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アラサー魔術師のゆる~いハーレムライフ  ~異世界と現代を行き来してのんびり暮らします~  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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「この街に生まれた新たなドラゴンスレイヤーに……乾杯っ!」


「乾杯っ!」


 俺の目の前で、また見知らぬ誰かが『戦乙女』に杯を掲げていた。

 ここ最近あまりいい話がなかった中、突如として駆け巡ったドラゴン討伐の報に、イラの街は完全に沸き立っていた。


 酒飲みは酒を飲める新たな理由が生まれたことに喜んでいるが、今回は普段から酒場に入り浸っていないような真面目な奴らも酒場に押しかける自体となっている。


 そのため酒場がどこもかしこもパンパンだ。

 この『亀鬼亭』は普段は人気が少なくゆっくりと食事を楽しめる場所なんだが、イラの大通りから少し離れたところにある食事処でさえ、今はパンパンに客が詰まっている。


 ドラゴンという言葉が与えた衝撃は、それほどまでに大きかったということだ。


 俺はまた以前の基準で考えてしまっていたが、現在のディスグラドではドラゴンというのはたとえ幼竜だろうがなんだろうが、パーティーの一つや二つで対抗できるような存在ではない。


 オリハルコンに届くとされている強さは伊達ではなく、通常であればドラゴンは発見と同時にキャメロン王国が騎士団と国軍を引き連れ、総力を挙げ討伐へ向かい。

 とにかく消耗戦を続けて勝ちを掴むような相手らしかった。


 そんな相手を倒してみせたのが、この街期待のミスリルランク冒険者パーティーの『戦乙女』。


 ただ強いだけではなく、パーティーは女性のみで構成されていて、しかも全員が美人と来ている。


 そんなもの、話題にならない方がおかしいというもの。


 今ではどこに行っても「『戦乙女』が以前こんなことをしていた」だとか「『戦乙女』だと誰が一番かわいいか」などといったくだらない話で賑わっている。

 その様子を見て俺はほくそ笑む。


(今や皆の目は、完全にドラゴン討伐を成し遂げた『戦乙女』に釘付けだ。ポーターの存在など、誰一人として覚えてはいないだろう。……計画通り)


 新世界の神にでもなったような気分になりながら、俺は一人誰にも見られぬ角度で口角を上げた。


 今では街中がセールをやっていて、酒が普段の半値以下で飲める。

 お祭り騒ぎがあると参加したくなるのが人の性というやつだ。

 乗るしかない、このビッグウェーブに。


「なぁそこのあんちゃん、あんたも『戦乙女』すげぇと思わねぇか?」


 そんな風に思っていると、見知らぬおっちゃんに話しかけられた。


 普段なら酔っ払いのおっちゃんの戯れ言だと適当にあしらうが、今は酒を飲んでふわふわしているのもあり、とりあえず流れに身を任せてみることにした。


「いや、実際『戦乙女』はすごいよ」


 『戦乙女』はとにかくバランスがいい。

 前衛であるエルザとウィドウはどちらも高いレベルで身体強化を修めており、ウィドウが注意を引いてエルザが有効打を狙いにいくという感じで役割分担もしっかりしている。


 そこに遊撃であるライザと遠距離担当であるアイリスとルルも合わさることで、その戦いのパターンは一気に増える。


 誰を主とするかによっていくつもの戦い方のパターンがあり、どんな相手とも互角以上の戦いができるようになっているのだ。


 俺が酒の勢いで熱く語ると、赤ら顔のおっちゃんは少し驚きながらも、感心した様子で頷いている。


「あんた、ずいぶんと詳しいな……もしかしてファンかい?」


「……まあ、そんなようなものだな」


 戦いを目の前で見てきたし、なんなら一緒に戦ったり夜番をしたりもした。

 同じ依頼を受け、その様子を最前席で見ていたりもしたわけだから、熱量ならそこらのファンにだって負けやないだろう。


「これは皆に聞くことにしてるんだけどよ。あんちゃんはどの子が一番かわいいと思う?」


「ふむ、悩むな……」


 エルザはかわいいというより綺麗系(残念美人)だけど。

 そしてウィドウはどちらかというと男勝りでサバサバしているので、彼女もまたかわいいとは少し違う。

 アイリスには睨まれてばかりだから消去法でライザかルルだが……。


「ルルかな」


「おお、そうか。俺はアイリスさんが好きだぞ!」


 師匠の孫補正を発動させ、ルルということにしておくことにした。

 自分で言うのもあれだが、師匠思いのかわいい弟子だと思う。


 しっかし、このおっちゃんはアイリス推しか……どうやら俺とは相容れない存在のようだな。


 アイリスは態度も言動もキツすぎてね……。

 俺的にはやっぱり、もうちょっとかわいげがある子がいいな。


「そうか、おっちゃんは物好きだな……」


「誰を好きな人が物好き、ですってぇ?」


「――あだだだだっ!?」


 突如としてやってくる激痛に、頭が真っ白になった。

 耳がものすごい勢いで引っ張られているのだ。

 容赦なく掴まれてるせいで……み、耳がもげるっ!?


 俺の右耳の生殺与奪を握っているのは、小さくて白い指先だった。

 ローブの奥でうっすらと見えた見覚えのある顔を見て、俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。


「はぁっ、もう……どんだけ頑張って探したと思ってるのよ」


 気付けば俺の背後に、アイリスが立っていた。

 耳を掴まれた状態で横を向くと、どうやら彼女は怒っているようだ。


 酒の席とはいえ、ちょっと口が滑りすぎたな。

 反省して謝ると、耳を引っ張る力が弱まった。

 ……手は離してくれないんすね?


「え、ま、まさか、アイリ……」


「黙りなさい。タイラー、行くわよ」


「お前……容赦ないな」


 推しと奇跡の対面を果たして感無量なおっちゃんを一瞥したアイリスは、一瞬で興味を失ったようだ。

 彼女がぐっと、俺の耳を上に引っ張った。

 耳はリモコンじゃないんだぞと思いながらも、俺は立ち上がりアイリスについていく。


「どこに行くんだ?」


「パーティーハウスよ……主役を置いて打ち上げを始められるわけ、ないじゃない」


「ちょっ、お前、そういううかつな発言をだな……」


「うるさい」


 ぐっと強めに耳たぶを掴まれて、俺は反抗を止めさせられた。

 もしかすると俺の耳は、本当にリモコンなのかもしれない。

 アイリスに従うしか選択肢のなくなってしまった俺は、彼女に半ば連行されるような形でパーティーハウスへと向かうのだった……。

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