第十二章 詩穂、同好会から勧誘される
翌日、良子たちとレッドデビルの試合を観戦した。
観戦後、良子は、「試合も終わったので、約束通り詩穂さんが私たちの同好会に入るのがおかしい理由を教えて。」と今回の試合観戦の目的を達しようとした。
晴美は、「わかったわ。百聞は一見にしかず。こっちに来て。詩穂が待っているわ。」とレッドデビルの控室に良子たちを連れて行った。
良子は、「肝心の詩穂がいないじゃないか!どこで待っているのよ。」と晴美の考えている事が理解できない様子でした。
晴美は、「詩穂ならそこにいるわよ。」と私を見た。
私は覆面を脱いだ。
レッドデビルの正体に良子たちは驚いていた。
良子は、「詩穂さん、あなたがレッドデビルだったのね。だから、自分を応援する会に入会するのはおかしいのね。納得したわ。私は数年前、あなたに会っていますが覚えていますか?」と初対面ではないと告げた。
やはり、どこかで会った事があるようだが思い出さない。
「良子さんの顔と声に覚えがありますが、思い出さないわ。」と考えていた。
良子は、「私の体系が変わったので無理ないわね。私は以前、女子プロレスラーとしてレッドデビルと戦った事があります。リングネームはマリです。」と上着をめくって、腹部の手術痕を見せた。
晴美が、「えっ!?詩穂に病院送りにされたチャンピオン?」と信じられなくて確認した。
良子は、「ええ、そうよ。最初は気付かなかったけれども、晴美さん、あなた、あの時リングサイドにいた人よね。胃が裂けたために、しばらく食事ができずに、栄養は点滴で補っていました。その時に痩せたのよ。スマートになってもてるようになったわ。」とどこで会ったのか教えた。
晴美は、「本当に、あの時のチャンピオンなの?」と信じられない様子でした。
良子は、「だから、そうだと先ほどから言っているじゃないの。食事は最初、ペースト食から初めて、おかゆになり軟飯になり普通食にと順を追って慣らしていきました。その時に食事の指導もされて間食はしなくなりました。私が太っていたのはお菓子の食べ過ぎが原因だったようで、退院してからも間食せずに正しい食事と適度な運動をすると太らなかったわ。体質にもよりますが、寝る前に食べると太るそうよ。おかげで人生変わったわ。今ではレッドデビルに感謝しているわ。」とレッドデビルを応援する会を立ち上げた理由を説明した。
千代子が、「会長の、そんなプライバシーを初めて聞いたわ。帰ったらさっそく当時の事をインターネットで調べるわ。」と良子の事に興味がある様子でした。
弘子が、「千代子さんにも、どこかで会った事があると思っていましたが、思い出したわ。千代子さん、あなた高校に晴美を捜しに来たあの時の女性じゃない?」と確認した。
千代子が、「晴美さんの名前を聞いた時に、私も思い出しましたが言い辛らかったのよ。」と反省している様子でした。
良子が、「その話なら聞いたわ。当時警察から連絡があり、慌てて千代子を迎えに行ったわ。晴美さん、ごめんなさいね。あの後、みっちりと説教しておいたから。詩穂さん、今日は試合で疲れていると思うので、日を改めてゆっくりとお話しがしたいのですが、時間を取って頂けませんか?」と昔の試合の事などゆっくりと話をしたい様子でした。
「考えておくわ。」と前向きの返答をして、今日のところは帰った。
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翌日、会長の良子が元女子プロレス世界チャンピオンだったと千代子が女子大で喋ったために、女子大内部で噂になった。
プロレス研究会とレッドデビルを応援する会とは、その内容から交流があったために、プロレス研究会から会長の良子に試合の申し込みがあった。
良子は体重を武器に戦っていたとはいえ、元女子プロレス世界チャンピオンなので、誰も良子には敵わなかった。
プロレス研究会のメンバーは、良子はまだプロレスラーとして通用するとして復帰を促した。
良子は、「私はレッドデビルに敵わないわ。そのレッドデビルはピンクデビルに敵わないのよ。要するに、上には上があるのよ。この世界はそんなに甘くないわ。私はもう、プロレスラーとして通用しないわ。」と復帰する気がない様子でした。
