第7話 急速に増水する第十堰での戦闘
2019年5月13日。天候が急激に変わり、豪雨の中に戦闘になった。吉野川第十堰で、シェイは魔法を駆使して、正体の分からない相手と戦う。数分前から足場の状態が変わり、踝まで増水している。
少し離れた場所にはワゴンが止まっており、上流の管理局に問い合わせていた徳島県警所属の鯖瀬巡査は
「急激な雨で、増水してます。ここだけでなく、上流でも激しい雨になっており、ここは危険です」
助手席の警視庁捜査一課所属の榊原警部は電話中で、後部座席にはずぶ濡れの警視庁特課所属の鐃警がおり
「防水の問題だけで無く、機械系もダウンしそうです……。あの船からまたジャミングのようなものが……」
と、力尽きてシャットダウン。榊原警部は急に電話が切れ
「ダメだ。繋がらなくなった。2人はまだ戻らないのか!?」
「まだみたいです。あ、佐倉巡査が戻ってきました」
鯖瀬巡査は、後部座席のパワースライドドアを操作し、自動で開く。悠夏は雨で体力を奪われつつも走り、車に半分だけ乗り込むようなかたちで
「シェイ君が、今、敵対勢力と戦っています。何か、攻撃手段はないですか!?」
「敵?」
状況が読めない鯖瀬巡査と榊原警部は、理解が追いついていない。
「龍淵島でも襲撃のあった敵部隊のようで、目的は分かりませんが、武器を、レイピアのようなものを持って、複数人と戦闘中です」
悠夏は必死に戦闘にどうにか加勢できないかと聞くが、榊原警部は冷静に
「河川が急激に増水している。この場所も瞬く間に飲み込まれる可能性がある。重要なのは、すぐにシェイ君を連れて来ることだ。鯖瀬巡査は車を転回して、救出後、すぐに堤防に上がれるように準備を」
「それが……、エンジンがかからなくて……」
「まさか、あれのせいで?」
船のジャミングにより、車のエンジンがかからないというのか。
「まずいな……」
榊原警部は別の手を考えようとするが、後部座席の動かない鐃警をどうするべきか。
「そうなると、シェイ君に頼むしかないと思います。それと、もしかしすると、ここには私達以外にもいるかもしれません」
「誰かいたのか?」
「姿は確認していませんが、バーベキューと焚き火をしていたと思われる痕跡があり、それも急いで消したようで、付近にいる可能性が」
「分かった。シェイ君のところまで、自分も一緒に向かう。その道中で、手分けして探すべきだな。鯖瀬巡査は……」
「ここで待機します。ドアは自動で開いたので、もしかするとエンジンもかかるかもしれませんし」
「増水して身の危険を感じたら、土手へすぐに避難してくれ。鐃警は……、そのときはそのときだ……」
榊原警部は助手席から降り、豪雨の中悠夏とともにシェイのいる第十堰へと走る。
2人は、河川敷の生い茂った草むらに目を光らせるが、暗いのと雨で音がかき消され、よく確認できない。
「榊原警部。私はシェイ君にところへ行きますので」
「お願いできるか? 俺はこっちに人がいないか探す。今は電話が使えないから」
榊原警部が、川の流れに気をつけろと言っていたような気がする。少し遠ざかっただけで声が聞こえない。
悠夏はシェイが戦っている方へ走る。段々と水かさが増えて、踝まで水深がある。
「どこ……?」
シェイを探して周囲を見渡すと、電撃の光が見えた。
対岸からこちらへ移動しているのだろうか。何度も光る。聞こえるかどうか分からないが、悠夏は大声で「シェイ君!」と叫ぶ。
シェイは第十堰のコンクリートの上に立っていたが、すでに水深が深くなっており、魔法で水に浮いて移動している。走るごとに川の水が跳ねる。さらに、聴覚強化の魔法で、敵の音を聞き取れるように雨音と激流の音をかき消す。そのおかげで、悠夏の叫ぶ声が届いた。
敵は少しずつ減っている。攻撃でバランスを崩させ、激流の場所に落とし、残りは2体。もはや、汗なのか雨なのか川の水なのか分からないが、衣服は水をこれ以上吸えないほどに濡れており、重い。靴も水を含んで、脱げそうだ。
シェイは雷と水系の攻撃を繰り出し、仮面の男達へ攻撃する。
「当たっても、痛くも痒くもなさそうだな……」
振り返りつつ、急いで悠夏のところまで走ると
「シェイ君。河川が増水して、危険だから土手に避難を」
「俺は魔法が使えるから、後から避難するよ」
「それだと、ダメなの。車がジャミングで動かないから。それと、他にも人がいるかもしれない」
「車が……」
シェイは考える時間もなく、敵の方へ向き、魔法で川の水を吸い上げ、敵を水流へ巻き込む。それまで魔力を節約していたが、早期決着を優先して、魔力を使ったようだ。
「時間稼ぎにはなると思うけど……。また襲ってくるかもしれない」
「今は、川から離れないと」
気付けば、水深が30センチほどに迫っている。このままだと、足を取られる。
悠夏はシェイの手を握り、急いで車の方へ走る。すると、途中で榊原警部が叫ぶようにこちらを見ており
「もしかして……」
ただ、近づかないと声が聞こえない。魔法の効果で、シェイには聞こえていた。
「人が乗っている車があるみたい」
近づくと、草むらの中に一回り小さいワゴン車が止まっていた。中には人が乗っているようだ。榊原警部は
「螢君と志乃ちゃんも乗っている。それと、キャンパーの女性が2人。こっちの車と同じで動かないそうだ」
「ドアは?」
悠夏が聞くと、榊原警部は首を横に振った。開かないようだ。シェイは真上を見て
「たぶん、あいつの妨害が強くて機械系が全滅しているのかも……」
「シェイ君なら、なんとかできる?」
「妨害元を壊すか、結界を作るかだけど、ここで魔力を使いすぎると……」
「さっき、カセットコンロのガスボンベが落ちてたけど……」
「それはどこで?」
「バーベキューのコンロが倒れていた近くに」
「もしかしたら、壊せるかも……。車が動いたら、すぐに避難して」
シェイは、さきほど来た道を戻り、カセットコンロ用のガスボンベを拾いに走る。
シェイの考えでは、この豪雨だと爆発系の魔法は、魔力が相当いる。着火剤があれば、魔力を抑えつつ発生源を爆破できるかもしれない。横倒しになったバーベキューコンロは、まだ流されておらず、ガスコンロの中にガスボンベが1本と、すぐ近くに6本セットのうち4本が残っている。
「打ち上げても船底は無傷だろうな。発生源はどこかにあるアンテナだと考えられるけど……。どこだ?」
下からは船底しか見えない。どうすべきか悩んでいると、川の水が一気に増えて目の前にあったバーベキューコンロが流される。
「時間が無いな……」
周囲も警戒すると、新たにゲートが現れ、仮面の男達が出てくる。きりが無い。
To be continued…
シェイが魔力をあまり使いたがらないのは、魔力が切れるとそれ以降何もできなくなるから。単独で日本に来ており、魔力の量は十分にありますが、シェイは使い切ったあとに何か起こったら、対処できないと危惧しているようです。心配性といいますか、後先考えないような無駄遣いだけは避けたい考えているようです。