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恋をしたら病気と読む  作者: 紅葉
8/8

曖昧な否定

「あっ、おかえりーー」

「はーい」

くたびれた声で返事をしたのは、私のお母さんだ。


「今日遅かったけどどうしたの?」

「どうも。あっご飯はこれね」

お母さんは、そう言ってスーパー袋を私に手渡した

中を見ると、菜づ菜のサラダ、天丼が入っている。


「ごめん、お母さんもう食べちゃった」

「えっそうなの?ならはやくいってよ〜〜」

そう言って肩に担いであるバッグを、ソファの上に置いて「はぁ〜〜〜」と溜息を付いた


「風呂沸いてるから、先に入ってきて」

「そう。ありがとう」

お母さんは、スーツを片っ端から脱いで、ソファの上に置いていく


ハンガーには、後で掛けるタイプなので、最初はソファがハンガーの変わりだ。



そういえば、お母さんの自己紹介を忘れていた

私の母の名前は、椎井クルミ。

公務員でシングルマザーのバツイチだ。


お母さんが言うには、「結婚と仕事の両立は大変なんだから!」と言っていた

意味も分からず、適当に相槌をうっていたのを今でも覚えている


お風呂から上がり、「ふぅ〜」と言いながら椎井クルミはリビングの椅子に腰掛ける。


「それで、どうしたの?彼氏できた」


ひと息付いたと同時に、突然の爆弾発言。

私は、「うっ!」と息がつまり、飲んでたジュースを零しそうなった


「いや、いないから。それよりご飯は食べたの?」

「もう食べてきた」

「そうなんだ」

お母さんが食べてる間に、話を整理しようと思ってたのに。


「それで....話ってなに?」

「えっと...その...」

いざ、お母さんを前にすると、かなり言いづらい

言葉の一つ一つが、喉から出ていこうとするが、出てこない


「そういえば、昨日、駅前でタイタンくんに会ったわよ。」

タイタンこと石山太一は、私の元彼だ...と思う

中学生の時点で身長が175cmもあり、身長だけはずば抜けて高かったのでお母さんからは、タイタンと呼ばれている

「えっ?たいちくんどうして?」

「さあ?、「あおいと連絡がとれないから体調でも崩したんじゃないか」とか心配してたわよ...あんたら、喧嘩でもしたの?」

「してないけど...」


喧嘩はしていない、だけどぎくしゃくとはした。

理由は、とても単純だ。

彼の前での『私』を演じるのが疲れたのだ

彼が本気で私を好きでいたおかげで、私の心は少しずつ彼から距離をとっていた

毎日のように、「記念日作ろう」とか「好きだよ」とかキスを求められて、カラダを求められて...。

それだけ、私を好きでいてくれるのは嬉しいけど...とても『苦しく』『辛い』。


最後は、ぎくしゃくとなって、疎遠になって終わったはずなのに、それでもまだ彼は私を好きでいてくれてる?ことに驚いた。



「タイタンくんも喧嘩はしてないって言ってたけど、あんたら別れたの?」

「別れたと思う」

「思うって何。疎遠になったから別れたと葵が勘違いしたんじゃないの?」

的確に図星を付きにくる


そう言いながら、お母さんは、櫛で髪を溶かしながら、ドライヤーを当てていく


ドライヤーのゴーーとなる音がうるさく聞こえて、考えが纏まらない


私ってたいちくんと別れたんだよね?

駄目だ。自信がない

だってもう7ヶ月も連絡を取ってないし

あっちだって私を忘れてると思ってたけど

あれっ?


お母さんは、ドライヤーを掛け終わり、コンセントを抜いて片付けながら言った


「それでどうしたの?」

それで...何を言おう

元彼だと思っていた人は、元彼ではなく今も続いてると彼は思っているのかもしれない。


連絡が取れなくなって心配をしている

何で?、分からない、けど今回の話とは関係無いはず


「お...お母さんわ...わたし」

女の子方が好きなのだと

言わないと、言わないと

「私男の人より女の子方が好きかも...」

言った!言えた


私は、俯いたまま顔をあげてお母さんを見る

驚いた顔で私を見て言った

「あんた、病気じゃないの?」

「えっ...なんで」

「そりゃそうでしょ。最近は、LGBTやら多様性やら障害とか言って日本を騒がせているけど、それって病気なんだから治るものじゃない?何で受け入れようとしてるの?」

お母さんの言ってることが意味が分からない

病気?何で?

「でもWHOがLGBTを【精神障害】から外したって言ってたよ」

そんな理屈をお母さんが求めていないと、分かっていた、だけど何を言えばいいのか分からなかった


ただ何か言わないと否定されたくなかった


「WHOが【精神障害】から外したからって、私が気持ち悪いと思わない理由にはならないじゃない」

「...」

何も言えない、心の何処かで受け入れてくれると思っていた

だけど、母ははっきりと拒絶した


「気持ち悪い?」

憐れむような表情で、声で言った

「気持ち悪いよ。だけど、そんな病気直ぐに治るものだから大丈夫よ」


そんな...

何も言えないまま、時間だけが過ぎていく

一度口を開いてはまた閉じる。

トゥルルと携帯の電話の音がバッグから聞こえてくる


「ごめん、話はまた後でね」

そう言って椎井クルミは、携帯を取り出す。

「あっごめんね。祐也、うんうん」

祐也?新しい彼氏?


左手をふりふりとしながら右手で携帯を耳に当てる


今日は話は終わりの合図だ

私は2階に駆け上がりベッドに飛び込んだ

枕に顔を埋めて後悔した。

娘なのだから、大丈夫なのだと思っていた

だけど、違った


「本上くんのアドバイス聞いておけばよかったなぁ」

枕に埋めながらの呟き

ボソボソとして言葉にはなっていない



翌日の朝

お母さんと会うのが怖くて、部屋の扉を開けるのに躊躇した


ドアノブ一度握っては、離して、次は部屋中を歩き回ってもう一度ドアノブ握って離す


そんな行為を何度も繰り返しているうちに学校に行く時間なってしまった


ご飯も食べていない、身だしなみも整えていない

焦りながら、もう一度ドアノブを握ろうとすると、ガチャっと扉が開いた


そこにはお母さんが立っていた


昨日の事を全く、気にしてないのかいつもの表情と声で私に言った

「ちょっと、今日学校じゃないの?早く準備しなさい」

「あっごめん直ぐに準備する」


そう言って私は、お母さんから目を反らして階段を駆け下りた


ご飯を食べて、身だしなみを整える

確実に遅刻だ


靴をトントンと地面に叩いて、履いていると椎井クルミは言った

「明日、仕事休みだから予約しておくわね病院、学校が終わったら直ぐに行くから準備しててね」

「病院?何の?」

分かっているのに、つい聞いてしまった

「LGBTなのか、そうではないのかの、検査をしてもらうの」


検査をしてそうだった場合どうするのだろう?

そう思ったが口には出さず「分かった」と答えた

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