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第6話 逃げるため

 2015年、星空(ほしぞら) (けい)は母親の見伊那(みいな)から虐待を受けていた。衣服で隠れるところには痣や傷がいくつか残っている。父親は、豹変した母親から逃げるように忽然といなくなった。何が原因で変わったのだろうか。もしくは、元々こういう性格だったのだろうか。幼少の頃に優しかった母親は、今や見る影もない。螢も父親と一緒に逃げることが出来れば、こんなことにはならなかったのだろうか。優しかった頃を覚えているからこそ、元に戻って欲しいと考えていた。浅はかな考えだとは思っていなかった。いつかまた優しい母親に戻ると信じていた。もし自分から言うと、もう母親とは会えなくなる。

 結局の所、螢は知らず知らずのうちに母親へ依存していた。当時の少ない知識では、他の大人に相談するという考えにまで至らなかった。担任の先生や教頭から聞かれても、有耶無耶にしていた。それで隠せると思っていた。

 母親の口癖は、「どうして女の子が生まれてこなかったの?」だった。父親に逃げられて、新たな子を授かることが出来なくなり、一人っ子の螢を女の子として育てようとする。その行為は年々、エスカレートしていった。

 母親も螢が嫌がらないと思い込み、螢はいつか優しい母親が戻ってくるためならばと思い、それを断ち切れなかった。

 螢がそんな日々から目を覚ましたのは、事件の前日だった。母親から「本当に女の子になれるようにするからね」と告げられ、手術を知った。手術というワードが段々と怖くなり、自分は本当にこのままでいいのかと、初めてそこで現実に返ってきた。


    *


 シェイが知っている範囲で言えることは、事件当日の朝に螢と遊んでいたときのこと。

「事件前夜に螢から連絡があり、朝6時とかいう今までにないぐらい早い時間を集合時間にして、県立公園にできた野外の特設スケートリンクに行った。明け方なら人が少ないって話で」

「県立公園だと、鶴城(つるぎ)西阿波(にしあわ)運動公園ですかね? 毎年、2月だか3月とかに特設スケートリンクを設営してますよ」

 鯖瀬巡査が記憶を頼りに公園の名前を言うと、シェイは「確かそんな名前だったと思う」と答えた。特設スケートリンクは、氷を使わずに特殊なシートを広げて設営される。鶴城西阿波運動公園は、テニスコートや陸上のトラックも備えており、かなり広い。

「着いたときはまだ日の出前で、真っ暗だった。スケート靴は有料でレンタルがあったので、それを借りた。何時間か遊んで、俺がトイレに行ったとき、リュックは置いていたから、螢が魔法の種を盗んだのなら、そのタイミングだろうな。魔法の種がないことに気付いたのは帰宅後だ。しかも、帰宅してすぐにリュックの中身を確認しなかったから、気付いたのは夕方過ぎ。スケートリンクに落とし物が無いか聞きに行き、必死になって探した。だけど、見つからなかった。螢が知っているかもしれないと思い、その後螢に連絡をした。でも返事は無かった。それから、龍淵島で会うまで、音信不通だった。螢が魔法の種を盗んだなんて、微塵も疑わなかった……」

「そうなると、事件当時はやはり螢君に直接聞くしか方法はなさそうだな」

 榊原警部はそう言って、タブレットパソコンにシェイの言葉を捜査記録として残した。ワゴンはもうすぐ第十堰(だいじゅうぜき)に近づく。

 吉野川第十堰。第十(だいじゅう)は地名であり、10番目という意味ではない。吉野川の河口から14キロほど離れた位置にある固定堰である。

「ん?」と、何かに気付いたシェイは第十堰の方を見て、

「ちょっと止めて」

「えっ? ちょっと待ってください。確か下りる道があったかと……」

 鯖瀬巡査が目視で確認しつつ、榊原警部はカーナビの地図を見る。川岸へ下りる道へと鋭角ターンし、少し広いところに車を止めた。シェイはすぐに外へと飛び出し、第十堰の方へ。

