第三章 レッドデビル、チャンピオンを倒す
私のプロレスはうっぷん晴らしで、プロレスで成功する気がないため、他のレスラーに挑戦はしない。ただ、挑戦されると受ける程度でした。
レッドデビルになってから得意のケンカで連戦連勝の私に先輩レスラーが、以前からチャンピオンのマリに挑戦するように促していた。
あまりにもしつこく説得されたので、マリに挑戦する事にしてマリの事を色々と調べた。
百キロ近い体重を武器に、相手レスラーを押し倒して脳震とうになったところへ、ポールの最上段から相手レスラーに飛び降りていた。
明日は、そのマリとの試合だ。初めてレッドデビルがマットに沈むか、チャンピオンを倒して新チャンピオン誕生になるか、まったく予想がつかない。
不安の中、トレーニングに励んでいると、やがて試合当日がきた。
覆面内部に気付かれない程度のクッションをいれて、脳震とうになりにくいように対策して試合に臨んだ。
試合が開始され互角の勝負だった。
さすが世界チャンピオン、私の反則技が通用しないわ。と焦っていた。
先にミスしたほうが負けだ。お互いに相手をけん制している状態でした。
試合中盤、マリが仕掛けてきた。
私は倒れた時に頭をかばい、更にマスク内に入れたクッションで脳震とうにならなかった。
チャンスだと判断して、私は脳震とうの芝居をした。
私が脳震とうになったと判断したマリは、ポールの最上段から飛び降りた。
その瞬間、私は足をあげて、つま先を立てた。
マリがやられた!と思った瞬間、私のつま先がマリの腹部に突き刺さった。
マリの体重と飛び降りた時の衝撃と私の細く固いつま先で、マリに強いダメージを与えた。
私はすかさずフォールを取りにいった。
マリは弾き飛ばそうとしたが、腹部に激痛が走りできなかった。
チャンピオンのマリを破った。新チャンピオンの誕生だ。
マリは苦しそうにしていたが、その直後、リング上で大量吐血して救急搬送された。
その様子を目の当たりにして吐き気がした。
レッドデビルのイメージが崩れないように、目を逸らして平気な振りをした。
マスコミが大量吐血したマリに気を取られている間に、私は晴美たちと雑談せずにセーラー服を着て控室を出だ。
マスコミはレッドデビルを捜していた。
私たちをただの女子高生グループだと判断してレッドデビルに気付かなかった。
私はそのまま晴美たちと帰った。
翌日マスコミは私の所属するジムに取材にきた。
スポーツ新聞に、レッドデビルに病院送りにされた元チャンピオンと大見出しで、マリが大量吐血している写真とともに掲載された。
記事によると、マリは胃が裂けていて緊急手術で一命は取り留めたが、出血多量で意識不明の重体らしい。
どうやら、私の一撃で胃に穴があき、私がフォールした時に弾き飛ばそうとして、胃が引っ張られて胃の穴が大きく裂けたようでした。
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その後、高校の体育教師がジムを訪ねてきた。
マリとの試合後、晴美と雑談できなかったのでチャンピオンを破った試合の事を、スポーツ新聞を見ながら雑談していた私は慌てて隠れた。
私の様子をみて知り合いだと感じた先輩レスラーから事情を聞かれて大笑いされた。その時に、女子高生だと先輩レスラーにばれた。
先輩レスラーが適当に相手した。
その後、体育教師が晴美に気付いて、私の使った技について聞いた。
「石川さん、君は杉山さんと仲が良かったですね。杉山さんが使った技について何か知らないか?レスラーにも聞いたが知らないようだった。レッドデビルがよく使う反則技に似ているらしいがまさかね。」と私の使った技について知りたそうでした。
「ええ、知っているわよ。あれは反則技だと詩穂が言っていたわ。だから他のレスラーは知らなかったのよ。その反則技の対策を立てて、反則の得意なレッドデビルに挑戦するの?確かに詩穂の使った反則技は、レッドデビルがよく使う技よ。元チャンピオンのマリのように病院送りにされないようにね。」と笑った。
「私はそんな無謀な事はしない・・・」と反論していた。
隠れていた私はレッドデビルの姿で、「私に挑戦するつもりか?」とリング上に体育教師を引きずりだした。
「そんなことはしない。おい、石川さん、何とか言ってくれ!」と慌てた。
