょ!」
「いやいやチーム戦だからね2人とも!」
すぐ後ろを走るパーティメンバーが声を上げる。
カズキは後ろを振り向きたくなかった。
レベル、体格差のある強敵を一緒に討伐すべく、肩を並べてくれる仲間に照れた顔を見られたくなくて。
殺意が込められた棍棒を鬼が大きく振るう。
ドローンの画面越しにカズキ達を監視していたサヤは「あちゃー」と頭を抱えていた。
連戦で体力を消耗している3人組が、まさかフロアボスに挑むと思っていなかった。
「タカシ!念の為、あの子達のそばで監視して危なくなる前に手を出して!」
サヤは第一階層入り口で携帯ゲーム機で時間を潰していた弟に指示を出す。
その間もカズキ達の動きを3台のドローンで監視し続けていたサヤの口から「なっ!うそでしょ!?」と焦りの感情が吐露する。
カズキが大きく振るわれた棍棒を、避けることなく真っ正面から受け止め様としているのだった。
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