 次に悠夏が車を降り、運転席に座る鯖瀬巡査に

「一応、河川情報と天気も調べて欲しくて。あと、早明浦ダムも」

「分かりました。こちらで確認します」

 鯖瀬巡査は、万が一の増水の危険が無いか管理所へ電話するようだ。

 榊原警部もシェイや悠夏の後を追うつもりだったが、電話が掛かってきた。


 第十堰の近くまで走ったシェイは、焚き火の痕跡を見つけて立ち止まった。遅れて悠夏が到着し

「シェイ君、どうしたの?」 

「多分、ここにいたんだと思う。何時間とか何日前とかは、分からないけど……」

 少し離れたところには、木炭がいくつか落ちている。かと思えば、バーベキューのコンロが倒れている。いずれも、水をかけて消火しているみたいだが、少し煙が出ている。悠夏は状況から見て

「それほど時間は経ってなさそう……」

「おそらく、急いで倒して、消したみたいですね」

 と、鐃警が到着。さらに周囲を見渡すと、他にも落ちていたものがあった。

「あそこに、割り箸が落ちていますね」

「車が来るから隠れたってことですかね?」

 悠夏もあちこち見ていると、少しずつ周囲が暗くなる。日没には早いが……。ポツリと冷たい雫が袖を濡らす。空を見上げると、黒い雲が覆い、先程まで晴れていたのが嘘のようだ。雨が次第に強くなる。

「警部。雨が」

 と、鐃警の方を見ると一目散に車へダッシュしている。

「防水機能があっても、厳しいです!」

 さらに、ロボットには致命的な土砂降りになる。傘など用意する時間も無く、悠夏とシェイはずぶ濡れだ。

「シェイ君も一旦車に戻って。私は少し調べてから戻るから」

「ダメ……。何か来る……」

 雨など気にせず、シェイは上空を見る。悠夏も上空を見ると、初めて見るのだが、既視感のようななにかを感じる。あの時は雨は降っていなかったはず……。どこかで……。龍淵島で……?

 少し思い出しそうな……。思い出そうとすると、頭が痛くなる。

 暗く厚い雲に大きな穴が開き、巨大な船底が見えてきた。船の出現位置に、翡翠の稲光が何度も発生している。船の全貌は見えない。暗闇に発生する稲光で見える程度である。

「敵か……?」

 シェイは周囲を見渡し、戦闘に備える。すると、数カ所、空間をまるでファスナーのようなもので開いて、ゲートらしきものが出現する。

龍淵島(りゅうえんとう)のときと同じか……。敵襲だ!」

 シェイが叫んだと同時に、ゲートから白い仮面を付けた長身の男達が現れる。持っているのは、細く先端の尖ったレイピア。全員がシェイに向かって、襲いかかる。

 悠夏は急いで事態を知らせるために、車の方へ走る。

「魔力は節約しつつ……なんて余裕があればだけど……」

 シェイは右手の人差し指で宙に魔法陣を描く。左手で河原の石をひとつ拾って、描いた魔法陣に投げると、石が砕けて多数の破片が仮面の男達の方へ。仮面の男達は、レイピアで破片を打ち落として、こちらに向かってくる。

 シェイは場所を移動しようと、足を動かすと、すでに川が増水して、足が少し浸かっていた。


To be continued…


昨年の12月以前に考えていた展開から色々と変わって、第十堰で戦闘が始まりました。もともとやろうとしていたことって、もはや残ってないですね。第10話ぐらいで完結できるように調整しつつ、キャラクターに全てを委ねて進めています。螢の設定は、2年前の『龍淵島の財宝』で決めていたので、そこだけは変えてません。

戦闘ができるのはシェイしかいないので、なかなか厳しいところです。他のキャラを出すか悩みつつも、キャラが増えると長くなるのでシェイに頑張ってもらう方向で。

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