「先日、先生が私に挑戦してきたのでしょう?レッドデビルがよく使う反則技を研究して、再度挑戦するの?いつでも挑戦を受けるわよ。」と覆面を脱いでレッドデビルの正体を明かした。
体育教師はレッドデビルの正体に驚いて、「えっ!?杉山さん、君がレッドデビルだったのか。きょ、今日のところは帰る。」と慌てて帰った。
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次の体育の授業では、専門家のレスラーから話を聞いた体育教師が得意そうに講義している様子を見て、晴美と顔を見合わせて笑っていた。
晴美が、「先生、話ばかりではなく実際に見本を見せてよ。今日は詩穂に挑戦しないの?詩穂が相手役になると言っているわよ。」と体育教師をからかった。
「ちょっと晴美、そんな事言ってないわよ。」と慌てた。
体育教師は、「いや、実際に試してみないと、見ているだけでは身につかない。前回と同様に二人でペアを組んで、襲われる側と襲う側に分かれて練習してください。」と慌てて逃げた。
晴美は、「先生、今日は一人休んでいます。生徒の数は奇数です。一人余ります。先生が詩穂とペアを組めば解決です。」と体育教師の反応をみた。
体育教師は、「それだと指導ができない。先日の様子から、杉山さんはレスリングの経験があるようなので、杉山さんが全員の指導をしてください。」とレッドデビル相手だと恥をかくだけなので逃げた。
その後、体育授業を何とか進めた。
体育教師は、レスリングの授業が無事終わりホッとした様子でした。
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ある日、どこかのレスラーらしき女性が高校に乗り込んできて晴美を捜していた。
生徒数名が職員室に知らせに行った。
「先生、変な女が教室に押しかけてきて晴美を捜しているわ。晴美に何かしようとしているのかしら。もし、刃物などの武器を持っていたら怖いので、すぐ来て!」と助けを求めた。
生徒から知らせを聞いた担任の井坂先生は、同僚教師らにも声を掛けて、知らせに来た生徒たちと教室に向かった。
教室に到着した先生は生徒から、「あの女よ。なんとかして!」と頼まれた。
細身で長身の派手な服装の女性だった。どちらかといえば美人だ。
井坂先生がその女性に声をかけた。
「お前は誰だ!彼女に何の用だ?」と乗り込んできた理由を確認した。
「私は伊吹千代子よ。あいつがレッドデビルのファンクラブのメンバーだと聞いた。レッドデビルの正体を聞き出して、病院送りにされた親友レスラーの仇をとる!親友は死にかけたんだぞ!石川晴美を出せ!」と担任の井坂先生に迫った。
どうやら、レッドデビルのファンクラブが発表しているメンバーの中に、晴美の氏名があったので捜しにきたようだ。
「レッドデビルの正体を聞き出して闇討ちでもする気か?試合を申し込み、正々堂々とリング上で決着つければいいじゃないか!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!立ち去れ!さもないと不審者が侵入したと警察に通報するぞ!」と高校から追い出そうとした。
「何が正々堂々だ!レッドデビルは反則ばかりする悪役レスラーじゃないか!覚えていろよ。」と警察を呼ばれると困るので高校から立ち去った。
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担任の先生は、レスラーが立ち去った事を確認すると、「杉山さん、しばらく石川さんの護衛を頼む。」と晴美の事を心配していた。
私は引き受けて晴美に声を掛けた。
「晴美、私の近くにいて。どこかの業者や父母に成りすまして高校に侵入してくる可能性は否定できないわ。トイレも私がついていきます。今日から当分の間、いっしょに帰ろう。送るわ。」と晴美を守ろうとしていた。
「私が詩穂の近くにいけば、お淑やかなイメージが崩れると以前いってなかったか?詩穂の近くにいってもいいのか?」と迷惑をかけたくない様子でした。
「いまは緊急事態よ。私のイメージより晴美のほうが大事よ。」と晴美を守ろうとしていた。
数日後、晴美が、「詩穂の近くはお淑やかな女性ばかりで調子狂うわ。」と不満そうにしていた。
