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第10話 冒険者ライセンスの取得

こんにちは。

3/13  2投稿目です。


よろしくお願いします。

金属光沢


それは金属が持つ特有の光沢である。

塗装で金属光沢を再現することは可能だが自然界で金属光沢を放つことが出来るのは、その名の由来通り金属のみなのだ。


そんな金属光沢を纏ったスライムがいた。


アツシとユキ2人が冒険者になる、という言質を取った日の夜中のことだ。

いつも通りに2時間に1回やってくる夢遊病タイムで、普段なら無意識に行動しているのだが、珍しく脳が覚醒する。

それもそのはず見たことのない新種のスライムがカズキの脳に刺激を与えた。


「も、もしかして」


恐る恐るスライムに触れる。

過去に新種のスライムを不用意に触って瀕死の重傷を負った事があり、トラウマになっているからだ。

つま先とスライムが衝突しカチカチと音を立てる。


「とりあえず害は無いな」


ぼごん!


とりあえずスライムを踏み潰すも、そいつは潰れずに地面にめり込んでしまった。


「かった!」


穴からひょいっと飛び出すスライム。まるで無傷だと言わんばかりだ。

硬いのにプルプル震えている矛盾感が脳を錯覚させる。

数回強めに踏みつけるも無傷に飛び跳ねるスライム。

ただ穴が量産されるだけではなく、カズキの膝は衝撃に耐えられず踏みつけるたびにゲル化し飛散していた。


「しかたない奥の手を使おう」


スライムに掌をつける。

その掌がゲル状となりスライムを包み込んだ。

時間経過とともにカズキの中にいたスライムは溶けて無くなり消滅してしまった。

「よし」と声を漏らし、ステータス画面を確認する。

そこには【硬化】というスキルが追加されていた。

全身の毛がそそり立った様な武者震いがカズキを襲う。


「やっとだ」


ここ数年求めていたスキル。

きっと存在するはずと思い、願い続けたスキルだ。

3年間初詣の度、絵馬に「硬化系スキルを手に入れられます様に」と書き続けた成果がここに実った。


「よっしゃぁぁぁあああ!!!」


全力の喜びが体の中から口を通し盛大に漏れ出てきた。

きっとこれなら身体の強化に魔力を消費しなくて済むし、人前で寝ることだって出来る。


「パーティーを組んで初日に最高だ。幸先いいな」


スキルの使用感を確認してみる。

身体を設定した硬度にすることが出来るという単純な物だ。

最初に設定するときにつぎ込んだ分の魔力で硬度が変わるらしい。

その硬度は次の設定をするまで継続し魔力消費もないときた。

控えめに言っても最高のスキルだ。防御力を魔力で補うことだってできる。


身体の一部のみを硬化することだって出来る。

ということで今回は骨を再現しようと思う。

ほとんどの魔力を注いで身体中にわかる限りの骨を再現する。

あとは少し残した魔力で身体の表面を硬化する。


これで不意に叩かれたりと衝撃を受けてもゲル化しないだろう。

喜びが鼻から鼻歌となり漏れ出すカズキは、夜通し硬化のスキルで身体を作った。

ネットで「人間の体 構造」と調べ、ひとつずつ骨を作り上げる。

他には臓器だ。


なんで今までやらなかったかって?


作ったとしても気を抜いたら混ざり合ってしまうし、強度がなく再現が不可能だった。

1日脳みそが擦り切れそうになる程、集中し自分を作った。

骨は硬く、臓器や肌はある程度の硬さでだ。


最後に極限までサラサラにした赤色のスライムを全てに流し込む。

これで怪我しても血が出る最強の人間スライムの出来上がりだ。


長かった。

スライム化してここまで来るのに5年かかったのだ。


◯●◯


冒険社アースへ志望する事を学校に伝えてからは話が早かった。

冒険者なるにはライセンスを取得しなければならいのだ。

内容としては18歳以上となりステータスを取得し2時間の講習を受けるという簡単な物だ。

簡単である代わりにダンジョン内での生死は、個人の責任とされてしまう。

なんなら専用の高額保険以外は、保健適用外になってしまう。


その冒険者ライセンスを取得してから面接に来てれとの事なので、1週間後に3人で冒険者ライセンスを取得しに行く事になった。


「えーこの度は冒険者に志望の皆さんの担当をさせていただく鈴木です。よろしくお願いします」


カズキ達3人に対してスーツを着た中年の男性が挨拶をしてくれた。


「えー道中で教えた通り今から入るダンジョンはC級の中でも低級でありまして、えー今から渡すバットで簡単に討伐できるコボルトと言うモンスターが4匹出現します。なので1人1匹討伐してもらいステータスを取得してください。えーくれぐれも4匹討伐だけはしないで下さい。」


