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第16話 カブトムシ同士の争い

こんにちは。

3/16 2投稿目です。

それは未成年に持ちかける契約として常軌を逸していた。


要約すると、カズキたち3人で冒険社企業を設立すれば全力で支援してくれるという内容だ。

しかし爆弾が一つ仕掛けてあるのだ。いや爆弾というより呪いだ。


1年間3人で住めて立地のいい事務所を貸してくれるが、契約から1年後に5千万円で買い取れというのだ。

もし支払うことが出来なければ、可能な限りの金を支払い、事務所を返却し冒険者を諦めなければならない。


夢を叶える第一歩を踏み出す代わりに、時限性の呪い爆弾を括り付けられたのだ。

抑えられていたケイコ社長の圧力が再度解き放たれる。

圧力を言葉に乗せ、カズキに問いを投げかける。


「今この場で決めるなら契約しようじゃないか」


本来ならば一度持ち帰り親族に相談が必要な高校生へ、酷な条件を突き出すケイコ社長に対しカズキは返答した。


「契約します。ペンはどこですか?」


カズキの質問に、何も恐れず契約しようとしている未成年男児に驚愕する松本家の社員。

お団子お姉さんは大きく目を見開き息を飲んだ。

ケイコ社長は大きく息を吸い込み、勢いよく吐き出すと同時に大声を出した。


「おもしろい!本当におもしろい!こんなに愉快なのはいつぶりか!」


大きく悪い笑みを顔に貼り付け「しかし」と言葉を紡ぐ。


「後ろの2人に意見も聞かずサインして良いのかい?」


そう、カズキはユキとアツシに相談もせず契約を進めようとしているのだ。

5千万の借金を3人で背負うというのに。

カズキに向けられたその問いを返したのはユキだった。


「カズキが質問してるのに、質問で返すのは無いんじゃないですか?」


「よければペンは3本用意していただけると助かります」


いや待ってくれ。

嬉しいけど何で2人とも煽り気味なの!?

俺の心臓が持たんって…


たしかに質問に対して質問することは御法度である。

しかし今この現状で煽る様な表情をし、更に質問を返すユキはやっぱり飛んでいるのだろう。

自分達も契約を結ぶ姿勢を見せる2人の言葉で、目を大きく見開いたケイコ社長の圧が膨れ上がる。


「サヤ3本ペンを渡しな」


お団子お姉さんにペンを用意する様に伝える。


「本当にこんな契約を結ぶの!?5千万なんて払えるわけないでしょ!お母さんも君たちも少し冷静になりなよ」


「冷静だよ」「「「冷静です」」」と重なる声には当人達の意思が乗っていた。

当初は諦めさせる為に見せつけた契約内容だと思い、母の指示通り作成した契約書だったはずだった。

なのに本当に目の前で結ばれそうになっている無謀な契約を、止めずにはいられないお団子お姉さんサヤであったが、当人達の意思が本物だと知りペンを3本配った。


無謀な契約書に、サインを書き込む。

3人で冒険をする為の第一歩を踏み込んだのだ。

いや決意を固めたMECでのあれが、一歩目なら二歩目である。


「社長3人ともサインし終わりました」


先ほど大声で止めに入った時とは違い、冷静な声で契約書を上司に渡すサヤ。

契約書を受け取ったケイコ社長は名前を記名した後、大きな判子を取り出し押印した。


「ようこそ冒険者の世界へ!」


今日半日の間で沢山の修羅場があった。

しかし今この瞬間、カズキは1番緊張し膨大な感情が胸の底から溢れ出していた。


「よろしくお願いします!」


頭を深く下げ、感謝の意を言葉に乗せた。

床から跳ね返ってきた声の大きさが、カズキの感謝の大きさを表していた。

嬉しそうな笑みでケイコ社長が投げた何かを掴み取る。


「今日から3人で住みなさい」


「今日からですか?」


「今日だよ冒険者に二言はないよ」


「わかりました!」


それは今日から3人で過ごす、否、立ち上げる会社となる建物の鍵である。

見た目よりも重く感じるのは当然だ。

1年間でこの建物の代金を用意しなければならないのだから。

夢の扉を開く鍵にもなるが、夢を潰える錠にもなる。


「学校には我が社からインターンとして受け入れる事を伝えるよ。卒業式以外はダンジョン攻略に勤しむ様に」


こうしてカズキ達は冒険者として起業することになったのだった。


「ど、どうしよー!!!」


松本家からの帰路で奇声を上げたのは、カズキやユキではなくアツシであった。

ここまで焦るアツシを見て驚く2人。


「母さんになんて言えばいいんだ」


首が90度曲がり項垂れる少年の母親は、大手企業に務めるキャリアウーマンであり、かなり優秀な女性だ。

そのせいかアツシへの期待が高く超教育ママで超厳しいのだ。

その期待に努力で応え続けているからこそ、アツシは門限無しでカズキの家に遊びに行けていた。

小さい頃から一緒にいるせいでカズキやユキもアツシママの恐ろしさは身に刻まれている。


「うう私も想像しただけで身震いする…」


「確かにアツシママこええからな」


2人は昔の記憶を思い出し、己の身を抱きしめながら大きく震える。


「とりあえず誤魔化すしかないかな」


大きくため息を吐きながらアツシは母親と向き合う事を決めた。


「嘘を付く時は真実を織り交ぜながら話すと良いよ」


「参考にするよ」


ユキからのアドバイスは的確であった。

嘘をつく時は真実を少量加えるだけで信じられる可能性が格段にUPするのだから。


「さすが高校では良い子ぶってる大女優様だ」


高校でのユキは人当たりも言葉遣いも良く大勢から信頼を得ている。

しかし幼馴染の前だと口が悪く、だらしないのだ。

もちろんカズキ達の前にいるユキが本物で、人前に出ている時は分厚い毛皮を纏っているのだ。

それをカズキが皮肉を込めていじる。


「あ?ここで働かせてくださいジブリ男がなんだ?え?」


「はい言ったな?突いちゃいけないとこ突いたな?今日という今日は泣かすクソユキ!」


「受けて立ってやろう!人間を討伐したら経験値が入るのか検証してやるよバカズキ!」


カブトムシ同士の戦いの様におでこを擦り付け合いメンチを切る2人。

それを見て一応止めに入るアツシは先ほどまでの暗い顔とは違い、嬉しそうに笑っていた。

仲が良い故に頻発するカズキとユキの喧嘩はおしどり夫婦の様に仲睦ましく、それに介入出来るのはアツシだけの特権であり楽しみである。


喧嘩しているのに何故か嬉しそうな3人組。

互いが互いに補完し合う関係であり、誰1人欠けてはいけない。

そんな3人で冒険者へなった最高の日であった。


次の日、松本家に初出勤した3人を待ち構えていたケイコ社長が大きな声で指示を下した。


「手始めにL級ダンジョンに行って来たまえ!」


A級やB級、C級でもなくL級。

ましてやS級ですらないL級ダンジョンはとは何なのだろうか。


最後までお読みいただきありがとうございます。

3/10〜16の間は毎日2話投稿します。


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