第13話 鼻を啜る音
おはようございます。
3/15 2投稿目です。
昨日、メンテナンスで2話投稿出来なかったので、本日3話投稿します。
目を背けたくなる事が起きた時、意外と人間は目を離せなくなる。
そのせいでストレスが掛かる事を知っているのに。
「不合格」という字を見ていると、自分の意思とは裏腹に視界が揺れてきた。
スライムの身体になったというのに、人間同様の反応が起こる。
ストレスが与える不調は万物共通なのかもしれない。
「うっし!私合格だ!」
「僕も合格だよ」
喜びと期待に満ち溢れた二つの視線が更に精神を揺さぶってくる。
何も言わないカズキの手に握られている通知書を覗き込んだ2人も言葉を失う。
大きな音を立ててユキが急に立ち上がった。
食べ終わったポテトの入れ物が乗ったトレーを持ち上げ席を離れていった。
「まっ…ユキ」
明らかに態度の悪いユキを止めようとするアツシだったが、ショックを受けているカズキを1人に出来ずその場に止まる。
下手なことを言えば傷を抉るだけだ。
俯くカズキに何と声を掛ければ良いのか、アツシは考えるが答えがわからなかった。
朝早くのMECは人がいなく、静かであり空気を更に重くする。
そんな沈黙を破ったのは言葉使いの悪い幼馴染であった。
「ゴミ捨ててトイレ行って帰って来たら、お葬式の会場になってんだけど」
再度大きな音を立て椅子に座り大きく足を組む。
「んで?」
急に質問内容の無い問いを振りかざすユキに誰も返事を出来なかった。
大きなため息を吐きその勢いで一気に空気を吸い込み、更なる問いを振りかぶる。
「結果はどうだったのって聞いてんのよ!自分の口で答えろ!」
「ちょ、ユキ少しは考えようよ」
「アツシは黙ってて私はカズキに聞いてんの」
アツシの助け舟など一瞬で沈め問いただす。
かぼそい声で何かを言うカズキだったが、聞き取れなかったユキは「聞こえない」と追い討ちを掛ける。
「…だめだった」
「そう残念だね」
不合格という結果を伝えるカズキに対し、ユキの態度は意外にも優しいものだった。
「じゃあ次を探そ、どっかで二次募集が有るかもしれないし」
「え?」と疑問の声が重なり二つの視線がユキを捉える。
「言葉のまんま、パーティー組むんでしょ?じゃあ同じ冒険社に入らないとじゃん」
「だってユキもアツシもアースに入社するんだろ?超大手だぞ」
嫌だった。
足を引っ張るのは。
「大手なんて犬に食わせておけばいいのよ!組むんでしょパーティー」
「で、でも…」
嫌だった。
幼馴染の大切な未来を奪うのは。
「あーもう質問に答えろバカズキ、次答えないとぶっとばすわよ!パーティー組むの?組まないの?」
組みたい。
3人でパーティーを組んで冒険したい。
「…3人で…パーティーを組みたい」
心の底から願いを吐き出す。
「あんたはどうなのよアツシ」
最高に切れ味が鋭いユキの矛先は、カズキからアツシへシフトチェンジする。
「…ふふふあっはっはっは」
一瞬押し黙ったアツシは込み上げる感情が、笑いへと変換され体外に溢れ出た。
「3人で他の会社探そうか」
笑いすぎて目の端に滲む涙を指で拭いアツシは確信する。
なんて愉快な仲間なんだと、この2人とならやっていけると。
そして同時に思う。
両親になんて言い訳しようかな。
「そうと決まれば行動よ」
スマホを取り出し他の会社を検索しまくるユキ、両親への言い訳を考えるアツシ。
そんな2人に向かい素直な言葉が自然と口から漏れる。
「ありがとう」
視界の揺れや頭痛は治まった。
やはり引っかかるものは有るが気持ちを切り替え、次の面接のことを考えよう。
面接のみで落ちたのだ。
あんな会社がカズキの何を見れたというんだ。
きっと顔だな。
ユキとアツシのビジュアルで合格にしたんだろ。それしかない。
心の中で無理矢理確信するが、自分のビジュアルが悪いと思い込むのも結構心にくるものだ。
「え?泣いてんのカズキ?男のくせにダサー」
「は?泣いてねーよ見てみろよこの乾いた目を!」
「あれ?気のせいか鼻を啜る音が聞こえた気がしたんだけどなー」
それからいつも通りの調子に戻りちょっとした言い合いをする2人の口角は上がっており、それを見ていたアツシの口角も上がっていたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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