表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

第2話 魔法使いの少年

 朝9時。警視庁特課(とっか)にて、3人の捜査会議が続く。

「三重県龍淵島(りゅうえんとう)の事件において、屋嘉部(やかぶ) 志乃(しの)という少女の姿が目撃された。この少女の身元調査の結果、親戚が亡くなっており、捜索願いは出されてなかった。戸籍としては、すでに死亡扱いだ。星空(ほしぞら) (けい)との関係については、全くもって分からない。何処で出会ったのか……。そして、特課からの新たな情報。元クラスメイトのシェイ・ディーラという少年。彼が、螢について知ってそうだということか?」

「そうですね。今までの様子から、シェイ君は螢君のことをどこまで知っているのか……? 警部はどう思いますか?」

 悠夏(ゆうか)鐃警(どらけい)に話を振ると、

「シェイ・ディーラという少年に関して、法務省の入国管理局に問い合わせてみましたけど……。先月変わってから、知ってる担当が別の部署になっていて……」

「異動ってことですか?」

 悠夏が首を傾げると、榊原(さかきばら)警部は納得したように

「あぁ、なるほど。法務省の内部部局から外局になって、出入国在留管理庁に変わったから異動も多いだろうな」

 2019年4月1日をもって、法務省入国管理局は廃止され、出入国在留管理庁が設置された。

「警部も調べていたんですね」

佐倉(さくら)巡査も管理局に?」

倉知(くらち)副総監に相談して、調査依頼をお願いしています」

 特課は倉知副総監の管轄なので、上に相談するのは至極当然であった。コミュニケーションアプリの「トーカー・メッセージ」で、依頼のメッセージを送ると数分で「こちらで調べてみる」と返事がきた。

 捜査会議はその後も話してみたが、出入国在留管理庁からの結果が出ないことには、シェイのことは調べられそうにない。そんな結論に至りそうになったとき、悠夏の携帯に倉知副総監から連絡が入った。

「はい。佐倉です」

「倉知だ。例の頼まれたシェイという少年の件だが、先程入管庁から連絡があり、9時前の飛行機で羽田空港に入国しているそうだ」

「えっ。今、羽田にいるってことですか?!」

 悠夏は、シェイが思わぬ場所にいて驚いた。てっきり、シェイの住む国まで行って、話を聞くつもりだったが、まさか向こうからこちらに来ているとは。

「入管庁によると、10時半の東京日本航空とうきょうにほんこうくうで徳島空港へ向かうそうだ」

「10時半……。今からだと間に合わないけれど、確かその次が……」

 悠夏は電話をしたまま、自分のデスクに戻り、パソコンで羽田空港の出発時刻を調べていると、10時半の東京日本航空TJAの25分後に蒼穹日本空輸そうきゅうにほんくうゆBSAが出発するようだ。

「25分だけど、BSAは離陸までが短かったような……」

 たまに使っている悠夏だからこそ、なんとなく感じていた時間差だが、滑走路とターミナルの距離によって時間差が発生している。風向きによって異なるだろうが、悠夏が利用するときは、羽田空港のD滑走路と呼ばれる南の離れ小島に造られた滑走路から離陸することが多い。D滑走路は、第1旅客ターミナルビルから出発する東京日本航空よりも、第2旅客ターミナルビルから出発する蒼穹日本空輸の方が近い。そのため、30分の差はあるが、滑走路までの移動と上空の飛行によっては、着陸する時間が短いかもしれない。

 徳島阿波踊り空港の着陸時間を見ると、

「15分差。後追いがなんとかできるかも……」

 悠夏は倉知副総監にもうひとつお願い事として

「次の飛行機で、シェイ君を追って徳島まで行きます。それで、羽田空港まで、車をお願いしたいのですが……」

「羽田空港までか。行くのは特課の2名だけか?」

「えっと……」

 悠夏は携帯の受話部を手で押さえて

「今からシェイ君を追って、徳島に向かいますけど、榊原警部はどうされますか?」

「同行して問題なければ」

「わかりました」

「佐倉巡査。それと、羽田空港まではこっちで車を回すから、準備が出来たら下まで」

 榊原警部はそう言って、出掛ける準備のために一度捜査一課へと駆け足で戻る。悠夏は倉知副総監との電話に戻り

「先程の車についてですが、一課に乗せてもらいます」

「了解した。報告の続きは、資料で送る。5年くらい前に入国の履歴もあるから、資料で確認してくれ」

「わかりました。ありがとうございます」


    *


 東京国際空港、通称”羽田空港”。東京都大田区(おおたく)にある日本最大の空港であり、ターミナルは3つ存在する。国際線旅客ターミナルビルから、乗り継ぎの飛行機の搭乗ゲートがある第一旅客ターミナルビルまでは距離があり、京急空港線かモノレール羽田空港線、無料の連絡バスで移動する。

 シェイは、案内看板を見ながら無料の連絡バス乗り場へと向かう。電車やモノレールの場合は、切符が必要になりお金がかかる。連絡バス乗り場を探すなか、モノレールの羽田空港国際線ビル駅や電車の羽田空港国内線ターミナル駅の案内を見て、ビルとターミナルの表記揺れが少し気になった。正式名称はターミナルビルだからこそ、余計に。

 そんなちっぽけなことを気にするくらいの余裕があるのだと、自分自身に少し驚いた。日本に入国する前まで、いろいろな心配事を考えて、フライト中に一睡も出来なかった。

(螢の居場所がなんとなく分かるってことは、まだ螢の魔力が残っているのだろうか……?)

 午前10時30分発の飛行機に乗ると、離陸する前にシェイは眠りについた。

 その夢の中で、昔のことを思い出す。5年前のことだった……。


 2014年秋。シェイの祖父、ワーティブ・ディーラが富都枝(ふつえ)総合病院で入院する中、シェイは学校に通うことになった。西阿波市(にしあわし)の私立富都枝(ふつえだ)学園附属小学校。クラスの生徒は24人。転校したシェイを含めると25人だ。クラス担任の香村(こうむら) 由岐(ゆき)。若い女性教諭で、クラスを担任するのは、初めての年だった。窓際の最後尾に座るシェイは、ひとつ前に座る螢と話すようになり、自然と2人はすぐに仲良くなった。螢はそのとき髪を伸ばしており、まるで女の子のようだった。シェイも最初は女の子だと思ったが、出席簿の性別の欄を見て、男であることを知った。

 だんだんと気温が低くなり、本格的に冬が訪れた頃、螢に対して不思議に思うことがあった。シェイが今でも後悔しているひとつが起こる前触れだった……。いや、前兆はもっと前からあったのかもしれない。だけど、クラスの誰1人、気づけなかった。

 螢は、家庭内暴力を受けていた……


To be continued…


12月からスケジュールが破綻して、かなり期間が空いてしまいましたが、第2話です。

舞台が2019年5月のため、法務省入国管理局が変わる時期だったり、羽田空港がまだターミナルの名称変更前だったりと、調べて「へぇー」を思いつつ作中に入れました。2020年3月に国際線ターミナルが第3ターミナルに変わったみたいです。

そして、『エトワール・メディシン』の本編にまだ登場していない国内大手の航空会社2社が登場しました。おそらく本編でもそのうち登場するかと。

12月前に考えていたスケジュールから、かなりかけ離れた更新のため、キーワードを出し惜しみせずにストーリーを進めていこうと思います。特に最後の一文ですかね。

次回の3話については、もっと早く更新できるように、何かしら考えようと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