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第8話 船の目的

 2019年5月13日。警視庁刑事部捜査二課の新野(あらたの) 隼佑(しゆんすけ)警部は、保健師(ほけんし)助産師(じょさんし)看護師法(かんごしほう)違反罪(いはんざい)の容疑で逮捕した洒家間(しゃかま) 龍尾(りゅうお)という男の取り調べを行っていた。余罪のうち、1件割り込みで調べて欲しいと特課(とくか)からお願いされており、そこから容疑者へ()く。

 新野警部は、データ復元したカルテを洒家間容疑者に見せて

「4年前、徳島県西阿波市(にしあわし)で母親からの依頼で、ひとりの少年の性転換手術を行おうとした。間違いないな?」

 洒家間容疑者は頬杖つき

「データが残っているなら、事実だろうな嘘のカルテは作ってない。一応、医者だからな」

「それは、医師免許を失効した状態で施術した、あんたが言える言葉じゃ無いな」

「あぁ、そうかい」

 洒家間容疑者は容疑を認めているが、反省の色がない。

「このカルテによると、実際に施術は行わなかった?」

「実施の有無は、カルテにちゃんと書いてあるだろ?」

 洒家間容疑者は、新野警部からカルテのコピーを奪い取り、内容を確認する。

「おかしいな。いや……」

 洒家間容疑者はカルテの一部分を、目を細めながら見た後、何も無かったかのようにカルテを新野警部へ投げ返し

「刑事の兄ちゃん。そのカルテについては、黙秘だ。これ以上は話せねぇ」

「それはどうしてだ?」

「だから言えねぇ」

「”クスリ”か?」

 新野警部が廃忘薬(はいもうやく)のことを(ほの)めかすと、洒家間容疑者は目が泳いで

「さぁ? なんのことだか?」

「残念ながら、調べはついている。黙秘したところで、服用したことはもう分かっている」

「警察があんなお伽噺みたいなものを信じるのか?」

犯人蔵匿(はんにんぞうとく)及び証拠隠滅の容疑で再逮捕できるからな」

「まさか子どもの言うことでも信じてるのか?」

「おっと、誰に服用したかまでは言っていないが?」

「誘導尋問だろ。そんなの」

「警察では、薬品の入手ルートを調べている。バレるのも時間の問題だぞ」

 新野警部がそう言うと、洒家間容疑者はため息をついた。「はいはいそうですか」と、やはり反省していない。

 新野警部は悠夏から教えられた情報をもとに、事件当日について確認を行う。

「あの日、手術を行うため、星空(ほしぞら)家を訪れた。母親が息子に対して無理矢理、手術を受けさせることは、あんたも承知の上だった。間違いないな?」

 洒家間容疑者は反応を見せない。黙秘のようだ。

「手術を行う際に、息子が反発した。騒動の中、息子は薬品を服用し、逃亡した。あんたは口封じのために、母親を殺害した」

 もし殺害を認めれば、殺人罪でも再逮捕する。洒家間容疑者は黙秘ではなく、首を横に振った。

「違うな。母親は……、あれは自殺だった」


     *


 ほぼ同刻。上流を含め、局地的な豪雨により、吉野川(よしのがわ)は増水し第十堰(だいじゅうぜき)付近は濁流になる。川幅がどんどん大きくなり、このままでは川辺に止まる2台の車も流される危険性が高い。