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数日後、千代子が良子に、「会長、晴美さんたちの勧誘の件ですが、私たちもレッドデビルのファンクラブに入る事を条件に交渉すれば検討するとの返答をいただきました。」と報告した。
数日後、晴美たちが良子を訪ねた。
晴美は、「先日の件、千代子さんの条件で詩穂以外はOKよ。」と交渉成立した。
良子は、「詩穂さんが私たちの会に入らない理由は納得したわ。何もしなくてもいいので、名誉会長として名前を貸して頂けませんか?杉山詩穂としてではなくレッドデビルとして。」と頼んだ。
晴美が、「名前だけ?詩穂を広告塔に使うのか?」とその理由を確認した。
良子が、「そうじゃなく、レッドデビルの情報を流してほしいのよ。本人だから、詩穂さんが一番詳しく正確で早いから。」とその理由を告げた。
京子が、「詩穂、名前だけなら、いいか?」と確認した。
真由美が、「恐らく、それだけでは済まないと思うわよ。プロレス研究会からも名前を貸してと依頼されると思うわよ。」と慎重でした。
良子は、「プロレス研究会のメンバーはレッドデビルの正体を知らないから、詩穂さんに迷惑かからないと思うわよ。」と詩穂に名誉会長になってもらいたくて真由美の心配を否定した。
晴美が、「それもそうね。決めるのは詩穂よ。どうする?」と私を見た。
「わかったわ。情報は晴美を通じて流すわ。試合の予定やジムに顔を出す日時だけでいいですか?」と交渉成立した。
良子が、「そうね。その他、何か変わった事があればお願いするわ。それと、可能であれば私たちの質問に答えて頂ければ助かります。」と真由美さんが余計な事を言うから、一時はどうなる事かと思ったが、なんとかなったわ。今後、レッドデビルの情報が、どこよりも早く入手できると喜んでいた。
レッドデビルの好きな食べ物や趣味などの質問には答えたが、生年月日については、そこから正体がばれる可能性があると真由美に忠告されたので答えなかった。
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数か月後、良子が発表しているレッドデビルの予定表を確認して、プロレス研究会会長の中田妙子がレスリングジムを訪ねた。
「レッドデビルさん、私は大日本女子大の同好会、プロレス研究会会長の中田妙子です。聞いたところによると、同じく同好会のレッドデビルを応援する会の名誉会長らしいですね。私たちにも力を貸していただけませんか?」と依頼された。
「会長の良子さんは、以前プロレスラーでした。私とも戦った事があるので、その縁から引き受けました。あなたの要望に応える義理はないわ。」と何が私に迷惑がかからないのよと不満そうに断った。
その後、私たちは、勉学にツーリングにデートにと充実した学生生活を送っていた。
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ある日、妙子がレッドデビルの力が借りられずにイライラしていた。
「元女子プロレスラーか何か知らないが、なぜ、良子だけに力を貸すのだ。不公平じゃないか。おかげで良子のサークルは人気があり、うちはサッパリじゃないか。」と不満そうに歩いていると、ブリッコ服を着てチャラチャラしている女子大生を見てプッツンした。
女子大校内を歩いていた私に、「ちょっと、あんた、ブリッコしちゃって。私がプロレス研究会でカツをいれてあげるわ。」と私の手を握った。
今日はかわいい服を着ていたので、ブリッコしているように見えたようだ。
一緒にいた晴美が、「恥かくだけだからやめたほうがいいと思うわよ。」と笑っていた。
「そうね。私は母から、負け犬はよく吠えると教わりました。」と私も笑った。
「なんだと!二人とも、もう一度言ってみろ!」と襲ってきたが、簡単に倒した。
「畜生!今は油断しただけだ!もう一度だ!」と再度襲ったが、何度襲っても、結果は同じだった。
