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第17話 男のコレクションは命

こんにちは。


今日は日曜日なので頑張って2話投稿しようと思います!

「なんっにもない!」


何もない部屋に響くユキの甲高い声。


「何もない部屋ってこんなに音が響くんだな」


カズキが大きな鞄を下ろした音でさえ大きく響く。

そう、ここはケイコ社長との契約で借用している事務所という名の一軒家だ。


「アツシは親の説得に時間かかってるのかな」


「アツシママ厳しいからねカズキはマキさんどう説得したの?」


「説得も何も好きにしたらー、で終わったユキは?」


「うちの両親は私に興味ないから余裕」


ユキはダブルピースで指を曲げたり伸ばしたりする。

それから何もない部屋にアツシがたどり着いたのは3時間後のことであった。


「さすがに考えが浅すぎでは?2人とも」


「いやー着替えだけあればいけると思ってました」


「右に同じく」


仁王立ちするアツシの前で膝を揃えて正座しているユキとカズキ。

何を隠そうこの2人は、これから住む家に1日分の着替えしか持ってきていなかったのだ。


「1日分の着替えとお菓子ってお泊まり会ですか?この年で五千万の借金をした人間の行動とは思えないですね。寝る時の布団はないんですか?」

 

正座させられたカズキとユキの唾を飲む音がハモる。

アツシが敬語口調になったからだ。

アツシが敬語になると長い長い説教が始まるのを2人は身を持って知っている。

いち早く誠意を見せないと止まらなくなる。


「「ごめんなさい!今すぐ荷造りしてきます!」」


2人は勢いよく床とデコをフレンチキスさせ、これでもかと謝罪の意を見せ実家に帰って行った。


なんだかんだ川崎に住んでいる馬鹿な2人は、すぐに生活必需品を担いで帰ってきた。

しっかり3部屋あり、各自自室を手に入れ各々の荷物を整理する。


「うわ、それ持ってきたの」


「おいノックくらいしろよ異性の部屋だぞ」


「必要ないじゃん」


「無視すんなおい、てかこれは1番必要だから。モチベーションが変わるんだよ」


ユキが指摘した物とは、カズキが大事にしているソフビコレクションである。

「ソイツ」という特徴的な顔をした人型のインディーズのソフビだ。

かなり人気で転売価格が異常なのが困り物だ。転売ヤーはいつか撲滅してやる。

それを布団と着替えがパンパンに詰め込まれた大きい鞄しかない部屋の壁際に等間隔で並べる。

いつかお金に余裕が出来たらコレクションラックを買うんだ。


◯●◯


「ふぅーあづい」


風呂上がりのユキがエアコン下で涼んでいた。


「ほい」


「あざっす」


同じく風呂上がりのカズキが隣に座り込み、最中状のアイスを割って渡す。


「アツシの分は?」


「もち冷蔵庫っす」


「さすがっす」


最中が噛まれ割れる心地良い音が鳴る。


「ユキさんユキさん」


「なやだねカズキさん」


アイスが2人のお腹に納まった後、カズキが声をかける。


「さすがに露出度高すぎるんでね?」


風呂から出てきたユキは、スウェット生地のショートパンツに丈の短いキャミトップを着用している。

その腹回りは露出されユキの綺麗なくびれが露となっていた。


「なに興奮してんの?」


「俺は断然巨乳派」


「はい!殴る!」


「いってえ!殴ってから殴る宣言すんなよ!」


「全貧乳女子を敵に回した事を後悔させてやる!」


「たとえ貧乳が好きだったとしてもお前には興奮しねえよ!」


カチンっ

 

