第十四章 弘子、会社で注目される
西垣課長は、「ところで、いま陽子さんとプールに一緒に行ったと言っていたわよね。まさか、いっしょに女子更衣室で着替えてないわよね。」と確認した。
「ええ、いっしょに着替えましたが、それがなにか?そういえば、昔、陽子さんが女子大時代に、他の女性が陽子さんと女子更衣室に入る事を嫌がっていたと聞いた事がありますが、何かあるのですか?陽子さんをプールに誘えばうれしそうでしたよ。」とここでもその話がでたので何かあるのかと感じた。
西垣課長は、「嬉しそうにするのは当たり前じゃないの。プライバシーの関係上、私の口からは言えないわ。詳しくは身内同然の第四秘書の泉さんに聞いて下さい。それと、一緒に女子更衣室で着替えた事は、泉さんには内緒にしたほうが無難よ。嬉しそうにしていた事もね。」と説明が厄介なので答えなかった。
その後、帰宅途中に陽子さんの事をいろいろと考えていた。
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帰宅後、陽子さんと女子更衣室の話がまたでたので気になり、みんなに相談しようと考えてラインで呼びかけた。
お互いにスケジュール調整して、数日後みんなと会った。
晴美が、「どうしたの?詩穂。ラインでは、何か相談があるようでしたが珍しいわね。詩穂が私たちに相談するなんて。」と何かあったのかと心配していた。
先日西垣課長から聞いた話を説明した。
「いま説明したように、陽子さんには何かありそうだわ。どうする?第四秘書に聞いてみる?」と晴美たちに相談した。
真由美が、「総理大臣のお嬢様には人に言えないような秘密があるのかもしれないわね。この件にかかわると、変な事件に巻き込まれるかもしれないわよ。口封じで命を狙われたらどうするのよ。だから、詩穂の上司も教えてくれなかったのでしょう?」と乗り気ではなかった。
晴美が、「ドラマじゃあるまいし、まさかとは思うけれども確かにその可能性は否定できないわね。でも、せっかく総理大臣のお嬢様や総理大臣直属の秘書と知り合いになれたので、今後、この件には触れずに陽子さんと女子更衣室に入らないように今後とも付き合っていこうよ。」と提案した。
この事を確認してはいけないような気がしたようで、全員賛成して、今後、更衣が必要な事には陽子を誘わず、ツーリングやハイキングなどで陽子と付き合っていく事にして今日のところは別れた。
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ある日、西垣課長が、「そういえば詩穂さんは、どことなく陽子さんに似ている気がするわ。」と呟いた。
それを聞いた私は、「陽子さんと私のどこが似ているのですか?」と外見も違うし、課長の真意が理解できなかった。
「陽子さんも入社してからしばらくブリッコしていて、触ったら壊れそうなガラスのイメージだったわ。その後、格闘技の達人だと気付いて驚いたわ。そんなところが詩穂さんとそっくりよ。」とその理由を説明した。
昔からいる社員、大川麻里が、「課長が不良に絡まれて、課長を助けようとした陽子さんにブリッコは引っ込んでいろと焦った瞬間、陽子さんが、その不良を全員倒したのもそっくりね。それで、格闘技の達人だと気付いたのよね。」と昔の事を思い出していた。
「課長は、よく不良に絡まれるのね。」と全員大笑いした。
都合が悪くなった課長は、「以前、会社に刃物男が侵入したときも男子社員が取り押さえようとして刺されて血が噴き出して動脈を切断したらしく、天井にまで届いて他の社員はビビっていました。そんな状況で陽子さんがホウキでその刃物男を撃退したのよ。」と当時撮影した動画がまだあったので話題を変えて見せた。
吐き気がした事に課長が気付いた。
「レッドデビルが元女子プロレス世界チャンピオンを破った時は、相手レスラーが大量吐血していても平気だったのにどうしたの?」と不思議そうでした。
「平気じゃなかったわよ。あの時も吐き気がしたわ。だから見ないように無視していただけよ。」と平気だった理由を説明した。
「レッドデビルも女性なんだ。」と納得した様子でした。
「私の知り合いに血を見ても平気な女性がいるわよ。」と外科医を目指している真由美の事を考えていた。
「えっ?例えばジャガー姉妹などですか?」とプロレスラーだと決め込んでいた。
「プロレスラーではないわ。機会があれば紹介するわね。」と雑談していた。
「しかし、噴き出した血が天井に届いたにしては、天井は汚れていないわね。」と不思議そうでした。
課長が、「当たり前じゃないの。ここにはお客様も来ることがあるのよ。天井は貼り替えたわよ。天井には電気配線などもあり、それらも総入れ替えして大変だったのよ。」と説明した。
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ある日、みんなでツーリングしていると、途中で入った喫茶店に大日本製造に就職した弘子の上司がたまたま入ってきた。
