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淡々とした女

作者: にお
掲載日:2022/10/01

*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。

 重たい飲料水を1ケース程台車に載せ、バックヤードへと運んだ私はふと声をかけられた。

 

仕事に集中するあまりそれが誰だかわからなかったが、二度目の声かけであの声だとわかり、私は少し嫌な顔をしながらも相手には気づかれない様に笑顔で振り返った。


「みなみちゃん。みなみちゃんってさ、好きな人とかいるの?」


 正社員の前田であった。


 厚ぼったい一重で肥満体型をしており、出勤日が重なる日は必ず何かとつけて話しかけてくる。


 内容も呆れるものばかりで、聞いてもいないのに勝手に自分の齢を言い、挙げ句に私の齢まで聞いてくるような男で、ここで働く前はパチンコ店で働いていた事や自分の趣味などどうでも良い事ばかり一方的に伝えてくる。


 極めつけに私を下の名前で呼ぶことが何よりも気に入らず、私の大嫌いな従業員である。


「いえ、別にいませんよ」


 私は平然を装いながら愛想よく答えた。


「ふーんそうなんだ。じゃあ彼氏もいないってことだよね」


「そうですね」


「作らないの?」


 私の私生活に入り込もうとする魂胆が大胆すぎて吐き気を催しそうになる。


 右目を引きつかせながら作った笑顔を今にも崩れそうになりながらも人間関係を悪化させたくない一心で堪える。


 何か逃げる方法は無いかと考え、今日の勤務表に書かれた作業割当からレジのことを思い出した。


「あ、ごめんなさい。9時からレジに立たないといけないので。急ぎます」


 正当な理由を伝え、小走りで店内へと急ぎ前田の横を通り過ぎる時、微かに舌打ちが聞こえたのを聞き逃さなかった。


 私はそのことを咎める事はせず、レジまで辿り着くと前任者の姿があった。


「すみません、遅れてしまいました」 


 黙々とレジに並ぶ客の会計をしていた槇村が一度、私に視線を送った。


 冷たい目であったがそこに怒りは含まれておらず、客の陳列が途絶えた所で私はもう一度頭を下げた。


「次は貴方?」


 抑揚のない淡々とした声でバーコードリーダーを手渡されたので頷いて受け取り、レジの登録者名を変更する。


「あの」


 言いかけた所で槇村の姿は既になく探そうと目線を彷徨わせていると3番売り場で客との接客に捕まっていた。


 私には見せない表情で懇切丁寧に商品説明をする姿に驚いてしまう。


 従業員同士でも見せてくれたらいいのにと眺めていると、再び列ができ始めたため急いでレジ打ちを始めた。



「お先に失礼します」


 片付け作業を終え、制服を脱いでロッカールームから出た所でバックヤードから駐車場へと向かう槇村の後ろ姿が見えた。


 忘れていた昼間のお礼を伝えるべく私は走り始めたが、彼女の早歩きに追いつけない。


「待って、槇村さん!」


 私は咄嗟に声をだして呼び止めた。


「何かしら」


 飄々とした表情が振り返り立ち止まってくれたため、無事追いつくことができた。


 荒らげた息を整え、お辞儀をする。


「ありがとうございました」


「?」


「まだお礼言えて無くて。その、朝のレジの件……」


 私が弱々しく言うと、槇村は暫し考えた後に頷いた。


「別に気にしてないわ。要件はそれだけかしら。お疲れ様」


「あ、はい。お疲れ様でした」


 槇村は実に素っ気ない態度で職場をあとにした。



「え、前田さんが事故?」


 次の日出勤すると、店長からそのような事を伝えられた。


 嫌な輩だと思っていたが、さすがに気の毒に思う。


 制服に着替え、今日も準備を整えてレジへと向かう途中に槇村がいた。


 1ヶ月のシフト表では槇村は今日休みのはずだったが、急遽出勤になっていた。


「おはようございます、槇村さん」


「おはよう」


「聞きました、前田さんのこと?」


「前田さん……ああ、あの社員さんのことね」


「大変ですね事故なんて」


「そうかしら?」


「え?」


「私あの人興味ないのよね」


「お嫌いなんですか?実は私も」


「いや私は嫌いとかではないの。本当に興味がないのよ」


「どういう意味ですか?」


「そのままの意味よ。あの方が事故しようがしまいが、私は関心が持てないの」


 冷徹な一言に私は衝撃を受けた。


「で、でも事故に遭われたんですよ。少しは気の毒にとか思いませんか?」


「なぜ?同じ職場だからって仲良くなる必要はないわよ。私は働きに来てるのよ、ここはプライベートじゃないわ。労働を提供する代わりに給料をいただく。それだけのことじゃない」


 槇村は眉一つ細めずにいつもの淡々とした口調で私に説いた。


 言葉に全く感情がのせない言い方に私の心に一種の哀れみが生まれ、思わず喉から出てきた。


「それは悲しい気持ちになりませんか?」


 反論のつもりで言ったわけではなかった。


「ならないわね。今いった通りここは職場。それ以上でもそれ以下でもないわ」


 私が言葉を詰まらせると彼女はすぐに朝の作業に入るべくバックヤードへと姿を消した。


 取り残された私は果たして前田に対して自身はどうあるべきかを考えらされる結果となった。 

お読みいただき、ありがとうございました。

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