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第10話 解明

 星空(ほしぞら) (けい)の話した内容は、洒家間(しゃかま)被疑者の供述やシェイの証言と矛盾せず、疑うようなことはなかった。榊原(さかきばら)警部や悠夏(ゆうか)は、螢のことを考え、あまり深掘りするつもりはないが、伝えるべきことは話しておく。榊原警部は咳払いをして

「話してくれてありがとう。それと、君の母親についてだが、家庭内暴力を振るっていたことから、暴行罪や傷害罪といったDV関連で、逮捕することになる。被疑者死亡で書類送検となる」

 榊原警部は、子どもに伝わないであろう難しい言葉を使いつつも補足や言い直しはしなかった。悠夏は何も言わず、見守る。

「そうですか……」

 螢はそれ以上言わずに、事実を受け取ったようだった。話が終わって、螢が就寝のために会議室を出た。シェイは「まだ眠くないから起きてる」と言って、螢だけが寝る。螢は、この遅い時間までずっと起きており、辛い過去を初めて他の人に打ち明けたのだろう。その疲労は大きいと思われる。

 螢が会議室から離れて、そろそろ寝たであろう時間まで待っていたシェイは、悠夏と榊原警部に気になった点を質問する。

「螢の母親を殺害した犯人が捕まったって、本当ですか? 螢のことを思ってついた嘘のように感じて……」

「嘘ではない。すでに、被疑者は別の罪状で逮捕されており、被疑者を自殺関与、同意殺人の容疑で再逮捕するつもりだ。まだ捜査中だが、おそらく自殺教唆罪(じさつきょうさざい)だろう」

「自殺?」

 シェイは首を傾げた。嘘をついたのはそこなのか。シェイが疑っていると感じた榊原警部は、嘘ではないことを淡々と説明し始めた。

「微妙な線引きだが、状況によっては殺人に該当する。自殺の決意を抱かせる事によって、人を自殺させた場合、自殺教唆罪にあたる。ポイントとなるのは、自殺者が自由な意思決定に基づき、自殺したかどうかだ。被疑者が脅迫や心理的強制を与えて、自殺以外の方法を断った上で、自殺した場合は殺人となる。ただ、不可解な点が残っている」

「不可解な点?」

 シェイが気になる言葉を返すと、今度は悠夏から説明する。

「さっき、螢君は”自分が母親を(あや)めた”と言っていたけれど、被疑者も同じ証言をしていたの。ただ、それは夢か何かで、事実ではないとも証言していて。被疑者の証言をそのまま聞くと、被害者は2度殺害されている。1度目は殺人。2度目は自殺。3分くらい巻き戻って、同じ時間が2回訪れたとも……」

「それで、念のためと、NICT(エヌアイシーティー)に確認してみた。すると、興味深いことに、事件発生後、一部の地域で時計がおよそ3分弱進んでいると問い合わせがあったそうだ。それも1件2件ではなく。個人では無く、システム会社からの問い合わせが多かったそうだ。言われてみれば、システムで時間がずれるのは致命的だ。影響は極小規模の範囲だったそうだが、事件現場を含んでいた」

 榊原警部の言う”NICT”とは、公的研究機関である独立行政法人情報通信研究機構だ。ここが日本標準時を管理している。

「それだと、螢はやっぱり……」

 シェイは螢の殺人について一層不安になった。榊原警部は、螢の犯行を否定しつつ、今度は証拠の観点から説明する。

「螢に殺人はできない。現場に残っていた凶器には、指紋が残っていない。手術用の手袋を付けていたであろう、手術の担当医師を疑った。しかし、自殺だと証言した。しかし、死因となった部分は、ズタズタになっており、自殺は考えづらい。で、こんな遅い時間まで続いた捜査会議で決まった方針として……」

 そこまで話すと、会議室に男が1人戻ってきた。倉知(くらち)副総監である。倉知副総監は、話を聞いていたようで、割り込むように

「星空 螢は、母親の見伊那(みいな)から虐待を受けていた。その虐待はエスカレートし、性転換の手術を決行する。手術は螢の同意なく行われ、見伊那が申し込んだ担当医師の洒家間 龍尾(りゅうお)から麻酔と睡眠薬を投与された。洒家間は、カルテを偽造しており、螢の同意がないことを知っていた。施術が強行されたあと、事件が起こった。螢が意識を取り戻し、正当防衛として母親へ刃向かった。そのときの母親の生死は不明だが、外的要因により3分ほど時間が巻き戻った。螢が起きるよりも先に、洒家間は施術を中断し、見伊那の自殺を目撃していた。見伊那は自分の子どもに殺害されるという恐怖心から自害したのではないかと考えられる。目を覚ました螢は、母親の死を目の当たりにした。時間が巻き戻る前に、自分が殺害したと思い込んだ。洒家間は精神的ショックを受けた螢に対して、廃忘薬(はいもうやく)の投与を(すす)めた。目の前で人が死に、洒家間も焦っていたようだ。洒家間は、螢に廃忘薬を投与して、その場を去った。螢は放心状態だった。その後、螢は誘拐などもあったが行方不明となり、龍淵島および第十堰で発見に至った。それが捜査会議での方針だ。包み隠さずに話したが、気になったことがあれば答えるぞ、少年」

