俺のまま
「――と、まあこんな感じだな」
「「「……」」」
俺の前世の話を聞いて、三人は黙り込んでいた。
実はまだこの先があるなんて話をしたら、いよいよ許容量を超えてしまうかもしれない。
三人とも黙っている。
フリーズから立ち直るには少し時間がかかった。
「なるほど……タイラーさんは前々からただ者ではないと思ってましたけど……まさか過去から未来にやってきた人だとは思ってませんでした」
そう話をしてくれるルルは、なんだかちょっと嬉しそうに見えた。
俺がメルレイア師匠に親愛を抱いているのが、言葉の端々から伝わったからだろうか。
あるいは自分の魔道具作りの師匠が思ってたよりすごいひとで、テンションが上がっているのかもしれない。
「私は……そう言われてもなんだかちょっと実感が湧かないな。別にタイラーのことを古くさいって思ったこともないし……強いて言うなら、年の差がありすぎるくらい?」
俺は前世ではさほど長生きはできなかったので、五十代のうちに死んでいる。
そう考えると、俺って精神年齢は八十超えてるんだよな。
たしかにそれにしては色々と熟れていない感じがするのも当然かもしれない。
「ぶっちゃけた話をすると、俺の前世の記憶と今世の記憶って、一本線で通ってない気がするんだよ」
当時の記憶は残っているし、当時使えた技術や経験は今にも活きている。
ただ前世と今世の記憶が連綿としてつながっているかと言われると、どうもそうではないような感じがする。
もやがかかっているわけじゃないんだが……なんと言えばいいのか。
たとえて言うなら俺の前世の人生を映写機越しに眺めてから、今世を送っている感じとでも言おうか。
前世の出来事って、どこか達観した感じで見たり感じたりできるんだよな。
「なんで転生できたのかはよくわかってないし、そこを研究しようとするつもりもない。前世の俺だったら睡眠時間や人と接する時間を全部削っても研究に没頭しただろうが、ぶっちゃけそういうのめんどくさいし」
「そう……よね。たとえ前世の記憶があろうがなかろうが、今ここにいるタイラーは何も変わらないわよね」
「そうだな、俺はいつだってありのままの君が素敵だよって言ってほしい」
「私、ありのままのタイラーが好きよ」
「そ、そうやってまっすぐに言われると流石に照れるんですが……」
「照れさせようとして言ってるんだから当然じゃない」
そう言って胸を張るアイリスは、良くも悪くも何も変わっていなかった。
正直いにしえの賢者扱いとかをされても困るだけなので、以前と変わらず接してもらえるのがありがたかったり。
「前世の記憶があろうが、俺は俺のままだ。だらだらしながら適当にその日暮らしをするくらいが性に合ってるのさ」
「私からするとそれだけの力があって何もしないのはもったいないように思えてたんけど……なるほど、タイラーなりに考えあってのことだったんだね」
すごい人を見るような目でこっちを見てくるウィドウ。
……ごめん、そこに関しては正直ほぼ何も考えてないわ。
何かをして面倒を受けるのを御免被りたいから、だらだら生きてたいだけなのよ。
当たり前だけど、過去の話をしても三人の態度が変わることはなかった。
強いて言うなら以前よりちょっとだけ尊敬の度合いが増したような気がするが……話したての今だからそうなってるだけで、変わらず適当に生きている俺を見ればその敬意もすぐに薄まることだろう。
ぐうぅ~っと情けない音が腹から鳴った。
夜飯を食わずに話し込んでしまっていたせいで、思っていたより腹が減ってるみたいだ。
……そうだ、ちょうどいいしこのタイミングで出しておくか。
立てかけておいた『収納袋』から、あるものを取り出す。
一つ一つ取り出してからテーブルの上に重ねていく。
段々になっていくそれは――俺が記憶を取り戻した時も食べた激辛のカップ麺だった。
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