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秘策


 男は、いつまでたっても心の頃に持っていた少年の魂を持っている生き物だ。

 わくわくやドキドキの前では、その他の全てがどうでもよくなってしまうのだ。


 そんな少年スピリッツを思い出して童心に返り、楽しみながら魔法を使いまくっていた俺は……目の前の惨状を見て、急に冷静になった。


「……やりすぎたな」


 翼に穴を開けられ、土手っ腹に大きな穴を開けられているドラゴンの死骸。

 そしてその身体を貫通したプチメテオと、その衝撃でバキバキと音を立てながら倒れていった倒木達。


 下の方を見てみると、『戦乙女』の面々がこちらをじいっと見上げていた。

 ……どうしよう。


 後先を考えず、欲望の赴くままに突っ走ってしまうのは俺の悪い癖だ。

 だが俺はそんな自分が嫌いじゃない。


 まあ、なるようになるだろ。

 楽観……というより自棄になってもうどうでもいいやという状態になって、俺は地面へ着陸することにした――。



 俺の灰色の脳細胞がものすごい勢いで回転する。

 着地する前にいくつもパターンを予想し、その全てがろくでもない結果に終わった俺は、彼女達の顔を見て考えることをやめた。


 ええいっ、こうなればあとはノリと勢いでなんとかするしかないっ!


「お願いしますっ! 全部内緒にしといてくださいっ!」


 俺は着地すると同時――流れるように美しいフライング土下座を決め込んだ。

 力を見せた彼女達を害するつもりがない以上、俺にできるのはただ『戦乙女』の慈悲にすがることだけなのだ。

 顔を上げることなく、額に地面をこすりつけながら必死に懇願する。


 すると頭上から、はぁ……という聞き慣れたため息が聞こえてきた。


「なんで助けてもらった私達に貴方が頭を下げるのよ……とにかく顔を上げて、タイラー」


「はいっ!」


 ズビシッと勢いよく上体を起こすと、『戦乙女』の面々の表情は様々だった。


 エルザはしわの寄った眉間に手を当てており、ルルはキラキラと目を輝かせてこちらを尊敬の眼差しで見つめており、ライザとウィドウは面白いものを見るような目で俺を見ていた。


 そしてアイリスは相変わらずそっぽを向いていた。

 でもよく見ると、こちらをちらちらと見てきているのがわかる。

 ……一体なんなんだ?


「まず最初に礼を言わせて。アイリスを助けてくれてありがとう。ほら、アイリスも」


「うー……ありがと、タイラー」


「大丈夫か、なんか顔赤いぞ?」


「だ、大丈夫! 大丈夫だからっ!」


 全然大丈夫そうに見えないアイリスが、慌てた様子でエルザの後ろに隠れる。

 顔がゆでだこのように真っ赤になっており、なぜかちらちらと顔を出してはこちらを見つめてくる。


 まあ、おかしくなるのも無理はないか。

 ドラゴンに襲われそうになるなんて、まず間違いなく恐怖体験だろうし。


「それで話を戻すけど、流石に全部内緒にするって言うのは無理よ。調査依頼の名目上、森の異変の原因はきちんと報告しなくちゃいけないし、ドラゴンが倒されたんだからそのこともきっちりと周知させておかないといけないわ」


「一応そこに関しては腹案があるんだが……」


 そう言って俺は先ほど頭をフル回転して思いついたとある策を告げる。

 最後まで話を聞き終えて、エルザは先ほどより大きなため息を吐く。


「無欲が過ぎるわよ……私達にしか得がないけど、本当にそれでいいの?」


「ああ、このままの生活を続けられるというのが俺にとって一番大事だからな。俺はただ、だらだら冒険者生活がやりたいだけなんだ」


「――わかったわ、恩人の願いだもの。皆も、それでいいわね?」


 こうして俺達のガルの森の調査依頼は無事に完遂した。

 さて、俺の思惑通りになってくれるといいんだがな……。



 俺達がイラの街に戻り報告をすると、街中が沸き立った。

 森の異変の元凶がドラゴンであったことが発覚したことで、ギルドは騒然とした。

 けれどそれを発見だけではなく討伐まで成功させてみせた冒険者の存在により、更にその喧噪は大きくなる。


 街に新たなドラゴンスレイヤーが生まれた噂は、すぐに街中を駆け巡っていった。


 ポーターのお荷物魔術師を連れた状態で見事ドラゴンを倒してみせた者達の名は――ミスリルランク冒険者パーティー、『戦乙女』。

 こうしてイラの街にまた一つ、新たな伝説が生まれるのだった――。




 そう、俺が授けた作戦とは――『功が要らないなら、全部あげればいいじゃない作戦』である!!

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