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聖女ハンナ  作者: 零位雫記
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03 ルーティア雪原

3 ルーティア雪原



ハサイメ率いる、ハサイメ第一軍団はルーティア雪原にある、彼らの最前線基地とも言えるシナック砦に順調に進軍していました。

兵士たちの歩みは、ここ最近にはなく力強いものでした。寒さはシナック砦に近づくにつれ強さを増し、日によっては吹雪に出くわすこともありました。しかし兵士たちは、通常なら、野営を張って吹雪が止むの待ってから行軍を始めるのですが、今回の遠征ではそれをせず、

夜以外は進軍しました。なにせ今回の遠征は、聖人であり勇者として兵たちに絶大な影響を及ぼしているハサイメと、人の傷を治癒することができる奇跡の御業を持った聖女ハンナがいるのです。

俄然、兵士たちは気持ちが高ぶります。いつもなら多少の不安を持ったままシナックの砦へと赴きますが、今回のおれたちには力強い味方がいるということが兵士たちを溌剌とさせていました。

そのことが関係したのか、ハサイメ第一軍団は、いつもだったら三日以上かかるシナック砦までの道程を、今回は二日半で到着することができました。

砦を守る責任者オリワラは、あまりにも早いハサイメ軍の到着を軍団長室で聞き目を丸くしていました。


「将軍、この度はえらく早い到着で」


オリワラは、思った感想をハサイメに言いました。


「うむ。それには理由があってな。その理由がこのお方の出現だ」


ハサイメは、自分の後ろにいるハンナを半身になりオリワラに披露した。


「このお方こそ、天使さまのお告げでわれらの窮状を救うために参られた聖女ハンナさまだ」


「聖女、さま?」


「そうだ。聖女ハンナは、奇跡の御業を使うことができる。そうだ、よし。聖女の力は見世物ではないのだが、さっそくその御業をみてもらおう。オリワラよ、今回も負傷者は出ているのか?」


「はい、今回は二度ほど戦闘がありまして、負傷者が百人以上出ております。もはや今日明日、死亡するかもしれないという兵士も何人かいます」


「それはいけない。聖女ハンナ、ついてきてくれ」


ハサイメは、早足で軍団長を出ました。それに倣ってハンナとオリワラも早足でハサイメに続きます。

彼ら三人は、負傷者がベッドで安静にしている部屋にやってきました。


「重体の兵士はどこにいる?」


ハサイメはオリワラに尋ねます。


「あの暖炉のそばにいる数人がそうです」


「よし、ハンナいくぞ」


ハサイメとハンナは暖炉のそばに急行しました。

暖炉近くのベッドには、だれが見ても重篤な兵士たちが横たわっていました。

ハンナはまず、ほぼ全身に包帯が巻かれている兵士に杖をかざしました。

しばらくするとその兵士は、上体をむくりと起こしました。

その様子はまるで死せるミイラが突然よみがえったかに見えました。


「お、おれ、どうしたんだ?」


兵士は包帯からわずかに見える口を動かしました。


「どうだ、体に痛みはあるか?」


「はい? あ、ハサイメさまですか?」


「おお、そうだ、ハサイメだ。で、どうだ、体に痛みはあるのか?」


「ない、ありません。ありません、ありません!」


ミイラのような兵士は、グルグル巻きにされた自分の手や腕を見ながら何度も痛みがないと口にしています。

その様子を見ていたオリワラは、このいたいけな少女は本当に聖女だと確信しました。

それからハンナは、その部屋にいる負傷者全員の回復に努めました。

その日から砦の雰囲気は一変しました。

ハサイメ第一軍団が到着する前までは、いつものごとく魔女の軍に押される自軍に現実に砦内には重くるしい空気が流れていましたが、聖女の力を目の当たりにした負傷兵が、砦の兵士たちに自分の回復した姿を見せることで、我々にはとてつもない味方がいるとわかり、それが砦中(とりでじゅう)に伝播し、活気がよみがえったのでした。


「ハサイメさま、聖女ハンナがわが軍に来てくれたことは、これはもしかして、もしかするかもしれませんぞ」


オリワラが目を輝かせハサイメに言いました。


「もしかしてもしかするというのは、この戦い、わが軍が勝つという事だな?」


「左様でございます。どうでしょう、ハサイメさま。いつもならわがオリワラ第二軍団はブンディングに帰還しますが、このまま砦に居残り、ハサイメさまの第一軍団とともに魔女討伐にあたるというのは?」


「わたしもそれを考えていた。しかし、第二軍団の兵たちにこのまま砦に駐屯していいか聞かねばなるまい」


「そうでございますな。では、さっそく兵たちの気持ちを聞いてくるとしましょう」


そういうとオリワラは、軍団長室を出て兵たちの意向を聞きにいきました。

第二軍団の兵たちは、オリワラが提案した、砦の駐屯続行を全員一致で快く承諾しました。

シナック砦の兵たちはここにきて、過去最高に一致団結しつつありました。

ハサイメはここしか好機はないと、近いうちに全軍を上げて魔女軍に対し総攻撃をかけようと胸に秘めました。


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