『戦乙女』の憂鬱 前編
【side エルザ】
イラの街を北に進めば、そこにはグングリ高原が広がっている。
この高原には視界を塞ぐような障害物もほとんどないため、魔物がいればすぐにわかる。
私はまん丸でどっしりと構えている岩の上に上り、ぐるりと辺り一面の光景を見渡す。
ところどころに魔物の存在がいるのは見える。
オークやゴブリン、スライムなどが見える……が、それだけ。
眼下を見ても、昨日の夕方に見た時と何ら変わらぬ光景が広がっているだけだった。
「ゴーレム、どこに隠れたのかしら……」
岩から下りてから、ため息を一つ。
私の言葉を聞いた皆も、小さく肩を竦めさせた。
「ねえエルザ、やっぱり目撃者の見間違いだったんじゃない? そもそもゴーレムって、このあたりに住んでるような魔物じゃないし」
今回私達がこのグングリ高原の調査を依頼されたのは、銀級冒険者の目撃情報に端を発している。
迷宮上がりでゴーレムを倒したこともあるベテランからの情報だ。
逃げ去ってきた新人が自分の失点を覆い隠すための情報なんかとは、確度がまったく違う。
「もちろんその可能性もあるかもしれない……けど私達が見逃して本当にゴーレムがいたら一大事よ。次に調査隊が派遣されるのなんか、いつになるかわからないんだから。だから絶対に居ないと断言できるようになるまでは、調査を続けるわ」
「うーん、とは言っても塩梅が難しいよねぇ……」
たしかにライザの言っていることは正しい。
指名依頼であるが故に、この依頼の成否には私達『戦乙女』の威信がかかっている。
せっかくタイラーの優しさで手に入れることができた名声を、私達のドジのせいでナシにしてしまうというのは、あまりにも彼に対して失礼だ。
「でももう、グングリ高原に来てから既に丸一日か……ゴーレム、影も形もないんだよなぁ」
ウィドウが大剣の握りを確かめながら、ストレス発散がてら近くにやって来ていたオークを断ち割った。
魔石を回収してきた彼女の顔は、少しだけ晴れているように見える。
ゴーレムの目撃情報が高原や平野で出ることは滅多にない。
というのもゴーレムは、その周囲の環境に強い影響を受ける魔物だ。
ゴーレムという魔物は、他の魔物でいうところの魔石にあたる核という部位が周囲の素材を取り込むことで生まれてくる。
そこに鉄資源があるのならアイアンゴーレム、そこが沼地ならスワンプゴーレム、そこが砂漠ならサンドゴーレム……といった具合に。
彼らが素材にできるのは土か金属に限られるため、多くの場合、緑のない岩石地帯や砂漠地帯、迷宮に生息していることがほとんどだ。
もしゴーレムがこんな高原地帯に現れるとしたら迷宮ができた可能性が高いのではないか、と上の方の人間は考えたというわけだ。
「というわけで頼んだわよ、ライザ」
「うーん、責任重大だにゃあ……」
ライザを戦闘にして、再び調査を始めていく。
先ほどのオークの死骸に引き寄せられてやってくる魔物達を横目に、ぐるぐると周囲を探索していく。
私達は基本的に戦闘のできる面子で固めているため、斥候のできる人材はライザしかいない。
狩人として視力と聴力が仕上がっているアイリスと、エルフの血を引いているおかげで耳の良いルルをその後ろに置き、私とウィドウでやってくる魔物を牽制するか叩き斬っていく。
ゴーレムの足跡や、ゴーレムが生まれたような凹みはないか。
もしくはダンジョンの入り口ができているような兆しはないか。
私にはよくわからないポイントポイントを確認しながら、三人がああでもないこうでもないと進んでいく。
結果として丸一日頑張って見たものの、今回調べたエリアでは異常は見られなかった。
本当にゴーレム、いないのかしら……?
でもこの高原の魔物が、弱いものでも銀級の強さはあるゴーレムを倒せるとは思えない。
他の冒険者に倒されたなら報告が上がっているはずだし……やっぱりまだ粘るべきね、うん。
一日歩き通しで何の成果も得られなかったからか、皆どこかげんなりした様子だ。
こういう時は私が、頑張らなくちゃいけない。
リーダーの真価というのは、こういう時にこそ発揮されるものなのだ。
「はいはい、そんな暗い顔しない! 皆、野営の準備を始めたら、夜ご飯を作るわよ!」
「「「「はぁ~い」」」」
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