第114話 悪魔の再臨
強烈な衝撃がカズキを爆散させようと、身体の内側で暴れ狂う。
コントロール不可能な衝撃は、カズキの身体を吹き飛ばし壁を抉った。
巨大なクレーターが彼の着地点を物語っていた。
その中心で
蒼雷が唸りを上げる。
背中から放出した衝撃は、それでも尚体内に留まった。
いや、留めたんだ。
それをコントロールし右手に集約し、迸る魔力と共に雷槍へと込め解き放つ。
雷鳴を携え蒼き雷槍は、狂気に笑う雷装を纏う橙色の雷鬼へ迫る。
放った雷槍に負けじと、体内に残った衝撃を全て背中から吐き出す。
それを推進力に、自らの必殺の一撃を追いかけた。
「は?」
眼前に迫った蒼い槍に驚く橙色の鬼。
驚異的な反応速度で首を横に倒して、ギリギリのところで躱すライカの瞳は蒼を反射し深緑色を醸し出す。
その頬は赤く雷槍の軌跡が残った。
「っ!?」
蒼い雷を追い、蒼い雷を纏った男が刀を振りかざす。
橙色と蒼い雷が交わり火花を散らした。
「なーにが次だ、第二ラウンドの途中だろ浮気者!」
「あはっぁ! さすがカズキくんだぁ」
切り結んだ六尺棒と距離を取る。
「ユキ、アツシ! 下に行ってキャプテンを頼む」
「いや、いくらカズキでもこの2体相手は」
「大丈夫、まかせろ」
不安な顔でこちらを覗くアツシ。
ここは安心させるしかない。
右の掌に身体の中に隠していた球を出す。
強くなりたい。
憎き親の仇であるスライムに負けたあの時から、自分の弱点と向き合ってきた。
魔力枯渇
スピードも威力も申し分ない【雷】だが、魔力消費量が異常だ。
いくらレベルを上げても、雷槍を2回使えない。
高速移動を可能にする雷の循環は、1度魔力を雷に変えて終えば魔力消費はない。
魔力の事をずっと考えてた。
いつしか見たキャプテンが使用していた魔力回復薬。
あれが死ぬほど欲しかった。
しかし冒険社【アース】の秘蔵だそうで、どうしても手に入らず。
いろいろと実験を重ねている内にある事に気がついた。
「おお、雷を魔力に戻せるんだ……ってことは電池に出来んじゃね?」
スライムボールを作り出し雷を注ぎ込む。
スライムの中で綺麗に光り輝く幻想的な雷。
それはいくら長時間放置しても、弱まる事を知らなかった。
今回の事で分かった。
スライムは電気ロスの無い超伝導なのだ。
「綺麗だけど割れたりしたら大変だからな」
周りを硬化させるとガラス球の様な見た目になる。
しかし漏れ出す気迫は止まらない。
「こんな魔力です!!! って物持ってられないよなぁ…あ」
冒険社【アース】の入社試験で臨まずして取得した【隠蔽】を込めると。
あら不思議、綺麗な見た目の電池が出来ましたとさ。
「よし! 使ってみますか」
手に持った電池玉を握り潰した瞬間、コントロール出来ない雷が飛び出し、机を粉々にした。
「まじすか…」
「大丈夫!何かあった!?」
すぐに俺の自室に飛び込んできたアツシ、そして轟音も気にせずスマホを弄り続けるユキとお菓子を食べるリサとまあ、複雑な家庭環境のなか爆裂玉が完成したのだった。
そんな爆裂球を2個、蒼白に輝き内部で雷が渦巻くそれを掌に出した。
「なにそれー? 綺麗だねくれるの?」
ライカが爆裂球に気づく。
「ちげーよ、パワーアップアイテムだよ」
爆裂球を握りしめて砕く。
球から溢れ出る雷を全て体内に取り込み、全て循環する。
1つの玉に雷槍1発分の雷が永久的に入っている。
それを2個、つまり全盛期の2倍。
溢れる蒼雷は常時、カズキの周りを歓喜の雷鳴を上げ走り回り、周囲の空気がひりつき震えた。
「これからは第二形態だ、スーパーカズキ爆誕!」
蒼い瞳、蒼雷を纏うその厨二心くすぐる見た目でサムズアップする。
「え、だっぁえ? ちょアツシ何で抱えんの? 嘘でしょ、普通に降りよおおおおおおおおおおおお!!!」
アツシが何も聞き返さず、ユキを抱え下の階へと吹き抜けを利用し飛び降りた。
さすがはアツシだ。
全てを汲み取ってキャプテン=マサオを助けに行ってくれた。
……クソユキにはなんて言おうとしたのか後で問い詰める必要があるな。
「待たせたな鬼ども俺が外までぶっ飛ばしてやるよ」
「やっぱカズキくん最高だね、私たち付き合わない? もうライカは君に首っ丈だよ」
「冗談はやめなさいライカ。私たちは馬鹿にされているのよ1人で充分だと」
闘気が弾け渦巻く3階から、2階に移りゆく。
急なダイブに喉を震わせ、全身から悲鳴と汗を噴き出したユキ。
「ねえ! 急に抱き抱えて飛び降りるとか無くない!? アツシもカズキと一緒にいすぎて脳みそ溶けてきたの? あいたぁっ」
文句を叫んでいたユキは、急に地面に落とされ痛みに声を上げた。
エンジンのかかった毒舌を振りかざすため、上半身を起こし獲物を捉える大きな瞳に映るは、大剣を構えるアツシの黒い背中。
「ユキ、今すぐ白魔法をお願い」
全身の毛が、否、毛穴から恐怖がトラウマを吐き出す。
アツシの背中の奥に蠢く肉塊。
肉と肉が不規則に繋がり、醜悪なほど膨張した肉塊。
嗅ぎ慣れない異臭がユキの鼻を突き、胃の奥がむかつき懐かしさを思い出す。
二足歩行なのは変わらないが、3m程度で前回より少し小さいけれど、大きく太い腕が4本生えている。
ニヤリと嗤う腹部の大きな口が糸を引く。
6つある目のうち5つがアツシを見捉え、残る1つがーーゆっくりと、笑みを浮かべながら見た。
嗤う悪魔。
S級ダンジョン【東京】で出会った最悪。
何人もの犠牲者を出した特別指定モンスターが、そこにいた。




