第12話 冒険社アースの入社試験
おはようございます。
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昨日、メンテナンスで2話投稿出来なかったので、本日3話投稿します。
緊張で口内が乾燥する。
飲み込む唾でひりつく喉を、気まぐれ程度に潤す。
「それでは面接を始める前に、皆さんが本当にステータスを獲得しているか確認したいと思います」
冒険社アースの試験当日、カズキ達3人と沢山の就活生の前でマイクを握った試験管が言った。
大手冒険社の就活生は大勢いる。もういすぎるくらいだ。
その為、午前、午後と試験を行う上、数日間に分けて試験を行う。
今は会場に42人の就活生が集められていた。
「確認方法はいたって簡単です。我が社の冒険者とパーティーを組んでもらいます。」
パーティーとは、ステータスを持つ物同士が互いを仲間と認め合いモンスターに挑むための機能だ。
メンバーの位置やステータスを把握することが出来る。優れものだ。
うそだろ
レベル1じゃないのがバレてしまう!!!
ここにいるのは皆んな新卒枠だ。
中途採用組とは違う日程で試験が組まれている。
今現在カズキのレベルは34。
カズキの年齢でレベル34なんてあり得ないのだ。
カズキは急いで取得可能スキル一覧を確認する。
スキルの取得方法は大きく3種類ある。
1つ、モンスターを討伐し手に入れる方法。
2つ、ワールドミッション達成し手に入れる方法。
3つ、SPポイントを消費して取得可能スキル一覧からスキルを取得する方法。
1つ目と2つ目は講習でも教えてくれる事であり、周知の事実だ。
しかし3つ目はカズキが気づいたスキル取得方法である。
ある日突然ステータスにSPを消費して獲得可能なスキル一覧が出現したのだ。
なぜ世界的に知られていないかは不明だ。
正式に冒険者となり、超えられない壁にぶち当たって行き詰まった時、そんな時に使おうと思っていたSPポイント。
今が正にその時。
毎晩ニヤけながら見ていた獲得可能スキル一覧から、急いでスキルを獲得する。
レベルが1上昇するたびに、1しか増えない貴重で愛しいSPポイント。
選んだスキルに必要なSPは20だった。SPが34から14へと減る。
あああ!もっと大事な場面で使いたいのに!!!
スキルを取得するのに必要なSPは最低20からであり最高50だ。
どれだけ貴重なものかと、心の中で絶叫しているところに真っ白な仮面を付けた女性がやって来た。
「パーティーメンバーの上限は8人です。なので現在7人グループで分けさせて頂いています。社員が各テーブルに1人行くのでパーティーを組んで頂きます。」
司会者の指示で来た仮面の女性を見て、隣の見知らぬ2人組が小声で会話をする。
「おい、この人って『蒼白』のサクさんじゃないか?」
「マジだAランク冒険者じゃん!」
どうやら各チームに行った冒険社の社員は有名人だそうで、各所から興奮の声が上がる。
冒険者は自分達の戦闘を映像配信しネット投稿する事で広告収入を得ている人たちもいる。
冒険社アースの社員になると配信に興味がなくてもAランクとなったら、配信する義務があるらしい。
そうとう有名な人たちなのか、周囲のテンションが明らかに上がっている。
しかしカズキには関係ないことだった。
なんせ知らない人だ。
なんだか1人取り残された感がある。
自分が強くなる事に必要な情報か、ダンジョンの情報以外に興味がなかった弊害だった。
「最後に注意があります。今回はステータスを本当に取得しているかの確認ですので、他人のステータスは覗かないで下さい。プライバシーに関わる事なので厳守願います。」
なんだと、
ステータス見られないのかよ!!!
俺のSPがああああああああ!!!!!
あまりのショックに無言で机に何度も頭をぶつけるカズキ。
隣に座っていたユキが「ちょキモイんだけど」とドン引きしていた。
ピコン
【サクさんよりパーティー申請があります。許可しますか?】
パーティー申請が来た。
念の為に『隠蔽』のスキルを発動するか、せっかくSP消費したんだし。
先ほど取得した新規スキル『隠蔽』は好きなものを隠すことが出来る割と便利なものだ。
しかし戦闘向きではない為、取得する予定は全く無かった。
とりあえずステータス画面を隠蔽しパーティー申請を許可する。
なんだろう。
とんでもなく見られている気がする。
毎日顔の無いスライムと一緒にいるせいか、なんと無く真っ白な仮面越しに視線を感じる気がする。
えええ怖いんですけど、絶対こっち向いてるんですけど!?
