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第14話 太郎物語 Episode.1

おはようございます。

3/15 3投稿目です。


昨日、メンテナンスで2話投稿出来なかったので、本日3話投稿します。


俺の名は寺田太郎だ。


幼少期から勢いと楽しさに身を任せ、好きに生きてきた。

そのせいで碌に勉強もせず人生を軽んじていた。

大学も行かず就職したが面白くないので辞職して、再就職。

そして詰まらないから辞職して再就職。それの繰り返し。


気がつけば行き場の無いフリーターになっていた。

賃金が良いし、客が少ないから深夜や早朝バイトをして生計を立てている。


無気力だった。


何もやる気が起きない。

生きていく為だけに働く人生に嫌気がさしていた。

両親は北海道に住んでいるので、適当な正社員をこなしていると嘘を吹き込んでいる。


「いらっしゃいませー」


こんな朝早くに客が来やがった。イケメン野郎め。

早朝の良いところは人が来ない事なのによ!

大盛りポテトだけ頼むなよな面倒くせえ貧乏人め!

無駄に面倒なんだよ大盛りポテトはよ。


「いらっしゃいま、せ…」


ムシャクシャしながらポテトを揚げていたら美少女が来たああああ!

小柄で胸は無いがスタイル抜群のキングオブボブだ。

最高の癒しだ。1週間は頑張れるな。

てかまた大盛りポテトか。流行りかなんかか?


な!あのイケメン野郎の連れかよ!くそ!

前言撤回だ明日までしか頑張れねえ!


「っせい」


ムシャクシャも最高点に達しそうな頃、まーた客が来たよ。

適当にあしらっちまった。苦情が入らなければ良いな。

おいおいおい大盛りポテトとか嫌がらせかよ。くそ。


んだよ3人組かよ。

なら大盛りポテトシェアしろよな。

1人1個頼むなよ!


そこからは座っている美少女を見つめ、目の保養としていた。

なんだか剣幕な表情で言い合いをしている。

美少女が立ち上がってゴミ捨てた後にトイレに行ったぞ。

別れ話か?おお?


掃除をするふりして近づき聞き耳を立てる。


「結果はどうだったのって聞いてんのよ!自分の口で答えろ!」


おいおいおいおい

あの顔でとんでもなく口悪いぞ。


「そうと決まれば行動よ」


立てた聞き耳が天井に突き刺さるかと思われるほど伸びた頃、太郎は頬の違和感を感じた。

触れて確認してみた。

濡れている。

もう欠伸でしか滲むことの無いと思っていた涙が、涙腺を決壊させ止めどなく溢れていた。


青春を観た。


流れる涙で己の汚れた心を洗い流された。

垂れそうになる鼻水を啜り決心する。


「俺もがんばろう」


タロウは居ても立っても居られなくなり、制服を脱ぎ捨て走り出した。


名も決めていないパーティーが、カズキ達が初めて人を救った瞬間だった。

意図せずに行った救済と共に、カズキ達も大きな第一歩を踏み出したのだった。


「え?泣いてんのカズキ?男のくせにダサー」


「は?泣いてねーよ見てみろよこの乾いた目を!」


「あれー気のせいか鼻を啜る音が聞こえた気がしたんだけどなー」


そんな大いなる一歩を踏み締めた3人の目の前には、大きな壁がそそり立っていたのだ。


「2次募集どこもしていないね」


スマホと睨めっこしているアツシが苦い顔をしている。

各々がスマホで冒険社の二次募集を検索するも一次募集のみだらけだ。


「個人で冒険者やるのも厳しいらしいわね」


「らしいね、個人だと信用が無くて依頼が来ないらしいから」


言う通りだった。

大切な自分の家がダンジョン化した時、信用の無い企業に踏破依頼を誰がすると言うのか。

ましてや高校卒業したての低レベルパーティだ。

今ある冒険者企業はダンジョン産業が始まった最初期に手を挙げたものばかりだ。

安定化するかもわからない危険が伴う産業に手を出した本当の冒険者なのかもしれない。


ユキとアツシがスマホから手を離し考え込む中でカズキはスマホに食いついていた。


このままだと3人で冒険社に入れない!


