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カップ麺


「これは……?」


「カップ麺だ」


「カップメン……? 聞いたことがないし、この文字を見たこともないわ……」


 ウィドウとアイリスがカップ麺をしげしげと眺めながらそうつぶやく。


「何かの魔道具ですか……ってなんですかこれ!? 中に人が閉じ込められてる!? タイラーさん、なんというものをこの世に復活させてしまうんです!」


 そしてルルはというと、驚き慌てふためきながら、何かを指さしていた。


 見てみるとそれは、腕を組みながら厳つい顔をしている店主の写真だ。

 このカップ麺の監修をしている店主が、わざとらしく眉をしかめている。


「ルル、落ち着きなさい。こっちのカップメンにも同じ顔が描かれてるわ。だから別に中に人を封じ込めたりしてるわけじゃ……ないわよね?」


 自分の知らない技術過ぎてちょっと不安になっているアイリスに、優しく頷いてあげる。

 困り顔の彼女は、いつもよりかわいげが増していて魅力的だ。


「ああ、というかこれはそもそも魔道具ですらない。これは食い物だ。お湯を入れるだけで調理ができるようになってる」


「お湯を入れるだけでって……それってもう魔道具みたいなものなんじゃ」


 このままじゃ私の家事能力が……とウィドウが一人うなっている。


 たしかにある意味では魔法みたいなものかもしれない。

 ただ心配しなくてもカップ麺におかぶを奪われることはまずないだろう。

 ウィドウの飯は美味いしな。


「そんでこっちが、さっき言ってたロキアだ。んでこっちが俺が精製したロキアパウダー」


 続いて取り出すのは、真っ赤な実を風船のように膨らませている唐辛子のロキアだ。

 その隣に置いたのは、ロキアを種ごと乾燥させて粉末にしたロキアパウダーだ。

 もし辛味が足りなかった時は自由に使ってもらって大丈夫だ。


 まずは中を開けてもらう。

 入っているのは粉末スープと液体スープとかやく、そして辛味オイル。

 意外なことに三人とも、中に入っている麺よりも入っている袋の方に興味津々だった。


「すご……これ、どうなってるの? 金属を薄く加工してるってこと?」


「いや、プラスチックを着色してるんだと思うぞ」


「プラスチックって何よ?」


「……なんなんだろうな?」


「なんでタイラーが知らないわけ!?」


 いや、そんなこと言われても。

 現代人だからってなんでも知ってるわけじゃないから。


 プラスチックがなんなのかとか、マジで知らないしな。

 そもそもプラスチックってなんでできてるんだっけ?

 ガソリンとか重油とかを作るときに出来るカスみたいなものだったような気もする。

 でも再生プラスチックみたいなものもあるし……うん、改めて考えてみてもよくわからんな!


「なんで端っこがギザギザしてるんだろう……いざという時に凶器として使うため?」


「いや、普通にその方が切りやすいからじゃないかな」


 プラスチック製だからふにゃふにゃだし、いくらギザギザしててもそれで人を傷つけるのは不可能だろう。

 急所だけを的確に狙えばあるいは……いや、やっぱり無理だな。


「色とりどりのちっちゃな袋……どうしよう、これこのまま使わずに持って帰ってもいいですか!?」


「中身が腐るからやめときなさい」


 袋を持って帰ろうとするルルの手をぎゅっとつかみ、そのまま袋を開けてやる。

 「ああーっ!」ともったいなさそうな声を出すルルのカップ麺のスープを入れ、お湯を注ぐ。

 カップ麺一つ作るだけでこんなに疲れるとは……。

 この世界にはないもんだし、そりゃはしゃぐ気持ちもわかるけども。


 紙の蓋の上に辛味オイルを置いて閉じたら、後は四分待てば完成だ。


 ……ふふふ、せっかくだしもうちょっと驚かせてやるか。


「四分タイマー」


 ポケットの中に入れておいたスマホを取り出しそうつぶやくと、俺の言葉に反応してスマホのタイマー画面が開く。

 当然ながら三人の興味は、カップ麺からスマホに移る。


「これはなんなの?」


「これはスマートフォンって言ってな。簡単に言うと世界中の情報が調べられる魔法の端末だ」


「あ、アカシックレコードへのアクセスできる魔道具……タイラーさんは既に、禁忌に触れていたんですね……」


「いや、そんな大したもんじゃない。あ、それとアカシックレコードへのアクセスは一応できるが、師匠クラスの魔術師じゃないと脳みそが焼き切れるから溜めそうとしない方が……」


「タイラー、時間がこんなにきっちり測れるものがあるのか!? これ、なんとかして一つ譲ってくれないか!?」


「それ専用に使えるストップウォッチっていうものがあるから、一応融通はできるけど……」


 俺の前世の話でわちゃわちゃしたかと思ったら、次は俺が出したガジェットでものすごいわちゃわちゃし始めた。


 皆にスマホやストップウォッチの説明を終えた時には既に十分は軽く経っており、固め好きの俺からすると耐えがたいほどに伸びた麺をすすることになるのだった。

 ただカップ麺は携行性の高さから、彼女達からの評価は高かった。


 人目があるから色々と気にする必要はあるだろうけど、インスタントの即席麺程度だったら定期的に卸してあげてもいいかもしれない。


(いっそのこと現地の料理人に作ってもらうって手もあるな)


 そもそもイラの街には麺文化があんまりない。

 オーク肉なんか肉質はかなり良いから、骨の方も豚骨としての質は高かったりするかもしれ兄。

 麺を巷に広めれば、豚骨ラーメンがものすごい勢いで広まったりするかもしれない。

 麺が広まれば、フライ麺に発展してもおかしくないしさ。

 変に怪しまれたりしない範囲で色々とやっていきたいものだ。


 ……というか、そもそも根本的な話をするとさ。オリハルコンランクでファンクラブまでできてる『戦乙女』の三人と付き合ってる時点で、めちゃくちゃに目立つのは確定してるんだ。

 彼女達を隠れ蓑にすることもできるわけだし、もう少し派手に動いても大丈夫かもしれない。


(やれそうなことは色々あるが……まず彼女達の理解を得るところから始めないとな)


 俺はカップ麺やスマホを見ながら楽しそうに話し合いをする三人を微笑ましく思いながら、これが前世のものではなく今世の異世界のものであることをなんとかして納得させるべく、久しぶりに頭をフル回転させるのだった――。



好評につき短編の連載版を始めました!


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