第十章 ピンクデビルの正体
ピンクデビルとの試合以降、レッドデビルも連戦連勝して、みんなも通常の生活に戻っていた。
私は近くにピンクデビルらしき人はいないか捜していた。
そんな中、晴美が下校後遊びにでた。
途中、隣町の不良少年たちに囲まれた。
「先日、お前を助けたのは女子プロレスラーのレッドデビルだと聞いた。レッドデビルを呼び出せ!」とリベンジすべく、仲間を集めて大人数で来ていて木刀を構えて脅した。
その様子を偶然目撃した京子は慌てて私の自宅まで知らせにきた。
京子から事情を聞いていると、晴美から着信があった。
やられているようで、晴美の悲鳴も聞こえた。
「お前、レッドデビルか?この女を助けたかったら、今すぐこい!」と呼び出された。
「母ちゃん、京子から聞いた通りよ、警察に通報して!」と母に通報依頼して慌てて家から飛び出して、電話で聞いた場所に向かった。
晴美がやられている様子だったので、着替えずに私服で向かった。
不良少年たちの人数は多かったが、晴美がやられていたので警察を待たずに飛び出した。
両手両足をつかまれて抵抗できないようにして殴られていた。
「何しているのよ!やめなさいよ!」と不良たちと争った。
「お前レッドデビルか?今日は私服か?先日はよくもやってくれたな。みんな!やっちまえ!」と襲ってきた。
苦戦していると晴美が、「詩穂!危ない、後ろ!」と叫んだ。
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えっ?と慌てて振り向くと、ピンクデビルが、木刀を振り上げた不良少年の腕をつかんでいた。
ピンクデビルはその不良の腕をねじ上げて、「あんたら、女一人に武器も使って何人で襲っているの!一対一で対決もできないのか?それでも男か!」と怒鳴った。
「うるせえ!」とピンクデビルを襲ったが、全員簡単に倒された。
「レッドデビルも情けないわね。これくらいの人数で苦戦するとはね。前に何人、後ろに何人、左右に何人、誰が武器を持っているかなど、全体を把握しないからこんな事になるのよ。」と笑いながら立ち去ろうとした。
「ちょっと待って!なぜ私がレッドデビルだと知っているの?あなた何者なの?」とピンクデビルの正体を知ろうとした。
「一度リングで戦っているから見ればわかるわ。私の正体については、ご想像にお任せするわ。」と警察が到着した事を確認すると、その場を去った。
不良少年たちは全員検挙された。
刑事は晴美の様子を見て救急車を呼んだ。
「しかし、君はよく救急搬送されるな。」と呆れていた。
救急車が到着した。
救急車には私と京子が付き添った。
治療後、病室で私と京子は、「晴美、大丈夫?」と晴美を心配していた。
晴美は、「大丈夫よ。ありがとう詩穂。助かったわ。」と感謝していた。
京子は、「なぜ、ピンクデビルは私たちが襲われていた事を知っていたの?私たちと警察以外には、詩穂の母親しか知らないわ。詩穂の母親がピンクデビルに知らせたとしか考えられないわ。ピンクデビルの正体を知っている可能性が高いわ。詩穂、聞いてみてよ。」とピンクデビルの事を考えていた。
「まさか、格闘技とは縁のない母に限ってそんな事は考えられないわ。」と否定した。
結局その日はピンクデビルの正体はわからずに、私と京子は晴美の病室をでて帰った。
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しばらく平和が続いたある日、退院した晴美が私の家に退院の報告とともに遊びに来た帰り道、やくざに襲われた。
家の二階からその様子が見えたので、「晴美のやつ、やくざにちょっかいださなくてもいいのに。」と慌てて助けに行った。
やくざは詩穂の強さに驚いてけん銃を構えた。
「動くな!撃つぞ。」
初めて見るけん銃に体が固まった。
晴美も、やばい!詩穂が撃たれる!と焦った。
そこへ母が来て、私とやくざとの間に入った。
「この娘を撃つのなら、先に私を撃ってからにして。」とやくざを睨んだ。
脅しのつもりでけん銃を出したやくざは、けん銃を恐れない母に混乱した。
