第115話 生放送開始3分でピンチです。
イライラする。
腰から後頭部にかけて熱を帯びる感覚に襲われ、血液が温まり膨張する。
「あらー恥ずかしいんですか?自分たちの力だけじゃ攻略できないことー」
目の前にいるアホズラに、殺意が込み上げる。
「てめえいい加減行ってっとここでHP消し炭にすっぞ」
【グラスター】に魔力を込める。
自然と戦闘体制に入る自分に笑うことしかできない。
そんな一触即発な場を【蒼白】のサクが割り込み、邪魔してきやがった。
俺的にはこのまま焼き切ってもよかったのに。
首筋に当てられる冷たい刃に、感情を押し殺される。
「いくぞお前ら」
これは逃げではない。
ストレスの原因から遠ざかる大人のテクニックだ。
「えー、またねユキちゃん次はベットの上で会おうね!」
「わかりました」
「は、はい!」
【ダンジョンTV】のメンバーが返事をして付いてくる。
あの澄ましたA級冒険者【蒼白】が説明した作戦によると、俺らは1階のザコを討伐しレベリングするとの事だ。
「むかつくなぁ」
「ちょっとタイキ! あと少しで生放送だから切り替えてねー」
杖の先端でくるくると円を描きながら指摘するシュリ。
言っている事は正しい。
しかし
機嫌が悪い時の指摘ほどムカつくものは無い。
「ああ、わかってる」
「きゃーこわーい! 言ってる事と表情が釣り合ってないよ。ぺちゃん子なんて結果でぶん殴ってやろ」
「そうですよタイキさん。あんな運がいいだけの奴らは今日で落としましょう」
肩と肩が触れ合う距離まで近づいてきたフミヤが、メガネを人差し指で上げながら鼓舞する。
あたりまえだ。
今日、この日をもって新人ランキング2位なんて不名誉な肩書は終わりだ。
あのクソ生意気な【青空】を踏み台に、俺ら【ダンジョンTV】がトップに立つ。
「おう勝つのは俺らだ。てめえら今から生放送すっから下手な行動すんなよ」
魔力を解放し、ランキングも現実でも今後ろにいる第3位【楽業】、第4位【The王】とその他諸々へ注意を促す。
俺の魔力に怯えないのが7人か。
着いてくるだけの【蒼白】の2人と、【楽業】の5人。
【楽業】は前まで後衛の紫色の女だけ平気だったくせに、今は全員涼しい顔してやがる。
髪の毛が白くなった事と関係してんのか?
気に食わねえ。
「タイキさん生放送開始です」
フミヤの右手から3機飛び出す撮影機達。
それは風を操る魔物からドロップした魔法石を内包しており、【グラスター】を使う事で風魔法を行使できて、自在に浮遊させることが出来る。
さあ、仕事モードに切り替えようか。
「こんにちは! タイキです」
笑顔を作り上げて元気よくカメラに向かい挨拶する。
俺に続き他のメンバーも挨拶をする。
「シュリでーす」
「フミヤです」
「たっ、タロウです…」
「今日は告知していた通り、人類に牙を剥き攻略対象となった元E級、現A級ダンジョン【ラゾーナ】を攻略していきます!!!」
身振り手振り収益の為に、仕事をこなす。
『閲覧者が50000人を超えました』
右目に装着したモニターには、生放送の画面やコメント、そして閲覧者数が表示される。
50000人越えは久々だった。
しかし
喜びよりも怒りが勝る。
自分だけの力じゃないから。
今回の経緯、今からやることを説明し1階へと全員を引き連れ降りた。
前に来た時と何も変わらない。
商品棚が無くなっており、等間隔にある柱以外に何もない。
昔ショッピングモールとして機能していたラゾーナを知っている人が、この光景を見ても同じ場所なんて思いもしないはずだ。
「タイキ、あれ」
「ああ、人型だな」
目のいいシュリがモンスターを見つけた。
とことことコチラに背を向けて歩くソレは、銀髪で毛先がほんのり赤みを帯びた長い髪の毛を揺らしている。
「じゃあ、かなり距離があるし砲撃部隊が」
「聞いてられないっすねぇ!!!」
斜め後ろから【The王】のタカヒロが、足元を土魔法で隆起させ、その勢いを利用し弾丸の様に飛び出していった。
「あっのバカやろう!」
危うく生放送を忘れて馬鹿野郎に向けて魔法を放ちそうになった。
怒りにより圧迫してくる血管によりこめかみが痛み、耐えるのに噛み締める歯が割れそうになる。
「先手ひっしょーう!!!」
本物のバカなのだろう。
大声を出し、今から攻撃することを宣誓しながら突っ込むタカヒロは、空中で右手を岩石で覆い、己の身長ほどある魔剣を大きく振りかぶった。
「あはっ、もらいっす!」
振り向く小さな少女に見えるモンスターへと向かい、強烈な一撃が放たれた。
薄い桃色の瞳は眠たげで、困った表情をしていた。
片方の肩だけ出した和装 ミニ袴は赤を基調としており、額には真っ黒なツノが一本禍々しく生えている。
そんな儚げな少女へ躊躇なく振るわれる魔剣は、少女がタクシーでも止めるように軽く上げた手に軽々しく止められた。
その手に軽く押され体制を崩したタカヒロに、人形モンスターは歩み寄る。
「なっ!? え、」
悍ましいほどの悪寒が全身を駆け巡るよりも先に、アホズラでたじろぐタカヒロの元に走り出す。
両手の甲、胸に埋め込まれたグラスターに魔力を込め、身体能力を向上させる。
そんな俺を凌ぐスピードで、赤と青インナーカラーが横を通り過ぎる。
薄紫の魔力弾を片手で掴む【楽業】のラナが、チームメイトのリナと手を繋ぎ、魔力弾の推進力を利用し、タカヒロと人形モンスターの元に辿り着いていた。
魔力弾はモンスターを通り越していく。
もちろん掴んでいたラナもだが、リナは違う。
握っていたラナの手を離し、タカヒロと人形モンスターの間に割って入り、タカヒロの首根っこを掴み後方に投げ飛ばす。
「無駄に重すぎじゃん」
思っていたよりも乱雑な救助に「いってぇ」と口から溢すタカヒロなど気にもしない。
「わかってる!!!」
誰からの指示も無かった。
なのにリナは、バックステップで人形モンスターから距離を取った。
そこに魔力弾と共に通り過ぎたはずのラナが現れる。
「真打登場!!! あ、これウチの魔力お化けからのプレゼントぉ!」
ラナは掴んでいた魔力弾の軌道を操作し人形モンスターへと直撃させた。




