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第15話 ぺちゃん子の知名度と契約

こんにちは。

3/16 1投稿目です。

S級冒険者トウコが成した最初の偉業。圧倒的格上のモンスター討伐。

成人男性程の凶器を振り回すオークを、ステータス取得直後に討伐したのだ。


巨大な図体が迫ってくる。

トウコの助けになると思い戦闘中、必死にオークの足にしがみ付いていたカズキが、力尽き倒れるオークから逃げられるはずも無かった。


「うふひゅっ」


圧迫により肺から無理やり押し出される空気と共に、意識を手放してしまったのだった。

化け物の命が尽き光の粒子となって消えた後から、潰れたカエルのように気絶しているカズキを見て世間は、世界は【ぺちゃん子】と称して笑った。


そんな不運な少年が、そんな傷口をえぐり返され放心状態となる。

極度の緊張状態にあったカズキの精神が引きちぎれたのだった。


「………」


「大丈夫かい?カズキ」


「さすがに同情するわね」


肩を掴み心配するアツシと目を背けるユキであった。

暫くしてからバツの悪そうな顔をしたお団子お姉さんが帰ってきた。


「いやーごめんなさいテンション上がっちゃって」


「…いや大丈夫です」


お団子お姉さんに「どうぞどうぞ」と施され案内されたのは社長室だった。

大きな机に大きな椅子、フローリングでは無い大理石の床、大量の書物が詰め込まれた棚がある部屋は、一軒家の中だということを忘れさせられる完璧な社長室だ。


「社長連れて来ました」


「はじめまして私は株式会社松本の社長を務める松本佳子。いやはや話題の人物が我が社に何ようかね?」


とんでもない圧力だった。

冒険社企業と言えど一社会人が出せる圧ではない。

たぶん、いや確実にステータスを取得しているだろう。


「神奈川県川崎市光陽高校から参りました佐倉和希です。本日は御社に入社したく参りました。」


「同じく大内敦です」


「同じく石井夕記です」


「高校生かい、質問に対し結果のみを簡潔に答えるのは素晴らしいことだ。今後も継続する様にね。それはさておき、ウチは求人なんて出していたかい?」


バカみたいな圧を出してくるな。この人絶対冒険者だろ。

真正面で受けているのが俺でよかったな。

レベル1の2人が真正面から受けてたら、倒れるぞこんなの。


真剣な話し合いの最中なのに考え事をしてしまう。

それ程の圧を目の前の社長は向けて来ている。

こんなの一般人に向けていいものではない。


徐々に圧を上げているな。後ろの2人大丈夫かな。


「いえ求人情報はありませんでした」


「じゃあ何でウチに来たんだい?返答によっては学校への報告も検討している」


喉の奥がひりつく。

室内の緊迫した雰囲気が濃くなっていく。

これから返す言葉によっては人生が変わるであろう。

目の前の社長に変な事を言えば、冒険者企業という狭い世界で、カズキ達の不評はすぐに広まってしまうのだから。


口の中に残っていた僅かな唾を飲み込み、言葉を絞り出す。


「僕たちは…俺たちは5年前冒険者になってパーティを組むと約束しました。後ろの2人は冒険社アースに内定を貰ったけど、俺だけが落ちてしまいました」


悔しさが込み上げてくる。

本人は気づいていないが、感情的になり1人称が「僕」から普段の「俺」になってしまっている。

叫び出したくなるのを噛み殺し話を続ける。


「2人は大手の内定を蹴って俺とパーティを組むことを選んでくれたんです」


そんな2人と俺は。


「他の冒険者企業で2次募集を探したけど見つからなかったんです。でも貴社だけが募集をかけていなかったから、少しの可能性に縋ることにしました!」


ありのままを話した。包み隠さずにだ。

あとは気持ちをぶつけるだけだ。


「貴社で、俺たちを働かせて下さい!」


「ダメだ」


検討などせず一瞬で返答された。

しかし後がないカズキの想いは止まらなかった。


「お願いします!ここで働かせて下さい…俺は2人と冒険がしたいんです!」


そう俺は2人と冒険がしたいんだ!


「………くっ」


ワナワナと震えるケイコ社長。

引き下がらないカズキに嫌気を刺したのか。

激情と共に吐き出された言葉は意外なものだった。


「くくくっ…あーっはっはっは!」


この部屋に漂っていた緊迫した雰囲気は、彼女の爆笑に吹き飛ばされた。

先程まで放っていた圧力も無くなり呆然とするカズキたち。


「おもしろい!おもしろいよ君!」


「あ、ありがとうございます」


大きな拍手と称賛を贈られたカズキは念の為、返答をする。

何が何だか全く把握できない中、お団子お姉さんだけが頭を抱えていた。


「この業界に長いこといるが、本当に冒険しようとしている人間を久々に見た気がするよ!素晴らしい!」


ケイコ社長が立ち上がり、コピー機から印刷された紙をカズキの前に差し出す。

状況的に受け取るべきだと思い、受け取る。


「私と契約を交わそうじゃないか」


ニタリと開かれた口から覗く白い歯が、カズキ達に食いついた瞬間だった。

その歯は深く深くカズキ達の体に沈み込み、冒険者ライフに影響を及ぼす事になるのだった。


◯●◯


株式会社松本家(以下 甲 という。)と(以下 乙 という。)は下記内容で契約を終結する。


第一条

 一年間甲は乙が創業する事業への支援を怠らない。


第二条

 この紙面へ乙が記名する事で本契約を成立する。


第三条

 甲の所有する事務所を一年間貸与する。


第四条

 契約日から一年後、乙は甲へ金五千万円を支払う。


第五条

 前項にて指定された金額を支払うことが出来れば、第三条にて貸与していた事務所の所有権を甲は乙へ引き渡す。尚、支払うことが出来ない際、乙は甲へ可能な限り返済を行うと共に冒険社事業を永久的に行わないものとする。


    年  月  日

 

甲 名                 乙 名




最後までお読みいただきありがとうございます。

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