けん銃を持っている手が震えている事に気付いた母は、一瞬のスキにやくざを倒した。
「母ちゃん、すごい。」と母親の別の一面を見た。
「母親は子供の為だったらなんでもできるわよ。」と笑った。
その後、到着した警察に事情を説明した。
警察はけん銃を押収してやくざを連行した。
「晴美、大丈夫?」と心配した。
刑事は、「今回は救急車を呼ばなくてもいいのか?救急搬送しなくても大丈夫か?」と笑った。
「いつも救急搬送されないわよ。今回は大丈夫よ。」と不機嫌そうに安心させて帰った。
私も、母と帰った。
翌日高校で晴美が、「昨晩、色々と考えたわ。詩穂の母親がやくざを倒した時のフォームはとてもきれいで白鳥のようだったわ。あれは、そうとう実戦慣れしているようでした。昨日の事といい、先日の事といい、まさかとは思うけれども、ピンクデビルって詩穂の母親じゃないの?」と分析した。
「まさか。私は子供のころから母ちゃんからお淑やかにしろと口うるさく何度も説教されてきたのよ。」と母親がピンクデビルだとは想像できなかったが、聞き覚えのあるピンクデビルの声が母とそっくりなことに気付いた。
「それにしては、けん銃を持ったやくざ数人を撃退したのは何?」などと話し合っていたが、結局母親とピンクデビルとの関係は不明でした。
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本人に直接確認する事になり、私と晴美の話を聞いていたみんなも気になり、下校時、みんなで私の自宅まできた。
母に確認した。
「やっと気づいたの?詩穂、母親の声がわからないなんて情けないわね。しかし、血は争えないわね。私の父は、有名なプロレスラーで、世界チャンピオンにまで、上り詰めた選手だったわ。その才能は男性の弟ではなく、女性の私に遺伝したのよ。私の才能に気付いた父は、私をマンツーマンで指導して、父と互角に戦えるまでに成長したわ。父は娘に、そんな力があることを世間に知られたくないようで、覆面女子プロレスラーとしてデビューするように指示されたのよ。現役の男性世界チャンピオンと互角に戦える私は、数分で女子世界チャンピオンを倒したわ。その後、数多くの女子プロレスラーが私に挑戦したが、誰も私には敵わず、全員数分で倒したわ。詩穂のプロレスは、私にいわせれば、ただ無茶苦茶に暴れているだけよ。だから、レッドデビルは狂暴だと言われるのよ。しかるべきコーチに指導していただければ、今より、もっと強くなれるわよ。」と説明した。
晴美が、「現在、レッドデビルに敵うプロレスラーはいないわ。しいていえばピンクデビルだけよ。ピンクデビルがレッドデビルの指導をすればどうですか?」と提案した。
「結局、そういう事になるのね。私も父からマンツーマンで指導を受けたから、私が詩穂を指導するわ。」と詩穂をお淑やかに育てる事は諦めた様子でした。
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私がプロレスジムに顔を出す事は少なくなったが、メキメキと力をつけて強くなっていった。
疑問に感じた先輩レスラーから確認された。
「詩穂、最近、練習にあまりこないのに、急に強くなったわね。どこかで特訓しているのか?戦い方も少し変わったが、誰かコーチしてくれているのか?」と何かあると判断して確認した。
「ええ、ピンクデビルに指導してもらっているわよ。うちの庭でね。」とやはりばれたかとあきらめて返答した。
「えっ?ピンクデビルから指導を受けている?正体不明のピンクデビルにどうやってコンタクトをとったのだ?」と不思議そうでした。
「ひょんな事からピンクデビルの正体に気付いて指導を依頼しました。」と正体が判明した理由を説明するのはめんどうなので省略した。
ピンクデビルから指導を受けていると知った先輩レスラーから、伝説のレスラーと呼ばれ最強レスラーのレッドデビルを簡単に倒すピンクデビルに一度みんなの指導をお願いしたい。色々と話もしたいと依頼された。
帰宅後母に相談した。
「やはり、そういう事になるのね。来週の指導はうちの庭ではなくレスリングジムで指導するわ。」と最初から予想していた様子でした。
