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一話

中年サラリーマン


私は中年サラリーマンだ

若い頃から会社員一本でこれまでやってきた

会社員、会社員、会社員、

出会う人間は大体会社員

周りは大体会社員


家族はいない


彼女は学生時代できたきり

以降は"会社員"という生物として生きてきた

恋愛なんて私に必要な酵素ではない


私の心臓は二つある

一つは心の臓

もう一つは丸いデスクだ



今日は一時から外回り

暑いが問題ない


『滝沢さん、早め出ません?今日』


後輩の関


最近の若者だ


『なんだ、なんか予定でもあるのか?』

 

『ルート内にうまいラーメン屋できたんすよ

 ちょっくら食いいきません?』


『行列が見えたら行かないぞ』


『いっつも並んでるんすよ、そこ

 だから早めに出ようって言ってるんじゃないすっか〜』

 

『並んで遅くなったらどうする

並んでようやく食べれるってなった時に間に合わないような時間になったら今までの時間は何になるんだ

効率が悪すぎる

論外だ』

 

仕事が全て

そうだ

なぜ若者達は何か仕事を片手間のような自身を彩るモノのように考えてのか理解できない


『まぁ〜、いいんじゃねぇのか?

 部下とのコミュニケーションも仕事の一環だぜ』


同期の田臥

コイツ無しに今の俺は存在し得ない


コイツが言うなら、まぁ許容範囲のカサが増した


『んじゃ、行くとするか

 来い、ささっと始末するぞ』


オフィスを出てビルのエレベーターに乗る


クリアな窓に上昇していく景色を何回かチラ見して

ロビーに到着した


ロビーの受付嬢が話しかける


『見られましたか〜』


何を言ってるんだ


脈絡無いことを言うのは若者の特技か




『で、どこにあるんだ?そのラーメン屋は』


『出てすぐ右曲がって最初の信号を左に曲がって突き当たりのヤクザの事務所の角を左折っす』


『ヤクザの事務所?そんな案内の仕方があるか

 クライアントにそんな言葉を吐いた日にはお前は引退だ』


『だってしょうがないじゃないすっか〜、それが一番大きい目印だもん』


言い訳ばかり

こんなやつばかりだから、世の中おかしな話題が多くなる


さっさとラーメンを食すという結果を出そう


そう思って私はだらしない後輩を連れ、ビルを後にした


街ゆく人たちは皆、俯いている

なぜなのか

自分の今現在、勤めている事柄を真正面から精一杯取り組み、毎日染みついているなら

もっと堂々と歩いていいはずだ


どうも私ばかりが頑張っているようだ


後輩は歩きスマホ


はぁ、誰も彼も何を考えているか分からない

 

『関、そういえば来週、婚姻するだってな

ちゃんと凛々しく邁進できる材料になるな』


『えぇ、そこは素直にまずおめでとうでしょうっていいじゃないっすか〜

なんかそんな言い方だとなんか結婚が機械的な作業のように感じますよ』


『機械的な作業とはよく言ったモノだ

我々の人生とは一瞬一瞬、喜怒哀楽があり断片的に見れば様々な感傷で彩られていると思うが、違う

仕事という生涯を通した人間本来のできる最大限の干渉活動をバックアップし

問題なく機能するように常日頃から無意識で生活することなのだ』


『ん〜、それはよく分かりません』




『勉強だな』


私と関の会話はカレンダーで発売してもいい

それくらい私は常に価値ある言動ができるよう意識している


信号を左折、ヤクザの事務所が見えきた  


『いいか、関、あんな連中お前が子供ができた時は絶対に関わらせるな

持たざるモノと関係を持ってトクになることはない』


関は少し、口を開き

やはり閉じ、黙った


あまり、説教しいだと若者からは嫌われるだろうが、それも私の仕事と思う

 

うむ、それくらいいくらでも引き受ける

同世代の内気な者は連絡をしてほしい


『滝沢さん!滝沢さんって!』


勢いよく後ろから肩を叩かれる

感傷に浸り聞いてなかった


『滝沢さん!そこ前!人死んでる!』


聞き馴染みない言葉で余韻に浸っていたが視線を言葉に従わせて感傷が消えた


『お、おぉ』


『何感心してんの!足当たってるよ!』




『これは、人の死体か、でもなぜこんな所に』


『ヤクザの事務所の前だからでしょうけど、とりあえずやばいですね

一旦ここ離れて警察に連絡ですよ』


血だまりがそこら中に広がっている

たった今さっきここで死んだようだ



死体の顔がこちらを睨んでいるようで自然と後退りする


早くここから離れよう

とりあえずその後、的確な対処をし、遭遇した最悪なケースにベストな解決策を


先輩である私が気を確かに持ち、チームの損失を無くす


落ち着いて周りを見渡し、関を先導しようと思い、硬直していた体を動かした瞬間

空い音が鳴った


後ろからの水飛沫を感じる


慣れない感覚と違和感を受け取り後ろを振り返る


先程も鮮明に刻まれた見覚えのある光景




関が死んでいた



また、血だまりが広がっている

ピクリとも動かない後輩を眼前に

ただ命令されたかのように目に焼き付けている


なぜ

どうして

なんのために

何が起きている


誰がやったんだ


強烈な光景から視線を上に上げる


黒いスウェットを着た

マスクで顔を隠した中年風の男が銃口をこちらに向けて佇む


男はマスクの下から引き攣った声で微かに笑う


『なぜ、こんなことを』


『#adjjxmjumdhwdjuwm』


聞き取れない言葉を話し距離を縮めてきている

  

体が動かない


どんな仕事でもこんな自分が居たことが無い


恐怖で足が竦んで逃げられない


額にヒンヤリ冷めた感覚が冴え渡り

現実に感覚が引き戻された


関の遺体を踏み上げて男が私の体まで迫り、また訳のわからない言語で囁く


男の体温が伝わる

私の哀れな表情を見て何を思っているのか

無慈悲に蹴られ

私は膝から崩れ落ちた 


ただ呆然と男を見上げる私の額にさらに深く銃口を押し付けられる


『&ntwmjuhmaMDmt』



私はチカラいっぱい目を見開いた


その緊張感ある体の強張りを最後に



GADJmjtp@





            ◇






『田臥、ここの資料、こんな感じで大丈夫だよな』


『問題ない、それより早くしたらどうだ

後輩が待ってくれてるんだろ』


『あぁ、気は進まないが、お前が言うならまぁ一理あると思って行ってやるよ』


オフィスの出入り口で気怠そうに待つ後輩が急かす


『早くしてくださいよ〜!

 並びますよ!このままじゃ』

 

仕事も早く終わらせないとどんどん溜まる

そんなことも分からないからラーメンなんて病気の元を好むのだ



『先にロビー降りてなさい、すぐに向かう』


後輩は渋々オフィスを後にした


あらかたの業務が終わった私はオフィスを出てエレベーターへ向かい

下層へ降りる


景色が目まぐるしく変わるので

視線を何回か送ってしまう

 

ロビーへ到着した


ロビーの受付嬢が話しかける


『見られましたか〜』


何を言ってるんだ


今のは私に言ったのだとしたら彼女は根本的に教養が足りて無い


後輩がビルの外で待っている


私は少し急足でビルを後にした


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