「それじゃ晴美も、お淑やかになればいいじゃないの。」と言いながらも、晴美の性格では無理かな?私のようにうるさい親がいなくていいなと感じていた。
数か月間、特に問題がなかったので晴美は、「詩穂、もう大丈夫だと思うから、今日は一人で帰るわ。」と一人で帰った。
心配でしたので、私は晴美に気付かれないように尾行した。
その後も特に問題なかったので、護衛はやめる事を弘子達に伝えて、何かあれば私に知らせるように伝えた。
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その数日後京子が、「詩穂さん、昨日晴美と下校途中、ストーカーされている気配がしました。襲われないかしら。」と心配してレッドデビルに助けを求めた。
ストーカーされた場所を聞くと、私の友達で、お淑やかな女性、城田真由美の自宅近くだったので、私がそこでストーカーと争うと、私の正体が真由美にばれる可能性があった。
その日、私は授業終了後、速攻で帰宅してレッドデビルの姿になり真由美の自宅近くまで行った。
しばらく待っていると晴美たちが来た。近くに真由美もいた。その背後に、先日高校に乗り込んできて、晴美を捜していた伊吹千代子を確認した。
時間をかけて晴美を特定したようだ。
人通りがなくなると、千代子は晴美に声を掛けた。
「先日、私が高校に乗り込んだ時は、なぜ名乗り出なかった。隠れやがって!レッドデビルは誰でどこにいる!」と晴美から私の正体を聞き出そうとした。
私はレッドデビルの姿になり、「私ならここにいるわよ。こそこそせずに私に試合を申し込んだらどうなの?試合で相手を倒しても罪にならないが、闇討ちすれば犯罪者になるわよ。その娘に手出しすれば私が許さないわよ。」と晴美たちを私の後ろに避難させた。
千代子は、「じゃかましい!」と私を襲った。
プロレス技で投げて、「元チャンピオンの親友にしては弱いわね。だから敵わないと判断して私に試合を申し込まなかったのか?」と笑った。
晴美は、「病院送りにされたくなかったら立ち去れ!」と襲われて怒っている様子でした。
千代子は、「覚えていろよ!」とレッドデビルには敵わないと判断して捨て台詞を残して逃げた。
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晴美は、「詩穂、ありがとう。助かったわ。」とホッとした様子でした。
「いえ、井坂先生から晴美の護衛を頼まれたのでね。それに京子が昨日晴美といっしょに下校途中、このあたりでストーカーされたと私に伝えたのでね。晴美、ストーカーされた事に気付かなかったの?相変わらず鈍感ね。しかし意外にしつこいわね。警察に通報する事を勧めるわ。」と晴美を助けた理由を説明した。
晴美は、「詩穂、先ほど意外に弱いと言ってなかったか?私たちでも対処できそうだわ。」と晴美は京子たちに理由を説明して、自分たちでなんとかしようとしていた。
大丈夫かな?と思いつつも晴美たちに任せる事にした。
数日後、京子から着信があった。
「詩穂、助けて!伊吹千代子も仲間を連れてきて・・・」と途中で電話は切れた。
目的は晴美から私の事を聞き出す事だから、晴美をどこかに連れて行くのだろうと考えて、晴美の携帯のGPSから居場所を特定してレッドデビルの姿でそこに向かった。
こっそりと内部の様子を確認すると、確かに晴美を拉致した仲間の人数が多かったので、一人では無理だと判断して警察に通報した。
警察が到着するのを待って、「あら、先日の刑事さん。晴美が拉致されて人数が多いので私一人で乗り込むのは無謀だと判断して警察に通報しました。晴美たちを助けて。」と晴美たちを助けようとした。
警察と協力して晴美たちを救出した。
千代子とその仲間も全員逮捕された。
警察の捜査で、元チャンピオンとはまったく関係がなく知り合いでもなく、ただのファンでした。仇を取ろうとして、ファンクラブのメンバーを恐喝しようとしたが、まさかレッドデビルが出てくるとは思わなかった。と反省している様子でした。
その話を退院したマリが聞いて、私が根性を叩き直してやると身元引受人になって、千代子たちは釈放された。
次回投稿予定日は、5月23日を予定しています。