来週の指導は私が所属するレスリングジムで行う事にした。
レスリングジムに連絡した。
翌週、ピンクデビルに指導願いたいレスラーが集まってきた。
「やはり、こうなるのね。」と諦めた。
誰一人としてピンクデビルには敵わなかった。
「なぜあなたの攻撃が簡単に避けられたかわかる?」
「なぜ、簡単に私に投げられたかわかる?」と全員の指導をした。
数人、まともに歩けなかった。中には救急搬送されたレスラーもいた。
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全員指導したところで先輩レスラーが、「少し休憩しましょうか。」と雑談を始めた。
「伝説のレスラーと呼ばれるだけあってすごいですね。ご結婚はされているのですか?子供はいるのですか?」と家族の事を聞いた。
「ええ、主人も子供をいるわよ。」
他のレスラーが紹介してもらいたくて、「先輩、普通、最初にお互いの紹介をしませんか?」と促した。
「ですから、最初に紹介しようとしたが、みんなが先にプロレスを始めたからできなかったのよ。それでは端から順番に、この娘はレッドデビル。私は一度レッドデビルの母に会った事がありますが弱々しく、あなたとは、正反対で、レッドデビルの母とは思えませんでした。」と私の事を紹介した。
私が噴き出すと先輩レスラーが、「詩穂、私何かおかしい事を言ったか?」と不思議そうにした。
ピンクデビルは、「おかしいわよ。」と覆面を脱いだ。
「みなさん、紹介しなくても先日詩穂の母親として紹介されたのでもういいですね。弱々しい私に数分で負けたあなたはどうなの?」と笑った。
先輩レスラーは、「えっ!?あっ・・・」と信じられなくて開いた口が閉じなかった。
しばらく、唖然としていたが我に戻り、ピンクデビルの事を聞こうと思った。
「なぜ、急に姿を消したのですか?」とその理由を知りたそうでした。
母は私を指さして、「当時付き合っていた主人の子供を妊娠したからよ。主人は有名な財界人で、私とは身分が違うので身を引こうとしたわ。主人の姉が私の妊娠に気付いて、主人の元を去ろうとしていた私を引き止めたわ。姉から聞いた主人から、おなかの子供と君は、僕が一生守るから結婚してほしいとプロポーズされたわ。その後結婚して、やがて詩穂が生まれたわ。主人に迷惑を掛けられないので詩穂をお淑やかに育てようとしましたが、血は争えないわね。でも詩穂のプロレスはあまりにもひどいので、お灸を据えようとして挑戦したのよ。」と説明した。
先輩レスラーは、ピンクデビルが意外に近くにいたので驚いていた様子でした。
休憩後、もう少し指導をした。
休憩後の指導は、覆面をかぶらずに、顔出しで指導した。
やがて今日の指導は終わり、帰る時に先輩レスラーや他のレスラーから、今後も指導の依頼をされて見送られて帰った。
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その後、レッドデビルはメキメキと力をつけて、強豪レスラーから挑戦されても数分で倒すまでに成長した。
マスコミから、「レッドデビルが最近急に強くなってきましたね。フォームもきれいでピンクデビルに似ている気がしますが、気のせいですか?それとも、単なるものまねですか?」とインタビューされた。
「気のせいじゃないですよ。でも、単なるものまねじゃないです。私のコーチはピンクデビルです。」と答えた。
「ピンクデビルは正体不明だと聞きましたが、連絡先をご存じですか?急に姿を消した理由はご存じですか?」といままで謎だった事を知っている可能性があると期待して確認した。
「ええ、知っているわよ。おなかに私ができたからよ。」
「えっ!?本当ですか?それは妊娠したと理解してもよろしいですか?ピンクデビルはレッドデビルの母ですか?」と目を丸くして身を乗り出して驚いていた。
「ええ、そうです。私も最近になってその事に気付いて驚いています。リングの上で戦ったのが母だと気付かないとは情けない娘ね。と怒られたわ。」と苦笑いした。