どうやら4匹しかコボルトがいないダンジョンなので、最後の4匹目を討伐するとダンジョン踏破となってしまい、2度とモンスターが出現しなくなってしまう。

そうすると簡単にステータスを取得できるダンジョンの数が減って国の損害となるのだとか。

もし踏破してしまった場合は、どう頑張っても返しきれない額の賠償金を課せられると契約書に書いてあった。


「えー危ない場合は私が助けに入るので皆さんは安心して討伐してください」


そう言って入ったダンジョンは少し大きめの一軒家であった。

中は戦闘により生活感は無いが、昔誰かが住んでいたのは確かだ。

ダンジョン化は敷地や建物なら、どんな場所でもなるのが厄介だ。

電話BOXがダンジョンになった事例だって存在するのだから。


住んでいる家が低級ダンジョンになった際は二つの道がある。

冒険社に依頼し踏破してもらう事で再度住める様にする。

もしくは超低級だった場合は、国に超高額で買収してもらい冒険者ライセンス取得に役立てるかだ。

超低級でも思い入れがあれば、踏破を依頼することも可能である。


家に入った瞬間、本当にすぐ見つけた。

中型犬くらいのオオカミが、二足歩行している様なモンスターが玄関に現れた。


「じゃあ僕から」


アツシは少し戸惑いつつも、息を整えてからコボルトにバットを振るう。

鳴き声を残して魔力の粒子となって消滅した。

久しぶりに見る光景だ。


「……感触が慣れないね、ああステータス取得できたみたいだ」


少しだけ顔色が悪くなっているアツシだったが、すぐに気を取り直しバットをユキに渡す。

玄関からリビングに入ったところでコボルトが1匹いた。

先ほどの個体とは違い、こちらへ気づいた矢先に襲いかかってくる。


「手が痺れるわね」


それはそれは見事なフルスイングだった。

本来人間には人や生物を傷つける際、理性がブレーキを掛け躊躇うはずだ。

しかし彼女のブレーキは故障しているのか、そもそも備わっていないのか、生き物を殺めるのに少しの躊躇いもなかったのだ。


「躊躇無しかよ」


「そんなの冒険者になるって決めたときに捨てたわよ、はいカズキ」


バッサリと言い切りさったユキの瞳には強い意志が感じ取れた。

一つ言えるのは、ユキだけは怒らせない様に気を付けよう。


「次は俺か、どこにいるかな」


初めてスライム以外のモンスターを討伐するのを楽しみにダンジョン内を捜索する。

どうやら一階にはいない様だった。

二階へ行こうと階段を目指していると、階段を降りてくる足音が聞こえた。


足音というには物足りなく、何かを叩きつける様な音。

しかしそれは歴とした生物の足音。


階段を降ってきたソイツが顔を出す。

先ほどのコボルト達はカズキ達の半分くらいの身長だったが、今目の前に現れたソイツはカズキ達よりも遥かに大きかった。

口からこぼれ出す凶暴な牙、刃物を握っているんでは無いかと錯覚するほど大きな爪、そして主張することに特化した筋肉に身を包まれた獣が、獲物を求め凶悪な瞳を巡らせる。


「くそ!ワーウルフだ退け!」


さっきまで気だるそうに「えー」と語頭に喋っていた試験官とは打って変わり、腹の底から大声で指示を飛ばす。

それもそのはずであり、ワーウルフはC級ダンジョンに現れていいモンスターでは無いのだ。

オークの様な強靭な肉体を持ち、犬科の長所を兼ね備えた存在。

聴覚、嗅覚に優れ相手の位置を正確に把握し、見つかったら最後永遠と追いかけてくる最悪のモンスターだ。

その手に握りしめているのは殺傷能力が大きい凶悪な斧である。


試験官はワーウルフの放つ攻撃を去なす事しかできず、防戦一方だった。

そもそも最低ランクのC級ダンジョンでも、下の下と認められたダンジョンだ。

ちゃんとした装備を持って来るはずもなく、小さな刀でギリギリ受け流している感じだ。

試験官が時間を稼いでいる間にダンジョンから脱出しようと玄関へと向かう。


「うそだろ!」


アツシが珍しく声を荒げる。

玄関の扉を開けたら、コボルトが待ち構えていたのだ。

どうやら2階から飛び降り待ち構えていた様だ。

ダンジョンは家の中ではなく、その敷地自体がダンジョンと化すので玄関と公道までの間もダンジョンとなってしまう。


コボルトはアツシがバットで倒すことはできるが、もしワーウルフと同時に討伐してしまった場合ダンジョンを踏破してしまう。