「いや……」

 どうやらシェイは、疑問よりも理解が追いついていないようだった。時間を巻き戻すことは、魔法を使えば実現出来なくはないだろう。たとえ出来たとしても禁忌だが。

「1つ……、いや2つかな。聞きたいことがある。事件当時、もし現場付近にいたのならば、時間が戻るような感覚があったかどうか。覚えていないか?」

「あの日は……、落とし物に気付いて必死に探してた。螢に連絡したけれど、繋がらなかった。螢が見てないか聞きに、螢の家に初めて行こうとした。結局、家のインターホンは押してないけど……。あれ? なんでインターホンを押してないんだろ?」

 シェイは当時の記憶を、自分の行動を、思い出そうとするが思い出せない。断片的に思い出せるのは、自分が螢の家に行こうとしていたこと。

「家に着く前に……。遠くから勘付いたんだ……。確か……。螢が魔法の種を使って、魔力が暴走していた……」

 シェイは先程の倉知副総監が話した内容と組み合わせて、自分の記憶を整理する。おそらく、螢が睡眠薬の効果が切れるよりも前に起きたのは、魔法の種によって、目を覚ましたのだろう。

「俺は、ただ外から見るしかできなくて……、自分の失態に呆然として……。そこから動けなくなった。今思い出せるのは、そのあたりまで……です」

 当時のことは、シェイにとっても、心の傷であろう。自分の所為(せい)で螢にどれほどの迷惑をかけただろうか。シェイは当時を思い出そうとすればするほど、呼吸が乱れてきた。倉知副総監は「無理はしなくていい」とだけ伝え、悠夏と鐃警(どらけい)を連れて場所を移動した。


 電気の点いていない真っ暗な会議室。倉知副総監は、手探りで照明のスイッチを押す。電気が点くと、10人程度の広さだった。

 倉知副総監は適当に座って、向かい合うように悠夏と鐃警も座った。何を言われるのだろうかと考えていると

「さっきの少年、シェイという子だが、危ういな」

「危ういと言いますと? 首を突っ込むところですか?」

「自分を後回しにしている。他人のためなら自己犠牲も厭わないような子だろう。どういう環境で育ったのかは知らないが」

「シェイ君の持っていた”魔法の種”は、かなり危険な諸刃の剣だと思います。第十堰のように助けになる場合もあれば、螢君のように暴走して……」

 悠夏は一概に危険なものとは言わず、諸刃の剣と例えた。ただ、傍から見ていると、誰にも持たせたくはないものだと思う。ほとんど黙って聞いていただけの鐃警は

「星空 螢の事件は解決になりますが、龍淵島や第十堰に現れた船は結局謎のままですし、時間が巻き戻ったって話もまだ信じられない……です」

「世の中、そんな簡単に、全てが明らかになるなら、警察も苦労はしない。関連する物事が解明されるのは、いつになるか分からない。ただ、いつかは解明されるだろう。そこで、特課(とくか)に新たな捜査を伝える。他の捜査と並行して、現状は無期限で、上空に現れた船に関する捜査を命じる。おそらく現れるなら、あの少年が最も近いかもしれない。まだ螢のところに現れないという確証もないが」

 倉知副総監から正式な指示が出た。鐃警は「わかりました」と回答したあと

「あの船について、異国人だろうと宇宙人だろうと、領空侵犯やら密入国、器物破損に無差別殺人未遂など、罪状はいくらでもありますからね」

 本気で言っているのやら、冗談で言っているのやら。


To be continued…


螢の殺人未遂については、微妙なところですかね。時間が戻ることがまず立証できないのと、凶器から指紋は採取されなかった。ん? あれ、じゃあどうやって自殺を? 洒家間から手術用の手袋を渡されて、補助を任されていたとも考えられます。看護師が同席してないですし。手術したことを隠したいため、自殺後に洒家間が手袋を脱がしたのかと。そうなると、証拠隠滅に当たりますね。もしかすると、手術器具で自殺を図ろうとし、その後カッターなどで……。手術器具はやはり洒家間が回収し、家のものはその場に放置して去ったのでは。あまり長々と細かいところを詰めると、本当に終わらないので、後書きで一部補完させてください。

さて、3部に渡る『螢・志乃篇』でしたが、次回で最後となります。

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