弘子が、「あっ、下山部長。」と挨拶した。
下山部長は、「吉川君、友達とバイクでツーリングか?」とだけ声をかけて、いっしょにいた男性と別の席に座った。
下山部長と一緒の男性が、私たちの事を気にしていた。何かあるのだろうか。と考えながら喫茶店をでた。
翌日弘子が出社すると下山部長が、「吉川君、昨日いっしょにいた女性たちは知り合いかね?」と確認された。
弘子は、「ええ、いつもいっしょに、バイクでツーリングしているツーリング仲間よ。」と下山部長は何を知りたいのだろうと考えながら返答した。
下山部長は、「実は、昨日私といっしょにいた人は、わが社の大事なお客様だ。そのお客様が、君のツーリング仲間を総理官邸で見かけたらしい。その様子から、総理官邸で働いているようだといっていた。総理官邸の情報入手できないだろうか?君の右横に座っていた女性だ。」と依頼された。
「ああ、陽子さんね。陽子さんは総理大臣のお嬢様で、総理大臣直属の秘書を務めているわ。いったい、何が知りたいのですか?製造業の私たちに総理官邸の情報が必要なのですか?陽子さんは、夕食や朝食は総理大臣や家族と一緒に、雑談しながら食べています。変な事を聞けば、その雑談で総理大臣に筒抜けになるわよ。」と確認した。
「えっ?吉川君、君は、総理大臣のお嬢様と知り合いなのかね?」と驚いて少し声が大きくなった。
大きな声に同僚たちが気付いて、「嘘!弘子、総理大臣のお嬢様と知り合いなの?紹介してよ。」と弘子に迫った。
「私にも紹介してよ。」と同僚たちに囲まれた。
弘子は同僚たちに囲まれたので、弘子の上司は弘子と話ができなくなった。
弘子の上司は明日から出張で、その準備のため本日は退社して、結局何を知りたいのか聞けなかった。
弘子の上司は、お客様が情報入手したいだけで、自分たちの仕事には特に必要ないので無理に弘子に確認しなかったようでした。
弘子の上司は出張先からお客様に連絡して、総理大臣のお嬢様に変な事を聞けば総理大臣に筒抜けになると伝えて、やんわりと断った。
お客様も、相手は総理大臣のお嬢様なので、変な事は聞けないと判断して、総理官邸の情報を入手することはあきらめる事にした。
上司が出張から戻ると、出張前の事が気になった。
弘子は上司に確認した。
「いや、もうその件は解決したのでいいんだ。変な事を聞いて申し訳なかった。」と謝った。
それ以降上司は、弘子が総理大臣のお嬢様と知り合いだと知り、悪口など告げ口されないかと心配して弘子に一目置いた。
その後、弘子の同僚の前島澄子が、「弘子、総理大臣のお嬢様の特集が週刊誌に掲載されていたけれども、その友達として弘子も週刊誌に掲載されているじゃないの。ただの友達ではなく親友らしいじゃないの。」と他の社員に聞こえるように大きな声で確認した。
「ちょっと、澄子、恥ずかしいから黙っていたのにばらさないでよ。」と恥ずかしそうにしていた。
澄子は、「何も隠さなくてもいいじゃないの。記事によると、その親友の中に覆面女子プロレスラーのレッドデビルもいるそうじゃないの。」と記事の内容を説明した。
弘子は、「ええ、高校と大学の同級生で、不良に絡まれたときなどレッドデビルに助けてもらったわ。無茶苦茶強いのよ。不良男子生徒数人に囲まれて焦っていると、レッドデビルが全員簡単に倒したのよ。何でも子供の頃はケンカの天才と呼ばれていて、上級生の不良たちからも怖がられていたそうよ。」と学生時代の事を思い出していた。
会社の同僚が、「そんなすごいレスラーと総理大臣のお嬢様とが親友だなんで不思議ね。総理大臣のお嬢様と言えば、歴代の総理大臣のお嬢様が週刊誌などマスコミに取り上げられる事はなかったと思うけれども、なぜ、秋山総理大臣のお嬢様だけ取り上げられるのかしら?」と不思議そうでした。
弘子は、「陽子さんは美人の上、詐欺事件や人身売買事件など解決していて、テロなどの凶悪事件にも対応しているわ。いろいろと事件を解決できたのは、各種情報を入手できた事もその要因の一つらしいわよ。情報は主に陽子さんの知り合いから入手したそうよ。その為にいろんな業種の知り合いがいて、レッドデビルもその一人よ。それらの実績から、けん銃携帯も許可されて、いつも携帯しているわよ。早い話が美人で優秀なお嬢様なので注目されているのよ。その人気から売れると判断した芸能界から女優としてスカウトされたそうですが断ったそうよ。」と説明した。
「なぜ断ったの?人気もでそうなのに。」と不思議そうでした。
「陽子さんは総理大臣直属の秘書で、主な仕事は総理大臣の護衛よ。それも二十四時間体制よ。だから休みの日に私たちとバイクでツーリング中に緊急呼び出しがあれば、すぐに対応可能なように、けん銃は休日でも携帯しているわ。ですから、ロケやスタジオでの収録なども途中で急に抜けられないので無理で女優は断ったのではないかしら。だって、ドラマの途中で主役が交代するなんてありえないでしょう?」と補足説明した。
このように、弘子は職場で人気者になった。
次回投稿予定日は、8月4日を予定しています。