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第3話 家庭環境

 休み時間。シェイは、何気なく(けい)の長髪について

「そういえば、髪は伸ばしてるの?」

 螢は表情を曇らせて

「……うん。まぁ……」

 と、曖昧な返事だった。シェイはそれ以上聞くのは、申し訳ないと思い、質問を切り上げた。別の休み時間に、本人から聞かず、クラスメイトの誰かに聞いてみようと、数人に声をかけたが「知らない」や「分からない」と言われた。

 担任の香村(こうむら)先生に聞くと、「昔から長髪だから、理由は先生には分からないな」と言われた。先生の言うことが本当かどうか気になったシェイは、魔法で嘘か本当かを調べた。結果は、半分本当で、半分嘘だった。昔から長髪は本当であり、香村先生は何かを知っている。シェイは、下校時間の後、誰もいないタイミングを見計らって、職員室に潜り込んだ。出張中でいない先生のデスクの下に隠れていると、香村先生と上韮生(かみにろう)教頭の声が聞こえてきた。

「それで、彼の件はどうですか?」

「家の前まで行っても、門前払いで……」

「あまり時間をかけたくはないので、手遅れになる前に児相(じそう)に話を通しておいた方が……」

 上韮生教頭は受話器に手を伸ばして、児童相談所へ電話をかけようとする。香村先生は

「実際に目撃したわけではないので……。それに、本人もこの件について、何も話してくれなくて……」

「香村先生。何かあってからでは遅いんですよ。昨今、学校に対する世間の風当たりが強いですし、何より我々は子ども達の未来を守る立場にもありますから。私がそう思っているだけかもしれませんが」

「すみません。私もそのあたりのことはまだ分からなくて……」

「いえ。担任1年目の香村先生には期待してますので。我々教員は助け合って乗り越えねば。もっと頼ってください。児相には話を通しておきますので、一番は決定的なものがあればいいんですが……」

「決定的なもの……ですか……」

「そうです。裏付けるものがあれば」

 上韮生教頭と香村先生の会話に関して、全ては理解できていないが、だいたいこんなことを言っているのだろうと、シェイは考える。2人の会話はさらに続き、聞き耳を立てる。

「教頭先生。1つ質問なんですが……。もしDVが明らかになった場合、彼は……星空君はそのあとどうなるんですか?」

「一般的には、家庭訪問などで調査を行い、その結果一時保護を行うでしょう。その後、一連の診断を行い、援助方針を決定します。過去に私が見聞きした事例ですと、家庭裁判所の判断で、児童養護施設や児童自立支援施設に入所したこともありました。もし、今回もそうなった場合、学園から離れることになりますね。星空君のお母さんが、どんな人かにもよりますが……」

「やはり、今のお友達とは離ればなれになるんですよね?」

「そうなるでしょうね。特に、母親からは距離を離す必要がありますし。ただ、それは最悪の場合ですよ。そこまでのケースはあまりないですから」

「そうあってほしいんですが……」

 どうやら、螢は家庭内暴力の被害に遭っているようだが、シェイはDVについて知らない。話した内容について、祖父のワーティブ・ディーラに聞くことにした。

 病室で英字の新聞を読んでいたワーティブは、シェイの話を聞いて

「なるほど。シェイのお友達だが」

「じいちゃん、”ディーブイ”って何?」

「そう焦るな。話を聞く限りだと、その螢君とやらは、母親から暴力による虐待を受けている。しかし、先生たちはそれを確かめる方法がなく、螢君をどのようにして助けるか、知恵を絞っているようだ」

「螢のお母さんが暴力……」

「シェイ。螢君を助けたいと思うだろうが、決して魔法を使ってはならんぞ。自分たちの国と違って、ここでは魔法はあたりまえではない。むしろ、魔法とはかけ離れており、どうなるか想像も出来ん」

「でも、このままだと螢が……」

「まずは、その本人から聞くことはできないのか? 先生たちが手子摺っているということは、一筋縄ではいかないと思うが」

「じゃあ、どうすれば」

「親しき友達ならば、打ち明けて言うかもしれない」

 それから、シェイは魔法を使わずに螢と過ごす時間を増やし、公園や市民体育館など、家には行けないが遊べる場所でたっぷりと遊んだ。


 2019年5月13日月曜日、正午過ぎ。悠夏(ゆうか)鐃警(どらけい)榊原(さかきばら)警部が搭乗した飛行機が羽田空港の滑走路から離陸し、徳島阿波踊り空港へと向かう。機体が水平になると、ベルト着用のサインが消えた。案内では、突然の揺れに備えて引き続きシートベルトの着用をお願いしている。

 悠夏は、座席下に置いた鞄からタブレットを取り出して、捜査資料を開く。一番後ろの座席のため、後ろから見られることはないが、周囲に注意しつつ内容を確認する。

 2015年の事件資料には、不足の点が多い。本来されるはずの捜査が途中で打ち切られている。原因は、螢が使用した廃忘薬(はいもうやく)の影響と思われる。当時の捜査員は、螢について調べたことさえも忘れている。

 悠夏は別のPDFファイルを開くと、児童相談所の資料である。螢について、”学園から家庭内暴力の可能性について相談があり、家庭訪問の実施を検討する”ところまで書かれている。家庭訪問を行う前に、事件が起こったのだろうか。

 ふたつの資料を合わせてみると、次のように考えられる。事件発生時、螢は9歳だった。9歳の男児が、母親に対して首元を狙って、刃物で殺害できるだろうか。捜査資料にもその点に関して、外部犯の可能性も書いている。捜査が打ち切られなければ、鑑識作業で情報が出たかもしれない。今年の捜査再開時には、すでに4年も経過しており、指紋は残っていなかった。遺体は安置所で眠っており、病理解剖を行った。しかし、新しい情報は出なかった。

 悠夏は資料を閉じて、志乃(しの)に関する捜査資料を開く。屋嘉部(やかぶ) 志乃の捜索願が過去に出ていたらしい。捜索願を受け取ったのは、沖縄県警那覇(なは)警察署。本籍は沖縄の離島だが、小学校に上がるタイミングで沖縄本島に引っ越し、休みの日に行方不明となった。顔写真からも、本人と思われる。現在は、両親が捜索願を取り下げて、死亡扱いとなっている。どうやら、河川敷で靴が片方見つかったことから、川に落ちて亡くなったことになっているようだ。周辺の河川を捜査したが、発見には至らなかったと資料には記載されている。

 志乃については、廃忘薬とは関係なく、行方不明のあと水死として処理されたのだろう。両親に話を聞けば志乃に関する情報を聞けるだろう。ただ、沖縄まで行くかどうか……。情報によれば、両親は離島に戻っており、日帰りで直接会うのは無理だろう。

 資料を見て、あれこれ考えているとベルト着用のサインが光り、まもなく徳島阿波踊り空港に着陸しますと案内が入った。


To be continued…


やはり期間が空いてしまいましたが、『エトワール・メディシン』のストックが5月末分まで出来上がり、現在はこちらに注力しています。予約投稿時で第3話~第5話まで完成したので、順次掲載します。6話はこれからです。

あまり話数が多くならないように、核心までどんどん突き進みます。シェイが富都枝学園附属小学校に通っていたときって、確か小学3年生ぐらいかと。今と違って、未熟なところがかなり出てますね。

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