本上くん
「いこっか」
「..うん」
私の見た時の顔は良く言えば、受け入れがたい。悪く言えば軽蔑に近い眼差しだった
いつの間にか美亜は、振り返り私の顔を覗き込んていた
「どうしたのぼーっとして」
「いやいや、何でもないから!いこっか」
先程の光景に対して何も後ろめたさは無いのに、途端に彼女怖くなって...私は接し方が分からなくなってくる
「ごめーん遅くなった」
もう二人は、玄関ホールの中心に建てられている白い柱に寄りかかりなにか話をしていた
一人は笑みを作り、もう一人は無理した表情作りながら。
だけど楽しそうに話をしていた
「ごめん待った?」
「いやいや、待ってないよ。」
細見は、何でもない顔で返事をして、本上も何でもない顔を装って返事をした
どうしたの?とは言わず「それじゃあ行こっか」と私が答えて適当な場所を取り食事をとって次の映画に向かった
スクリーン前で突然美亜が「次は組み合わせ変更しない?」と提案をした
「変更しないっていってもさ、もうあれで登録してるから無理じゃないか?」
「いやいや、バレないって!」
「組み合わせっていってもどうするんだ。」
「私と細見くんであおいと本上くんでいいんじゃない?」
細見は私を見て本上くんを見る
そして頭をがしがし掻きながら答えた
「いやでもなあ」
「たまいいんじゃない。私本上くんと話もしたいし」
私の援護射撃に本上くんも被せてきた
「俺も別良いよ。そっちも面白そうだしな」
「はぁ。分かったよ」
細見は、渋々と言った感じに了承して、組み合わせが変わった
椅子に腰掛けて映画が始まるまで話をするカップルや一人で来た映画好きの男性を見ながら本上くんと話をした
「さっきはごめんね。まさか美亜が変えようなんて提案をするなんて」
「いやいや、大丈夫だよ。俺も椎井と話したかったし」
「気にするなよ」と言って大スクリーンに目を向ける
私は安堵の溜息を履いて大スクリーンを見る
スクリーンには、全くと言っていいほど知らない映画の広告が次から次に流れていく
少し自分の壺を刺激するような広告にくすっと笑う
「ねえ、アイドルって何がいいの?」
椎井は、大スクリーンを見ながらそんな事を言った
「口調大丈夫なの?」
私は細見と美亜を横目で見ながら答えた
「平気。広告の音で聞こえないよ。それより、どういうところが可愛くて、素敵で、美人で、あそこまで話を熱中できるのかな?」
「アイドル嫌いなの?」
「ううん。嫌いじゃないの。たださっきゆうとに聞かれたんだよね。。「あの広告にいるアイドルの中で誰が一番可愛い?」って」
女の子がイケメンを見てきゃーーと叫ぶのと一緒みたいなものじゃないかな?
