日本の心
あとがきに大切なお知らせがあります!
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数分後。
そこにはいかにも日本の若者っぽい格好をしている、美人さん三人の姿があった。
「どう、似合ってるかしら?」
アイリスは白いシャツの上に、編み編みになった薄手のカーディガンを羽織っている。
「すごい、こんなに白いシャツ着るの初めてだよ!」
ウィドウはワイルドにシャツ一枚だ。
幸いディスグラドにも下着文化はあるので、下にはあっちの下着をつけてもらっている。
「これって何の素材使ってるの?」
「えっとたしか……絹とポリエステルだな」
「絹!? 絹の服なんて初めて着るよ! ポリエステルっていうのも絹の一種なんだね!」
ポリエステルは化学繊維のことなんだが、別に俺も詳しい説明ができるわけじゃないので適当に流しておくことにした。
ディスグラドの人達にこっちの話をする際には、翻訳能力とスルースキルが必要不可欠なのだ。
「えっと……これは耳当てでしょうか?」
「ああ、日本にはエルフがいないからな。目立たないようにしようと思って」
「なるほど……日本は人族至上主義の国なんですね……」
至上主義というか人間しかいないだけなんだけどな。
ディスグラドの人達に~(以下省略)。
「とりあえずここから先は俺の言うことを聞いてくれ。まず得物は全て『収納袋』の中にしまわせてもらう。日本では基本的に武器の携行は禁止されている」
「武器の携行が……? それじゃあいざという時に戦えないと思うんだけど」
「日本では戦う必要はほとんどない。もしもめ事が起きたら自分達じゃなくて警察官……衛兵みたな人達を呼んで仲裁をしてもらうようになってるんだ」
「なんだかめんどくさいシステムね、悪漢が襲ってきたらどうするのよ?」
「その時は相手を無力化させるんだ。大けがをさせるのもダメだ、こっちが罪に問われるからな」
「なんと……それなら土魔法を使ってなんとか相手を拘束しなくては……」
……あ、あっぶねぇ。
魔法を使ったらアカンことを伝えるのを忘れていた。
このままだと俺じゃなくてルル達がびっくり人間として有名になってしまう。
「それと日本では魔法の使用は禁止だ。使っていいのは魔力の身体強化だけな」
「わかったわ」
「了解」
アイリスとウィドウはこくりと頷く。
が、この中で一人納得できそうにない子がいた。
「そ、それなら私はどうすればいいんですか!?」
ルルは身体強化を使うことができない。
おまけに得意な魔法も使えないと言われ、涙目になっていた。
ちょっとかわいいなと思いながら、頭をなでなで。
「心配するな、何かあれば俺が守る。俺のこと、信じられないか?」
「……そ、そんなことないです! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
こうして本当に大丈夫かという不安を俺もアイリス達も抱えながら、俺達はようやく外の世界へと向かうのだった――。
別に誰かに言ったりしたことはないけど、俺はぶっちゃけさっさと円安が終わらないかなと結構な頻度で思っていた。
どこにいっても外国語が聞こえて来るし、土日は観光客のせいで店から何から全部混む。
インバウンド需要があっても俺達には何も変わらないし、むしろ物価高で生活が前よりきつくなった気すらするし。
だが……今俺は初めて、円安が進んでいることを神に感謝していた。
「タイラーさん、馬がいないのに馬車が動いてますよ!? あれはどんな魔道具なんですか!?」
「あれは車って言ってな。基本はガソリンで動いて……いや、あれEVだわ。あの車は電気で動いてるんだ。小規模な雷を使って動かしてる感じだな」
「小規模な雷……あの馬のいない馬車の中は、すごいことになっているんですね……」
手を取られたと思ったら、ウィドウが目をキラキラと輝かせている。
彼女が見つめる先には、店前に大量の食品サンプルが並んでいる中華料理屋さんがあった。
「タイラー、このご飯はどうやって食べればいいの?」
「これは料理の見本でな、食べられないんだ。ただ中に入るとこれと同じようなものが食えるようになってる」
「なるほど……これすっごいわかりやすくない!? イラの街のお店でもやればいいのに!」
食品サンプルってどうやって作るんだっけか……ちっちゃい頃に体験教室みたいの行った気がするけど、ほとんど記憶が残っていない。
蝋を着色させたりすればいけるだろうけど……イラに行ったら職人に頼んでみたりしてもいいかもしれない。
「ねぇねぇタイラー、あれは何?」
「えっと――あれは電波塔だな。電波を発することで遠くの人と会話できるようになるんだ」
「遠くってどのくらい?」
「別の国とかでも全然いけるくらいだ」
「遠っ!? そんな遠くても大丈夫なの……すごいのね、日本って……」
アイリス達三人は、目に映るもの全てに興奮しきりだった。
俺の最寄りはそこまで大きな商業施設みたいなものはないが、彼女達からすれば全てが未知の技術の結晶。
見慣れた車やコンビニ、チェーン店のレストランに自動販売機まで、全てに興味津々で楽しそうだ。
楽しそうな彼女達に釣られる形で、俺の方も思わず笑みを浮かべてしまう。
そして彼女達がわーきゃー言いながら俺に説明を求めてきたりしても、通りを行き交う人間達は、俺達にまったく目もくれていなかった。
外国人がいるという日常が当たり前になったおかげで、アイリス達が良い感じに埋もれることができているんだろう。
ありがとう円安。
今ならポテチが200円になっていたことも許せ……いや、やっぱりあれだけは許せないな。
人間には譲れないラインというものがある。
「そろそろ昼飯を食べに行こうと思うんだけど、三人は何か食べたいものあるか?」
「うーんとね、それについては三人で考えたんだけど……」
「日本の伝統料理みたいなものがあったら、それを食べたいなって話になったんだ」
「ほう……」
彼女達をあそこに連れて行くか、正直結構迷ってたんだけど……言質が取れたんだし問題はないな。
今からアイリス達には日本の心――寿司を食わせてやろうじゃないか!
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