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アラサー魔術師のゆる~いハーレムライフ  ~異世界と現代を行き来してのんびり暮らします~  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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マイペース


 いちかはうちの社内では、結構な高嶺の花だ。

 明らかに顔選抜で採用している受付嬢よりも整った目鼻立ちをしていて、おまけに仕事もできる。

 うちの会社の中で何人も彼女を狙っている人がいるくらいだ。


 だが意外にも、俺は彼女の浮いた話というのを聞いたことがない。

 こうしてたまに飲みにいったりはするが、基本はくだらない話ばかりしている。


「お疲れ様です」


「うぃーす」


 カチリと音を鳴らすグラスを持ち上げ、中に入ったハイボールを飲んでいく。


 俺は『とりあえず生』信仰がギリギリない世代なので、ビールは飲まない。

 苦くてプリン体もあるとなると、ハイボールに置き換えない理由がない。


 ちなみにいちかの方はというと、シャンディガフを飲んでいた。

 いや、より年下のお前がビール飲むんかい(シャンディガフはビールを使ったカクテルである)。


 お互い適当に、食いたいものを頼んでいく。

 俺は軟骨の唐揚げ、ポテトフライ、エビのフリッターといった感じで揚げ物を攻めていく。

 いちかが頼むのは水菜と豆腐のサラダ、長ネギ串、トマトのカプレーゼと野菜中心だ。


「串はぼんじりでいいですか?」


「おう、タレと塩一本ずつな」


 この店にも何度も来ているため、注文は二人でバランスが取れるようになっていた。

 店員がお通しを持ってやってくる。

 今日のお通しはミニおでん。


 中に入っている肉団子とうずらの卵の濃いめの味付けが憎い。

 思わず酒が進み、二杯目を頼む。


 安く酔っ払うために、次は麦のロックだ。

 一杯五百円、安くもなく高くもない居酒屋価格の焼酎を舐めるように飲んでいく。


 酒も飯も、こっちの方が圧倒的に美味い。

 あっちは素材がいいんだが、料理人(俺)の腕がイマイチなせいでどうしても食材頼りの味になっちゃうからなぁ。


「鏡さん、なんか変わりましたよね」


「そうか? 俺はそんな意識ないんだが」


 お茶割りを飲みながら、いちかが俺の分の串をこちらによこす。

 ありがとうと礼を言ってから、次は俺の方がサラダを取り分けて渡してやる。


「なんだかちょっとたくましくなったっていうか……男らしさが増しましたよ?」


「……たしかに、今筋トレしてるからな。それに週五労働からも解放されたから、いきいきしている自覚もある」


 足の方がむずむずすると思ったら、ちょんちょんっといちかが俺の腿の辺りをローファーの先端で撫でていた。


 妙にむずがゆく身じろぎしていると、いちかがにこっと人好きのする笑みを浮かべてくる。


 そしてそのまま、ぐぐっと前のめりになってこちらに顔を寄せてきた。


 距離が一気に近付き、いちかがシャツのボタンを開けているせいで谷間が見える。

 というか、距離が近いせいでシャツ越しに下着が透けて見えていた。

 ……紫か。


 しかしいちかのやつ、酔っ払ってるにしても限度があるぞ。

 お前、こんなことするやつじゃなかっただろ。


「ぶーっ、先輩つまんなーい! 全然平常心だ!」


 俺の態度があまり変わらないのを見て、いちかが頬を膨らませる。

 そのまま背もたれに身体を預けると、シャツのボタンをかけ直しながらこちらをジト目で見つめてくる。


 そのまま酒をぐいっと一気に呷り、一度目を閉じてから開く。

 するとそこには、俺の知っているいつものいちかの姿があった。


「はーあ、つまんない。いちかも仕事辞めたいな……辞めて、鴻南とかでサーフィンとかしながらノマドしたい。いっそのこと、鏡さんのところで一緒に仕事したいな」


 以前と比べてなんだか態度が違っているような気がするいちかだが、話をしているうちに距離感にも慣れてきた。


 恐らくこっちをからかって楽しんでいるんだろう。

 こういうのは基本的に、真面目に取り合わないのが吉だ。


「わかってますか? こんなことするの、先輩にだけなんですからね」


「はいはい、わかったわかった」


「本当かなぁ……」


 しかし、『戦乙女』と関わるようになったのがこんなところで活きてくるとはな。

 かわいい女の子に免疫をつけてなかったら、完全にいちかにハートを掴まれていたかもしれない。


 もしかすると俺の知ってる男達は、いちかのこういった小悪魔的なテクニックに心を奪われたのかもしれない。


 その後は適当にいつも通りに話をして、カードで会計を済ませて解散する。

 二件目行きましょうといういちかの誘いは、断固として拒否させてもらった。

 しっかり自制が利くうちに撤退するのが吉だ。


「鏡さん、それじゃあまた明日っ!」


「俺、テレワークなんだが……?」


「いいじゃないですか、ケチケチしないで来てくださいよ!」


 言っていることがめちゃくちゃになり始めているいちかを電車に押し込み、俺は逆の路線の電車に乗って家に帰る。


 つ、疲れた……でもいちかと楽しく飲めたから、仕事の疲れは吹っ飛んだ気がする。


 けど、からかわれたのは悔しいな……恐らく恋愛偏差値はあちらの方が圧倒的に高いんだろうが、いつかはぎゃふんと言わせてやりたい所存だ。

 さっさと帰って明日に備えなくちゃな。


 明日はルルに魔道具製作の授業をする予定だから、家に戻ったらすぐ寝ることにしよう。


 ――前世の記憶を取り戻してから半年ほど。

 異世界の方も落ち着いてきたおかげで、こちら側でも徐々にいつものペースを取り戻しつつある俺であった。

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