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第9話 事件の真相

 徳島県警阿北(あほく)警察署。シェイは頭痛に悩まされながら、起床した。シェイが起きたことに気付いた星空(ほしぞら) (けい)は、

「おはよう」

 と軽く挨拶した。部屋は暗く、周囲を見渡したけれど、時計が見当たらない。シェイは目を擦って、

「おはようって、今何時?」

「夜中の2時」

「日付が変わってるのか……」

「シェイ。昨日はありがとう。というより、まずは謝らないと……。ごめん」

 と言い、螢は頭を下げた。シェイが声をかけるまで、そのままだった。

「いや、俺が火種になるようなものを持っていたのが原因だ。あの船の目的も、魔法の種だった。螢が連れ去られてたのも、俺の所為(せい)だ」

「なんで、シェイが全部(かば)うんだよ」

 螢に言われてシェイは「お互い様ってことでいいか?」と聞くと、螢はすぐには返事しなかったが、ゆっくりと頷いた。

「魔法の種を持たなければ、脅威はないだろうし、螢はこれからどうするんだ?」

「……母親のことについて、けりを付けてから……かな」

「……そうか」

 シェイは、螢の母親に関して榊原警部から聞いているが、言わない約束だ。螢の口から説明されるまで、シェイは聞かないし言わない。

「母親を殺したのはやっぱり……」

 そう呟いて、螢は自分の手を見る。自分の手は汚れているのだろうか。シェイは言葉を探しながら、どう回答すべきだろうか。ハッキリと言えない。微妙な空気が漂う中、扉がコンコンとノックされ

「声がしましたが、もしかして起きてますか?」

 鐃警(どらけい)が扉をゆっくりと開ける。廊下の明かりが、部屋に差し込む。

「よい子は寝る時間ですよ。と言っても、今まで寝ていたのだから、お目々パッチリかもしれませんが」

「おかげさまで」

 シェイはあの後について鐃警に聞くと

「僕は見ていないので、他の警察官に聞いてください。自分が起きたときには、ここに到着していたので。気になるなら、みんな起きているので、聞けますよ。寝られないのなら」

 シェイたちは未成年のため、鐃警は何度も念押しして、それでも聞きたいのであればと、2人を会議室へ案内した。

 会議室には、何人も警察官がおり、机には西阿波市の地図があった。

「こんばんは」

 シェイと螢が挨拶して、佐倉(さくら) 悠夏(ゆうか)と榊原警部が2人に気付いた。榊原警部は鯖瀬(さばせ)巡査に手元の資料を全て渡し、鯖瀬巡査が場を離れる。

「寝なくて大丈夫なのか?」

 榊原警部は特に一睡もしていないと思われる螢のことを心配して言ったが、2人とも「大丈夫」と答えた。

 榊原警部と悠夏から話すことは無く、シェイから第十堰での戦闘後について聞いた。覚えているのは、船を押し返したあたりまで。魔法の種の魔力を一気に吐き出し、想定よりも早く気を失った。榊原警部は当時の状況について、

「船からの妨害が弱くなり、すぐに堤防の上へ車を走らせた。シェイ君のおかげだ。もう少し遅ければ、濁流に呑み込まれて、どうなっていたか……。それと、車に戻ろうとしていたシェイ君が気を失ったときに、佐倉巡査が助けに入った」

「まだ浅いところだったから、なんとか」

 と、悠夏は少し苦笑いしながら頬を掻く。榊原警部は悠夏の方を見て

「浅いとは言え、川の流れは速い。下手をすると、命を落としかねない危険な行動だった」

「すみません……」

 悠夏は謝ると、シェイは慌てて

「今回の責任は自分です。船の目的は自分でした」

「それとこれは話が別だ。何より、大人の俺たちが何も手助け出来なかった。あの状況下でできることに限りはあったが、子ども1人を危険な目に遭わせている。責任は我々にもある」

 責任の話はそのあたりにして、話は螢と志乃がなぜあの場にいたか。悠夏は、あの場で車に乗っていたキャンパーの女性2人から話を聞いており

「女性2人がバーベキューをしに河原へ到着したとき、すでに螢君と志乃ちゃんが焚き火をしていたと聞いています。女性2人は、螢君と志乃ちゃんを気にかけ、一緒にバーベキューをしていました。螢君から女性2人に増水について言ったって聞きましたが、合ってますか?」

