選択肢
「あいたた……なかなかやるではないか、見直したぞ、タイラー」
「あ、はい、どうもです」
ちょっとビビりながら倒れたダツラさんに聖魔法を使うと、彼はすぐに意識を取り戻してくれた。
ほっとしながらウィドウ質と合流し、俺達は再びイラの街へと戻ってきていた。
パーティーハウスに連れて行くと話がこんがらがりそうだったので(アイリス達にそういった演技ができるとは俺にはまったく思えないからな!)俺達が行きつけのレストランで個室を取ることにした。
ちょうど昼食時でもあるので、ここでゆっくり話をするのがいいだろう。
「しかし、まさかタイラーが凄腕の魔術師だったとはな……剣を交わした時はまさかお前が魔術師だとは気付かなかったぞ」
「どうせなら剣だけでいけるところまでいってみたいと思ってやったのですが……失礼だったでしょうか?」
「いや、負けん気が強いのは結構なことだ。男という生き物は、挑戦しなくなったらそこで終わりだからな」
回復を受ける前まではボロボロだったのが嘘のようにピンピンしている。
どことなく、機嫌も良さそうな様子だ。
この人、間違いなくプチメテオと真っ向からぶつかり合ったはずなんだが……なんで元気なんだろう。
人外の領域に足突っ込んでない?
師範代クラスの人間って、皆こうなのかな?
「しかし、長年生きてきたがあれほどの魔法を使う人間は見たことがないぞ。冒険者というのもなかなか捨てたものじゃあないんだな」
「父さん、あれはタイラーがすごすぎるだけだから! 冒険者をタイラー基準で見られるとちょっと困るかも!」
そう訂正するウィドウを気にせず、ダツラさんはがぱがぱとワインを空けていく。
まだサラダしか来ていないのに、あっという間に一本飲み干してしまいそうだ。
「そうか……まあそうだな、ウィドウが認めた男というだけのことはあるということか」
「まさかお父さんに勝っちゃうだなんて、流石に想像してなかったですよ、タイラーさん」
「恐縮です」
ダツラさんとアヤヒさんが話をしているうちに、次々と料理が運ばれてくる。
ゆっくりとしたペースで、話をメインにしながら料理も平らげていく。
ダツラさんの顔は、なんとも複雑そうだった。
嬉しそうに笑ったかと思えば、眉間にしわを寄せて口をへの字に曲げる。
機嫌がいいのか悪いのか、ちょっと今の俺には判断がつかない。
「この人もタイラーさんのことは認めているんですよ。自分で勝負をふっかけておいて負けてるんですから、わかってるはずです。ただ素直になれないだけで」
隣にいるアヤヒさんに、こそっとそう囁かれる。
どことなくウィドウを思わせるその顔つきと、小柄な体格に見合わない大人の色香に、少しだけドキッとしたのはここだけの秘密だ。
ちなみにダツラさんとアヤヒさんが色々と話をしている最中、ウィドウはどこか心ここにあらずといった様子だった。
会話に混ざることもなく、ぼーっとした表情でこちらを見つめている。
心なしか顔が赤い気がする。
もしかして……体調でも悪いのか?
たしかにここ最近は、色々と心労もあっただろうからな。
「大丈夫か、ウィドウ?」
「ひゃ、ひゃあっ!?」
右手を彼女のおでこに、そして左手の自分のおでこに当てて温度を比べる。
どうやら熱はないみたいだ。
それなら心労か何かだろうか。
「だっ、だだだだ大丈夫!」
めちゃくちゃキョドってるし、全然大丈夫じゃなさそうだが……本人が問題ないと言っているし、これ以上突っ込むのはやめておくか。
「あらあら……」
「ぐっ、ぐぐ……」
ちなみにそんな俺とウィドウのことを、アヤヒさんはほほえましいものを見るような目で、そしてダツラさんは血の涙を流しそうな勢いで見つめていた。
そんなに睨まれると、流石にこっちも困るんだけど……。
「ほらほらお父さん、自分の言った言葉には責任を持たなくちゃダメでしょう?」
「ぐぬぬ…………だが、そうだな……アヤヒの言う通りだ」
ぐぬぬってリアルで言う人を初めて見たかもしれない。
血涙を流しそうなほど顔をゆがめていたダツラさんはやってきたワインのボトルをそのまま口をつけて一気に呷り、大きく息を吐いた。
お酒臭い息をまき散らすその目は相変わらず血走っていたが、意識を切り替えたからか、どこかすっきりとした顔をしているようにも見える。
「男に二言はない……ウィドウとの結婚を認めよう」
「はい……はい?」
何かとんでもない単語が聞こえてきた気がした。
難聴系主人公になれない俺の耳には、はっきりと二人の話し声が聞こえてくる。
あれ、もしかして俺って……選択肢間違えた?