とりあえずバットをアツシに投げ渡す。アツシは威嚇する事でコボルトを近づけない様、努める。


それに比べワーウルフと戦闘中の試験官は右腕に重傷を負ってしまい、かなり劣勢であった。

ワーウルフの猛攻に何とか耐えている様であったが、左腕だけでは攻撃に耐えられず後方に飛ばされてしまった。


斧を大きく振りかぶワーウルフの両腕が見るからに膨張する。

試験官は頭から血を流し気を失っており、回避する事は明らかに不可能だ。

明らかに止めを差す気満々のワーウルフは顔面に醜悪な笑みを浮かべた。


乾いた発砲音がフラッシュバックする。


あの日、世界初のダンジョンが誕生した日の事が、凶悪なオークと対峙した血まみれの警察官の姿が、目の前で再度起きているかの様に思い起こす。


その時の自分は震えて声も出せず、誰かに助けを求めるしかできない弱者だった。

だからこそ、だからこそあの時に助けに行ったスミねえが憧れになったのだ。


明らかに自分より大きく凶悪な存在。

レベルがいくつかわからないが、公務員である試験官を圧倒したワーウルフ。


今回も同様に誰かに助けを求めるのか?


こんな時の為、いや勇者になる為に力をつけたんだ。

一瞬の自問自答の末、大声を上げワーウルフへと駆け出していた。


両腕に魔力を注ぎ硬化する。

ワーウルフが繰り出す必殺の一撃を右腕で受け止める。

人生で一度も受けたことのない衝撃が身体の中を走り抜ける。

それは表現でなく、文字通り生物を確実に仕留める力。

受け止めた衝撃はスライム状の身体の中で暴れ拡散する。

ただそれだけだ。何のダメージも無い。


こんなの硬化スキルが無かったら爆散してるぞ。おい!


まさか武器も持たない相手に止められるとは思わず、怯むワーウルフの胴体へ左拳を叩き込む。

ワーウルフの口から汚い液体と共に苦しそうな声が漏れ出した。

そのまま逆の拳を叩き込むとワーウルフは、後方にあったソファを巻き込み吹き飛んだ。


一瞬隙が出来た内に後方を確認する。

玄関は閉まっておりアツシとユキはいない。


安心する暇も無く、激昂がワーウルフの口から叫びとなり響き渡る。


ワーウルフは斧を投げ捨て四つん這いとなり、高速で移動する。

カズキの目に捉えられない速度で、壁や天井を跳ねる。

ワーウルフの強みは筋力では無い。


スピードだ。


だから斧を投げ捨てた。

斧じゃカズキに通用しないと判断したからだ。

重量のある斧を投げ捨てたワーウルフのスピードに、カズキは追いつけるはずもなかった。

度々、爪による牽制攻撃を挟んで来るが防げるはずもなく、全て喰らってしまう。


しかしカズキの硬化による防御力が上回り、ダメージは受けない。

ダメージは受けないが身体がゲル状となり、少量ずつ飛び散る。


ワーウルフも馬鹿じゃ無い。

通じない攻撃ばかり繰り返すはずも無く、カズキの首に大きく開けた口で噛み付いた。

その大きな牙はゆっくりとカズキの身体に埋まっていく。


「待ってたぞ犬っころ」


スピードで劣るならカウンターを狙うしかなかった。

カズキは大きく深呼吸をする。

人間焦ると判断力が低下してしまうからだ。


カズキは長年スライムを踏み潰し続け、鍛えた脚力で腹部を蹴り上げる。

苦痛の声を漏らしながらワーウルフの口は開き、カズキから牙を離した。

カズキは蹴りを放った勢いを利用し、回し蹴りを力一杯叩き込む。


「くっ、らええええええ!」


ワーウルフが吹き飛びながら光の粒子となり消滅した。


一瞬の戦いだった。


6年前に震えて動けなかった弱い自分へ、ようやく打ち勝つことが出来たのだ。

全身の毛が栗立ち、毛穴等の穴という穴から興奮が噴き出し雄叫びを上げる。


カズキは初めてスライム以外と戦闘し勝利した。

興奮が抑えられずに声を荒げていたが、聞いた事のない世界の声が聞こえ我を取り戻す。


【ワーウルフを討伐しました。】


【アストラル因子の選択を開始します。】


聞いた事のない世界の祝福が脳内に響き渡った。

最後までお読みいただきありがとうございます。

3/10〜16の間は毎日2話投稿します。


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