「雲行きが怪しくなったというより、身の毛がよだつような、嫌な予感のようなものがして、それを話したら女性の1人がスマホで天気予報を調べて」

「雨雲レーダーを見て、急な大雨を知ったと」

 悠夏が聞いたことを言うと、螢は頷いた。情報が雨の予報だけならば、気になることがある。それについて、悠夏はすでに女性2人から詳しく聞いていたが、改めて螢に確認する。

「バーベキューのコンロを倒したのはどうして?」

「急いで車に向かおうとして、女性の1人が引っ掛けて……。急な増水になれば、片付けをしている最中に流されるかもしれないって」

 螢の説明を聞いて、榊原警部は声に出さず、悠夏に目配せで事実確認をすると、悠夏は頷いて答えた。されに、その前について螢に確認すると、第十堰で焚き火をしていた理由は、魚を釣って焼いて休憩していたそうだ。

 螢と志乃は、龍淵島から別の世界に転移した後、魔法の種の暴走で異世界に幽閉された。異世界から帰還し、目覚めたらここだったとのこと。明日の朝、志乃にも確認するが、螢は嘘をついていなさそうだ。

 到着の流れを説明して一段落すると、螢から4年前の事件について触れる。

「それで……、どうなりますか? やっぱり、逮捕されますか?」

「何故、君は自分が逮捕されると思うんだ?」

 榊原警部が逆に問うと

「だって、母親を……」

 螢は自分が殺害したと、警察に自供したつもりだ。自首して、罪を償う。榊原警部はそんな螢に対して、どのように説明するのか。悠夏と鐃警、シェイは黙って見守る。

「君の母親についてだが、犯人は逮捕されたよ」

「えっ?」

 螢は驚いて言葉が出ないようだ。シェイは黙っていたが、逮捕されたことは初耳であり驚いた。だが、悠夏が曇った表情をしており、直感で嘘が混じっているように思えた。どこが嘘なのかは分からないが……。

「犯人の供述の裏を取るためにも、悲しいことを思い出させてしまうのは申し訳ないと重々承知してはいるが、必要不可欠な確認を行わなければならない。可能な限り、当時の状況を話して欲しい。時間をかけて、ゆっくりでもかまわない」

「当時のこと……」

 螢はすぐには言葉に出来ず、口を噤む。しばらく、会議室が静かになり、聞こえるのは掛け時計の秒針だけ。何回、何十回と秒針の音を聞いただろうか。螢が唾を飲み込み、徐に口を開く。ゆっくりと……

「優しかった母親が、いつの間にか豹変して暴力を振るうようになって……。父親は気付けばいなくなり、逃げ場の無かった自分は、母親を頼るしかなく、どれだけ酷い目に遭っても、昔の優しかった母親にいつか戻るだろうと……。今思うと浅はかな考えだったと思っています。シェイにも話すことが出来ず、自分で籠もって、永遠に来ない妄想を信じて、どうすべきかを過誤して……。手術のことは、前日に知りました。母親から”本当に女の子になれるようにするからね”と告げられ、怖くなりました。誰にも言えずに、母親をまだ信じていたから、母親を否定したくないと……。シェイが魔法を使えることを知って、魔法の種があれば、自分も魔法が使えるかもしれないと思い、その晩にシェイと遊ぶ約束をしました。シェイには申し訳ないけれど、最初から魔法の種を盗む算段で、タイミングを狙って、バッグの中から盗みました。夕方になると、家の中が手術室のようになり、麻酔を打たれて意識を失い、そこからはあまり覚えてません……。自分が手術されて、感情が壊れ、母親を殺したのが夢のように思えなくて……。気付いたときには、船の中に……」


To be continued…


次で終わらなさそうなので、あと2話の予定です。

螢の施術がどこまで進んだかは、一切触れていないのですが、おそらく開始してすぐ中断したのではないかと思われますが、明記はしません。あと、シェイは被害届を出すつもりがないので、螢の窃盗はお咎めなしと思われます。本人も反省しているようで、怒られるぐらいかと。あと、魔法の種なんて公表できないかと。

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