私がどう答えようか迷っていると「ぶーーー!!」と開演ブザーが鳴り始める
私は、答えるタイミングを失い、映画『月夜の始まる恋』が始まった
映画が終盤に差し掛かる
私はあるシーンのセリフが頭から離れなかった
シーンといっても名シーンとかでも何か感動を含めたものでもない。
ただのセリフの使い回しのようなもの
「俺達親友だろ。だから何でも話せよ、絶対嫌ったりしない」と青年斗説得して少女から話を聞くシーンだ。
私は、そのセリフがすごく不愉快に感じた。
最初に脳裏に浮かんだ言葉は、
「嘘付き」だった
友達だから、親友だから、恋人だから、夫婦だから
お互いの関係が親密なれば『嫌われない』なんて理由にはならない
話す内容にもよるかもしれないが、この青年は言ったのだ。
『絶対に嫌いならない』と
これは物語なので青年を嫌うことなく少女とハッピーエンドを迎えるのだが現実はそううまくはいかない。
私は、自分で思った言葉の意味を、本当の意味で知ることになったのはまだ先の事。
「映画面白かったね。何かあの男の人細見くんに似てなかった?」
「そんなわけないだろ。あんなにかっこよくないわ」
「いやいや、ゆうとみたいだったって」
「おまえもそっち側かよ!」
と言って三人は茶化し合っている
そんなふうに映画の何処のシーンが良かったとか、次は何処で遊ぼうかとか言いながら話し合いながら一日は過ぎていった
あれから6ヶ月過ぎて季節は冬の12月に変わった
何か大きな出来事があって私達の関係が変わったとかはなかった...と思う
いつも通り4人の関係が続いている
あえて言うなら本上くんが告白されて断った事だ。
相手は別のクラスの甘利さんという人で、私も何度か目にしたり、相談されたりもした
「本上くんはどういう人がタイプなの?」とか「何をしたら喜んでくれる?」とか聞かれて私もどう答えらたらいいのか分からないので、曖昧に「優しい人が好きみたいだよ」と言って返事を遠回しにしていた。
本上くんといえば、少し困ってたみたいだけど、めげずに甘利さんは、アタックをしていた。
甘利さんは、本上くんに告白したんだけど「ごめんなさい」と言って本上くんが振ってしまった。
理由は、とても単純で「好きなれそうないから」と言っていた
本上くんは、性同一性障害で心が女で身体は男なのだ。
なので付き合っても、傷付けるだけだと思って振ったらしい。
今私達は、二人で公園のベンチに座りながら話をしている
「ねえ本上くん性転換手術ってあるじゃない?しようとは思わないの?」
「思うよ。だけどそれが周囲に知られてどう思われるか怖いじゃない。だからするとしたら大学にいくときかな?ほら私東京に行こうと思ってるし」
「えっ!?初耳どうして?」
「だって細見くんに振られたら、もうこの県にいられないし...それに東京には、性転換手術に名医がいるって聞いたからかな」
「へーー...えっ!?」
「告白するの!?」
「当たり前でしょ。正直自分の気持ちをこのまま隠し続けようと思ってたけど、やっぱり踏ん切りつかないし...とても苦しいじゃない...?」
彼女は、拒絶を恐れながらも前に進んでいた
それに対して私はどうだろう?
お母さんには勿論、周囲の交流関係や親友には話しいていない、話せていないのかもしれない
傷付く事が嫌で、拒まれる事が凄く嫌で、関係が変わることがもっと嫌で、私は話せなかった
別に話すことが正しいとは思わない、だけど進み続ける彼女が『凄い』と思った
「ねえ両親に話したって言ったでしょ。私も話そうと思うんだ。私男の人よりも女の人の方が好きかもしれないって」
「あおいもとうとう話すんだ!」
「それでさ、話した時って両親はどんな反応してたの?」
私の質問に対して本上くんは、口籠った
「えっとーーー。ふ...普通だったよ。特別嫌な態度でもなかったし。」
何だか意味ありげな口調に、私は、「んっ?」と思った
「そうだ。葵がお母さんに話すことができたら、教えて上げる」
「えええーー。」
それからも話しは続いた
本上くんが、プエラリア・ミリフィカというサプリを服用していたこと
プエラリア・ミリフィカ
タイなどに分布するマメ科の植物だ。
女性ホルモン様の作用のある物質が含まれており、バストケアやバストアップの効果があるサプリだ。
「あのサプリ一ヶ月ぐらい飲んでたんだけど、胸が少し膨らんで感度がよくなった」
「へーーー」と思いながら内心は少し引いていたけど、笑い話らしく、面白おかしく話してくれた
後は女性ホルモン注射だ。
高校三年の冬から始めるそうだ。
そういう意味での東京らしい。
最後に本上くんは私を説得するように言った「友人や恋人の関係は切れるかもしれないけど、両親との関係は簡単に切れないから話したほうがいいよ。」笑みを作り言葉を付け足す
「私も話したし!!」と笑い話のように話をした。
私はその言葉に頷き決意を固める。
『今日の夜話そう。』
でないと決意が揺らぎそうなので