確かに聞こえた。

頭の中で怒りのスイッチが思いっきり入った音が。


「そーいえば思い出したわ」


「な、なんだよ」


怒っているはずだ。

しかし激昂せず揺れながら近寄ってくるユキに恐怖を感じる。


「言ったよね?落ちたやつグーパンって」


確かに言っていた。

冒険社アースの就職に落ちたやつがグーパンだと。


「いや、でも…ちょっ」


怒りを込めるのは違う気がする。

怒りを纏った拳は大きく振りかぶられた。


「歯ぁ喰いしばれぇぇぇ!」


大声と共に振り抜かれた拳は音速にも等しい速度で、カズキの顔面へと吸い込まれていった。

それはまるで元より顔の一部だったかの様に、顔面に深く深くめり込んだのだった。


「あふひゅっ」


人間は他者に対し暴力する際、自然と手加減をしてしまう。

理性なのか何なのか、そんなリミッターが外れたものを、人はキチガイと呼ぶ。


子供の喧嘩のように奇声をあげ揉みくちゃになる2人を、風呂上がりのアツシが冷蔵庫から取り出した1/3だけの最中アイスを食べながら、只々見ていた。


◯●◯


「手始めにL級ダンジョンに行ってきたまえ!」


人生初の出勤をした3人にケイコ社長が高らかに命じる。


「L級ダンジョンってなんですか?」


アツシが恐る恐る聞く。


「知らないのも当然!頭文字のLはレジェンドのLでS級ダンジョンに肩を並べる最強のダンジョンだ。そこで君らにはパワーレベリングをして貰う」


S級である世界三大ダンジョンを凌駕するL級ダンジョン。

レジェンドダンジョンにてパワーレベリングを進めてきたのだ。

余りにも無茶な提案を、いや指示を出してきた。


「社長…私見てられないです皆んなの顔見て下さいよ」


返答に困っていた3人にお団子お姉さんことサヤが助け舟を出す。

そんな3人は真顔だ。

真顔だがしっかり理解できる表情だった。


「みんな何言ってんだこの人って顔してますよ…」


ケイコ社長が独特な高笑いを決め込み話始める。


「ああ、すまない。ついこの子達はからかいたくなる。L級ダンジョンとはレベリングダンジョンの略称だ。日本最大のA級ダンジョンであり日本最弱のA級ダンジョンだ」


「A級最弱でもレベル1の駆け出し冒険者が行ける場所じゃ無いんじゃないですか?」


「ユキ君の言う通りだ。本来ならの話だ。L級ダンジョンはA級の枠組みから外れC級のモンスターで溢れるダンジョンでもある」


L級ダンジョンとはA級ダンジョンの規模であるが、スポーンするモンスターが弱く討伐しやすいことからレベリングに用いられるダンジョンなのだとか。


「数少ないL級ダンジョンの中で川崎駅西口にあるL級ダンジョン【ラゾーナ】は、フロアによってスポーンするモンスターのランクが分かれているから効率よくレベリングが出来るんだよ」


ケイコ社長による説明の後にサヤが補足してくれた。


「サヤ!タカシを起こして行ってきなさい」


「わかりました!みんな先に車に乗っててコレで開くやつ!」


カズキに車の鍵を渡すサヤ。

サヤは鍵が落ちない様に、カズキの手の下に手を添えながら渡した。

それはレジで異性の店員にお釣りを渡される時、ドキッとくるランキング1位のあれだ。

そして元気に頭のお団子を揺さぶりながらサヤは2階へと消えていった。


「いてっ、おい何すんだよクソユキ」


「いやごめん、サヤさんに見惚れてる顔が見てられなくてつい」


「はいはい車にいくよ」


一触即発な状態の2人の間に割って入ったアツシが、鍵を奪い車へと2人を誘導したのだった。

結局車に乗り込んで3人だけになった瞬間、いつもの口喧嘩が始まったわけだが数分後に沈黙へと変わった。


「こいつが私の弟でうちの稼ぎ頭のタカシ、ちょっと愛想が悪いけど良いやつだから!」


タカシの頭を掴んだサヤが「ほら挨拶挨拶!」と施すとギリギリ聞こえない声で「ーっす」と挨拶をしてくれたので、全員で自己紹介をしたが無反応だった。

「挨拶できないやつは犬以下だ!」と体育教師が会うたび言っていたのを思い出す。

挨拶って大事だな。


「自己紹介も終わったことだし行きますか!」


サヤの運転する社用車でL級ダンジョンに向かう車の中で質問を受けた。


「出社した時から気になってたんだけど、そのジャージはお揃いで買ったの?」


3ストライプが刻まれた人気ブランドのジャージを着用している3人。

カズキが青色、ユキが緑色、アツシが赤色と各々基調が違えど同じブランドで統一していた。


「これはマキさん、カズキママがお揃いで買ってくれたんです」


「へーみんな気に入ってるんだね」


「いやこれしか動きやすい服なくて仕方なく」


「またまたー照れ隠しは逆に可愛いぞー」


他愛もない話をしている間に目的地へと辿り着いた。


「さてと!みんなは教習所で貰った初期装備を装着してね」


初期装備とは国が格安で売ってくれる最低限の装備である。

自分の冒険者登録番号で一回しか購入することが出来ない様になっている。

内容は急所を守ってくれる皮の鎧と武器である。武器は数種類あり自分で選ぶことができる様になっている。


「みんなロングソードって仲良いねー」というサヤの一言に2人の男女が即反応する。


「「そんなことないです!」」


「そうだよねーごめんごめん」と言うサヤの顔はニッコニコだ。


「なかなか並んでいるんですね」


受付の列を見てアツシが1人呟く。


「入場に1万円かかると言ってもレベリングやドロップ品でトントンどころかプラスだからね」


「すみません僕ら入場料払えそうにありません」


とてつもない反応速度で謝罪し頭を下げるアツシ。

昨日の夜に話し合って各々の有金をまとめたが、今日の入場に掛かる3万円なんて大金を支払うと、生活に支障が出るとアツシの脳内家計簿が警笛を鳴らした。


「みんなの分は経費から払うから安心して」


「安心して!」と胸を張るサヤのふくよかな胸の膨らみが強調される。

タイトな服装をしているサヤのくびれは、服装との相性が抜群でありカズキの目を引くのに十分だった。


「いてっ、おい何すんだよクソユキ」


「いやごめん、サヤさんに見惚れてる顔が見てられなくてつい」


「はいはい受付僕らの番だよ」


またもや一触即発の雰囲気であったが運良く順番が回ってきたおかげで、爆発は避けられたのであった。

またしてもサヤの顔はニッコニコで2人を交互に見ていた。

サヤに会計をしてもらい、一同はしっかり感謝の言葉を述べた。


「じゃあレベリングに行くぞ野郎どもー!」


お団子を大きく揺らして音頭をとるサヤに続いて、カズキ達の気合が響き渡った。


「「「おおおー!!!」」」


最後までお読みいただきありがとうございます。


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