 上空には黒い雲があり、大きな船底が見える。黒い雲は、ところどころ稲光がしており、滝のような雨を降らす。

 シェイは捨てられたカセットコンロ用のガスボンベを持ち、上空の船を見る。濡れて体力を奪われ、川に落ちぬよう魔法で自分を少し浮かせている。

「妨害している発生源は、どこだ……?」

 濁流の水しぶきが、何度もシェイに当たる。船底にアンテナのようなものは見えない……。

「前回、龍淵島のときは確か……。首長竜を捕まえて、日が昇るタイミングで去った。なら、今回の目的は?」

 シェイは考えながら、こちらへ向かってくる仮面の男達を見る。大抵は、激流に巻き込まれてここまでこないが、警戒は怠らない。

「螢と志乃が目的の場合、俺を集中的に攻撃しているのは何故だ? 灯台で戦ったときは、螢と志乃が去ったあと攻撃が止んだ……。もしかして……」

 シェイは、魔法で空間から自分の鞄を出すと、その鞄に魔法の糸を付ける。糸が結びついたのを確認すると、鞄を思いっきり遠くへ飛ばした。

「鞄の中には”アレ”しか入ってないけど……」

 すると、今までシェイへ向かってきた仮面の男達が、シェイには目もくれず、鞄に向かって行く。

「なるほど。大当たり」

 シェイは魔法糸を素早く引っ張って、鞄が川に落ちる前に、自分のところへ戻す。キャッチすると、魔法で空間に鞄をしまった。

「目的は、”魔法の種”か。螢は使い切って持っていないし、俺が新しく持ってきたからこっちに来るわけか」

 シェイの近くに、仮面の男達が出てくるゲートが新たに現れる。シェイはガスボンベを1本振り被り、ゲートを目がけて投げ込むと、一緒に火炎爆発の魔法も送り込む。すると、ゲートの中で爆発し、黒い煙がこちらに届く。

「爆発の音は船の方から聞こえたな」

 爆発は上空の船内と思われる。もしかすると、甲板だろうか。巨大な船底しか見えないため、分からない。

 シェイはすぐに2択を考える。妨害の発生源が特定出来ない以上、目的となる魔法の種を消滅させて退散を促すか、墜とす勢いで攻撃をするか。ただ、どちらもリスクがある。魔力が有限であり、前者は退散しなかった場合の手がなく、後者は魔力が底を突く恐れがある。

「迷ってる暇は無いな……。魔力の種で、一気に押し返すか」

 シェイは魔力の種を取り出して右手で掴んだ。一般的な植物の種とあまり変わらないような大きさで、黒い。

 シェイは覚悟を決めて、魔法の種を人差し指と親指で掴んだまま潰すと、緑色の光る粉のようなものが無数に出てきた。散らばるわけでは無く、丸い球体を保って滞空する。シェイがそれを右手で握りつぶと、シェイの周囲に次々と緑の粒子が湧いてくる。粒子はしばらくすると消えていくが、常に湧いては消えてを繰り返す。

 魔法の種による、魔力の爆発的な上昇を現すものなのだろうか。

 シェイは上空の船を見上げ、黙ったまま魔法を使用する。シェイの足元に緑の光る魔法陣が現れ、シェイが唇を噛む。

 第十堰の濁流が少しずつ宙に浮き、魔法によって船底に向かって上昇する。まるで間欠泉のような急上昇で、大量の水が船底を上空のゲートへ押し返す。

 さらに、カセットコンロのガスボンベを水流に投げ込むと、水の中だろうが構わず、船底の地区で爆発させる。魔力を制限せずに、シェイを狙う仮面の男達へは、水を凍らせて氷の破片を加速させ、見た目は矢だがマシンガンのように乱れ撃つ。

 シェイは再度、唇を噛む。すでに噛んだところからは血が出ている。さらに、右目が充血して赤い血涙が流れる。

 唇を噛んでいるのは、自我を保つためであり、なりふり構わず乱打しているのは、魔法の種の魔力を急激に浪費させるためである。自我を失えば、螢のように囚われの身になる。魔法の種は、あくまでも緊急時のもしもに備えて。それにしては、ハイリスクだ。


To be continued…


ちなみに魔法の種は、このシリーズで登場しており、『紅頭巾』本編には登場していない代物です。簡単に手に入るような物ではなさそうですが……。船についても、どの作品にも登場しておらず、螢・志乃篇は今作で終了しますが、何年か後の『路地裏の圏外』か新作とかで出てくるかな、と。今のところ敵対ばかりですが、今後登場するときは果たして。さて、次回から物語は終幕へと近づきます。

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