記者会見も終わり、控室に戻ると晴美たちが来て、いろいろと雑談して帰った。
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しばらくするとマスコミが、姉妹で活動している最強レスラー、ジャガー姉妹とデビル親子との対決を企画した。
ジャガー姉妹もレッドデビルも挑戦を受けるだけで、他のレスラーに挑戦しないので、いままで対戦はしていなかった。それに気付いたマスコミが対決を企画したのでした。
「母ちゃん、ジャガー姉妹って、どんなレスラーなの?」と母が何か知っているか確認した。
「チョットやばいレスラーよ。私と詩穂が組んでも勝てるかどうかわからないわ。ルールとか無視して反則ばかりするレスラーよ。それは、私たちも同じか。で、どうする?挑戦を受ける?詩穂が受けるのだったら、私も詩穂と戦うわ。」と油断できない相手だと詩穂に伝えた。
「ジャガー姉妹の事を調べたうえで決定するわ。」と慎重に考えていた。
母とも相談して、挑戦を受ける事にした。
マスコミは、「最強レスラー、ジャガー姉妹とデビル親子との対決が決定しました。」と連日報道していた。
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そんな中、私の父から、「二人とも私には隠しているようだが、今話題のレッドデビルとピンクデビルだという事は知っている。今回の試合は私も応援している。二人とも、ジャガー姉妹の情報があまりなく困っているようだな。私から一言。ジャガー姉妹は母さんの父の愛弟子だ。つまり、ピンクデビルとは兄弟弟子になる。おそらく戦い方も、ピンクデビルに似ていると思う。私の情報は役に立ったか?」と意外な事を聞いた。
「父ちゃん、なぜそんな事を知っているの?」と疑問に感じた。
「私が母さんと結婚するときに、母さんの父親からすべてを聞いて、お前たちの事を頼むと私に頭を下げた。だから、母さんがピンクデビルだと知っていた。というか母さんと付き合っていたころから知っていた。私はピンクデビルの大ファンだったから。その時に、まだ子供だったジャガー姉妹を連れてきていて紹介されました。なんでも、すごい才能があるらしく、今から育てると、将来天下無敵のレスラーに成長すると言っていたよ。今回、二人と対決する事になりました。お手柔らかにお願いします。と手紙をいただいた。」とその理由を説明して、手紙と、当時自宅の庭先で撮影した、ジャガー姉妹が子供だった頃の写真と現在の写真をみせた。
母は、私と母の写真を同封して、手紙の返信を出した。
手紙の返信を出した事をあとで知った主人は、「あの手紙は俺に来た手紙だぞ。俺の写真は?」とふくれた。
プロレスの事しか頭になかったので主人の事は忘れていた。今更どうにもならないので、ジャガー姉妹の写真しかなかったから、レッドデビルとピンクデビルの写真を同封しただけよと笑ってごまかした。
その後、私と母はジャガー姉妹対策の練習をした。
やがて、試合当日がきた。
予想通り、互角の勝負だった。
引き分けで試合終了した。
試合終了後、リンク上で、親しそうに会話している様子をマスコミは見逃さなかった。
マスコミから、その事について確認された。
「私の母とデビル姉妹は、同じ人物から指導を受けた兄弟弟子で、先日手紙も頂きました。」とマスコミに答えた。
着替えてから帰る前に母が、「ジャガー姉妹の控室に挨拶にいくわよ。」と控室を訪ねた。
初老の老人がいた。
母が、初老の老人に、「お父さん、あなたの孫よ。」と私を初老の老人の前に行かせた。
私は、「お爺ちゃんなの?」と初めて会う母の父に戸惑っていた。
「ああ、そうだ。お前に娘がいるとは聞いていたが、会うのは初めてだな。会えて嬉しいよ。」と喜んでいた。
その後しばらく雑談した。
母が、「あまり遅くまでここにいると迷惑だから、場所を変えませんか?」と提案して、全員で喫茶店にいく事になり、そこで、つのる話をして別れた。
プロレスの試合で母と組んで戦った事や、お爺ちゃんに初めて会った事は、高校生最後の思い出になった。
次回投稿予定日は、7月7日を予定しています。