「なんですか?」の声が首まで出てきたところで司会者が口を開いた。
「パーティーを組めなかった人はいますか?」
誰も返事をしない。沈黙のYESという事だった。
「ではパーティーを解除して下さい。解除方法は念じるとステータス画面が出るので、各自よろしくお願いします」
言われた通りに念じてみるとメッセージが表示された。
【パーティーから抜けますか?】
もちろんYESだ。俺のパーティーはやつらしかいないから。
【パーティーを脱退しました】
「これでステータスを取得したと確認が取れたので、面接を行います。呼ばれたら隣の部屋に来て下さい」
面接にしては回転が早かった。
42人も就活生がいたのに1時間で終了したのだ。理由は簡単、質問が「冒険者になろうと思った動機を教えて下さい」のみだったからだ。
自己PRでさえ1分程度しか準備してこないのに、志望動機なんて長くは語れない。
それにより1人1〜2分の超短期面接が完成した。
「なんか手応え無いな」
百円と値段がリーズナブルなハンバーガー屋で、コーラーを啜りながら今日の感想を言い合っていた。
「私は自信しかないわ」
「みんな大丈夫だよ受かるさ、それより明日合格通知が届くって本当かな?」
試験官が必ず明日朝イチで通知書を届けると言っていたのだから、本当なのであろう。
「半日で合否決めるって逆に不安だよな」
「半日も何も質問ひとつならその場で合否伝えてって感じ」
ユキの言い分がもっともである。
判断材料が少ないのだから、もっと早く合否を出せるであろう。
「まあまあ、じゃあ10時にこのMEC集合でいい?」
「「はーい」」
明日3人は合皮の確認を一緒に行う。
カズキのストローから聞こえるズボボボというコーラーを飲み切った音が、解散の合図となった。
その日の夜はいつもの様にスライムノルマをこなし床についた。
しかし頭の中を埋め尽くす感情で、視界を遮断しているのにも関わらず寝れる気がしなかった。
気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になるるるるるるるるるうううううああああああい!!!
冒険社アースの合否が気になりすぎて頭のネジが緩んできていたのだ。
もちろん寝ることが出来ず布団の中でスマホをいじり続けていたら、外が明るくなっていた。
ポストを確認すると冒険社からの通知書が届いていた。
「はっや」
その通知書には切手が貼られていなかった。職員の手で直接届けられてのだろう。
急に押し寄せてくる緊張。
「緊張をほぐすにはアレしかない」
カズキの、カズキだけの、カズキの為だけのダンジョンに向かう。
毎日カズキの足裏に踏み抜かれ、経験値となる存在達に会いにいくのだ。
「んん?1匹しかいない」
確実に前回のスライムノルマから2時間経過しているのに1匹しかいないのだ。
このままスライムを討伐してしまえば、ダンジョンを踏破した事になり2度とスライムが生成されなくなってしまう。
「まあいいか、じゃ」
疑問は残るも奥で大人しくしているスライムに手を振りダンジョンを後にした。
通知書を開けて早く結果を確認したい。
そんな気持ちに常時襲われ続けているカズキの足は、待ち合わせから4時間も早いのにMECに向かっていた。
「ポテト大盛りで」
「っせい」
せいってなんだ?
朝から目も合わせない態度の悪い店員に疑問を抱く。
「おそい」
「おはよう待ってたよ」
大盛りポテトを受け取り席を探していると唐突に声をかけられた。
待ち合わせから4時間早いにも関わらず、2人の幼馴染はMECにいたのだ。
机には時間を潰す時によく買う大盛りポテトと未開封の通知書が2つ置かれていた。
考えることは同じかと、何だか照れ臭くなり口角が上がってしまう。
恥ずかしさを隠す様にキレのある一言を出してしまう。
「はえーよバーカ」
「バカって言った奴が1番バカだからバカズキ」
「うっせーアホユキ」
「はいはい2人ともそこまで!早く通知書を開けようよ」
運命の時が来てしまった。
この封を開けた先にカズキ達の歩む未来が記されているのだ。
心臓が体の内側から胸を叩いてくる。
3人が無言で封を切る音がやけに大きく聞こえる。
「せーの」という掛け声が3つ重なった事を合図に、3つの未来が引き抜かれる。
カズキが引き抜いたA4サイズの紙には、無情にも「不合格」と大きく書かれていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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