ただでさえ足を引っ張っているというのに、次の手段も見つけられないなんて、ありあえない。

何かないか、どこか3人で安定的な収入を得られる方法は無いか。

スマホのスクロールしすぎて摩擦熱で発火しそうになる指、閉じることなくスマホを見続ける目が乾燥と疲労で爆発しそうになる。

目なんてどうでもいい。探すんだ次の手段を!


一筋の光が、否、ぼんやりと僅かに光る物をカズキは見つけた。

もうこれしかない!!


「株式会社…松本、ここしかない」


それは今年新入社員を募集していない唯一の企業だった。

ユキとアツシはカズキに目を向ける。


「ここは今年まだ募集をしていない、ここに自分達を売り込みに行こう」


カズキの突拍子もない話に2人は言葉を失う。

しかしこれが今年冒険者を始める最後の手段だと理解する。


「そんな平成初期みたいな方法で雇ってもらえるかな?」


「アツシの言う通りよ、今ホームページ見たけどここ一度も社員募集してないわよ」


反対とまでは行かないが、2人は前向きな考えじゃない。

しかしカズキは引き下がらなかった。


「チャレンジさせてくれ!2人は後ろにいて挨拶と自己紹介さえしてくれればいいから」


珍しくカズキが頭を下げるのを見て2人は真剣な表情から笑みが漏れる。

「やろうか」「やってみようじゃない」と2人の声が重なる。

熱いものが胸の中で煮えたぎる。


「そうとなったら決まりだ!松本の事務所川崎で近いし今から行こ」


学生と社会人は圧倒的な壁がある。

それは出来る出来ないを、可能性で考えるか考えないかだ。


社会人は可能性を考慮してしまい安全牌を取ってしまう。

それは社会の荒波で揉まれた結果であり、仕方ないことなのだ。

常識に囚われチャンスを掴み取ろうとしなくなる。


一方学生はとりあえずやってみる。

出来ない事に挑戦し、成し遂げる可能性を秘めているのだ。

大人になったら誰もが無くしてしまう無謀への挑戦権。

これを行使するものが、成功を掴むものであり本当の冒険者なのだろう。


「こんな時間から騒がしいな」


MEC退店時にレジに並んでいる数人の客達が大声を出していた。

しかし今から冒険に行くカズキ達には関係のない話だ。


ああも強気に出たはいものの、いざ相手の本拠地を目の前にすると足がすくむ。

もし怪訝な目をされて扉を閉められたら、もし怒鳴り散らされたらと悪い方向に考えてしまう。

しかし崖っぷちのカズキが後退りを出来るはずがない。


「よしチャイム鳴らすぞ」


目的地 株式会社松本。

チャイムのボタンに向かう指先に全神経が集中される。

あまりの集中力に指先で心音を把握できるほどだ。

鳴り響くチャイムはまるで開戦した合図のようだ。

心臓の壁面が張り裂けそうになった、その時だった。


「はーいはいはいはーい、今行きまーす!」


元気な声が足音と共に近づいてくる。

開かれた扉から顔をひょっこりと出したのは、お団子頭の女性だった。


「えーっと仕事の依頼でしょうか?」


頭をかしげて訪ねてくる。


「神奈川県川崎市光陽高校から参りました!佐倉和希です!本日は御社に入社したく参りました!」


間が開く。最悪の沈黙だ。

お団子お姉さん以外の3人は呼吸が出来なくなる程、地獄の様な間だった。


「え!?え、うちって求人出してたっけ?え?てかさ君ぺちゃん子くんじゃない?そーだよね?お母っ、しゃちょーう!話題のぺちゃん子が来たー!」


ここでもか。

世界中の笑いの的、ぺちゃん子よ。


お団子お姉さんはカズキの心の傷跡を抉り塩をぶち撒け、鍵も閉めず家の中へ姿を消したのだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。

3/10〜16の間は毎日2話投稿します。


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