晴美が、「妙子さん、息切れしていてもう限界じゃないですか?それに比べて詩穂は全く息切れしていないわよ。恥かくだけだからやめるように忠告したのに人の忠告を聞かないからよ。」と笑っていた。
妙子は、「うるさい!」とやけになり私に体当たりした。
簡単に避けて突き飛ばすと倒れて、起き上がれなかった。
晴美が、「やっぱり負け犬はよく吠えるのね。行きましょう、詩穂。」とその場を去った。
その様子を見ていた周囲の女子大生が、「プロレス研究会って、研究しているだけで、あんなかわいい女性に簡単に倒されるのね。」と笑われて恥ずかしそうにその場を去った。
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妙子は、その様子を見ていて詩穂の強さを知った同好会の会員から詩穂を勧誘するように急かされた。
妙子は、詩穂たち仲良しグループは全員レッドデビルを応援する会のメンバーだと思っていた。
ある日、メンバーを確認すると詩穂だけメンバーでない事を知り、同好会の会員たちから急かされていたのでプロレス研究会に勧誘した。
近くにいた晴美が、「プロレス研究会は詩穂にとって何のメリットもないわ。」と断るように促した。
妙子が、「また、お前か!私は杉山さんと話をしているのよ!余計な口を挟まないで!」と晴美を襲った。
妙子を止めて、「同好会同士合併すればどうなの?そうすれば名誉会長のレッドデビルが時間のとれる時に指導してくれるわよ。」と提案した。
翌日良子が、「合併の件、晴美から聞いたわ。合併すれば時間のとれる時にレッドデビルが指導してくれるそうよ。その気になれば詳細を打ち合わせしましょう。」と妙子を説得した。
妙子は会員と相談して、レッドデビルの指導は魅力的で、会長の良子さんは元女子プロレス世界チャンピオンだったので、争っても勝ち目はないと判断して合併する旨を良子に伝えた。
合併時の打ち合わせで良子は、「レッドデビルの指導は毎月一回で、レッドデビルが時間のとれない時はピンクデビルに指導して頂けます。ジャガー姉妹も指導して頂けないか現在交渉中で、まだ決まっていません。」と説明した。
妙子は、「ピンクデビルやジャガー姉妹と交渉したの?さすが元世界チャンピオンね。」と感心していた。
良子は、「いいえ、私は交渉していません。ピンクデビルとの交渉はレッドデビルがしています。母親ですから。ジャガー姉妹との交渉はピンクデビルがしています。兄弟弟子ですから。」と説明した。
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ジャガー姉妹の指導をしている母の父は、孫に会いたくて指導を引き受けた。月一回といわず、数回女子大に来ていた。
真由美が、「元世界チャンピオンも、孫の前ではふぬけになってしまうのね。」と笑っていた。
その後、ピンクデビルがきた。
「あれっ、お父さんは?」と捜していた。
晴美が、「ジャガー姉妹に指導を任せて、嬉しそうに詩穂と出かけたわよ。もう、そろそろ帰ってくると思いますよ。」と教えた。
母は帰ってきた私を見て、「ちょっと詩穂、何?そのうさぎの耳みたいなのは。」と意外な姿に驚いた。
「お爺ちゃんが、これ、可愛くて私に似合うからと買ってくれたのよ。」と嬉しそうにしていた。
晴美が、「小母さんが詩穂をお淑やかに育てようとしても無理だったようですが、小父さんとだったら・・・」と現状説明していると真由美が止めた。
「ちょっと晴美、余計な事を言わないで。」と焦った。
母は気を悪くして、「あっそう、二人は仲がいいのね。」と帰った。
しかし、母の父は孫に会いたいだけではなく、別の目的があったようでした。
「良子さん、以前、体重を武器に戦っていたそうですね。それで、プロレス修行に手を抜いていたのではないですか?それで世界チャンピオンになれるのは、それなりの才能があったのではないですか?しかるべきコーチに指導して頂ければ、再度女子プロレスラーとして復帰できますよ。私たちと一緒に来ませんか?私があなたを必ず復帰させて、レッドデビルを倒すレスラーに私が育てます。」とスカウトしていた。
良子は、「少し考えさせてください。」と即答を避けた。
次回投稿予定日は、7月21日を予定しています。