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第1話 殺人容疑のかかった失踪者

 2020年12月1日火曜日、22時。日本に来て1年以上が経過した。光規(みつき) 章良(あきら)は、友人に関する情報が手に入らず、悩んでいた。Webメディアの”トティック”という会社を経営する樋之口(てのくち) (まさ)社長に拾われ、慣れない仕事を始めた。同じく、日本に来た一条(いちじょう) 恵菜(えな)は、元々アナウンサーを務めていたことから、テレビ日本放送こと、”テレニチ”の新人アナウンサーとして、仕事に就いた。どちらも情報を集める上で、有利かと思えたが、友人に関する情報は何も得られず。容易くはない、それは重々承知していた。でも、情報が得られないまま時が過ぎて、次第に焦っていく。取材動画の編集依頼をメールで出し、デジタル時計を見つめる。すると、一ヶ月ぶりに電話が掛かってきた。相手は、恵菜だ。章良が電話に出ると、恵菜は

「元気にしてる? 最近、連絡無いけど」

(けん)たちに関する情報が得られないから、なんとも……。で、かけてきたってことは、何か分かったのか?」

 章良はパソコンのキーボードから手を離し、深く腰掛ける。イスのレバーを操作し、仰向けになるぐらいまで、イスの背もたれを倒す。

「いや、そうじゃない」

 恵菜の回答に、アキラは意気消沈し

「なんだ」

「ちょっと、”なんだ”って。人が心配してるのに。で、本題とは違うんだけど、地方新聞の記事を調べる企画で、気になる記事があったから」

「地方新聞?」

「そう。章良は、”星空(ほしぞら) (けい)”って名前の子、覚えてる?」

「誰だっけ……?」

「ルーイン・エンパイア。螢君の暴走した魔力で形成された世界。あんな不思議な体験をしてるのに、忘れてる?」

「いつの話だよ」

 章良は自分の記憶を遡り、15秒ほどを費やして、ようやく思い出した。

「キョクホ島のときか。覚えてるわけないだろ……。何年前のことだよ!?」

「私達にとっては、そうだけど。螢君たちにとっては、去年のことだったみたい。健と(やいば)龍淵島(りゅうえんとう)に行ったのも、さらに前のことだけど、龍淵島の事件も、去年のことだったみたい」

 章良がキョクホ島を訪れたのは、西暦にすれば2012年。16歳の時だ。今が24歳なので、8年前。しかし、螢はそうではなかった。時間の歪みなのだろうか。

 恵菜は、当時の記事について話す。

「記事のタイトルは、”行方不明の少年を無事保護。母親の不審死が解明”」

 章良は背もたれを起こし、パソコンで恵菜の言う記事を探す。

「記事が出たのは、去年の5月か」


    *


 2019年5月13日月曜日。警視庁特課所属の佐倉(さくら) 悠夏(ゆうか)は、午前8時の朝ドラを視聴していた。最近のルーティンとなっており、朝早く来て、これを見てから定時の勤務に入る。同じく特課所属で、ロボット警部の鐃警(どらけい)もボーッと見ている。主題歌は、主演女優の籠咲(かごさき) 早耶(さや)が歌っている。先月始まったばかりだが、3週目にして、主人公の母親を演じる、大物女優の名村(なむら) 琴恵(ことえ)が麻薬取締法違反容疑で逮捕され、続きがどうなるか危ぶまれたが、母親役を変更し再収録を行って、なんとか放送が継続している。1話から登場する役柄だけに、その影響は計り知れなかった。

 放送が終わって、次のニュース番組で朝ドラの内容を2、3分ほど触れた。これもいつもの流れだ。全国のニュースを流しながら、悠夏は肩を回し、首を回す。お仕事モードへの切り替え。この時間に特課を訪れる者はいないのだが、今日は違った。

「佐倉巡査。警部」

 刑事部捜査一環の榊原(さかきばら)警部が、警視庁と書かれたダンボールを持ってきた。

西阿波市(にしあわし)の事件について、徳島県警からこれが届いた」

「西阿波市ってことは……」

「現在行方不明で、母親の殺人容疑がかかっている”星空 螢”という少年に関する事件だ」

 先月、特課が捜査を開始したけれど、徳島県警にて再捜査が行われ、警視庁の捜査一課がそれを引き取り、やっとこちらに回ってきた。理由は、別件で特課が動いていたということもあるが、特課に回ってくるまで、約1ヶ月かかった。

「まず、再捜査の結果から」

 榊原警部は、ダンボールから捜査資料を取り出す。悠夏は、今月経費で購入した真新しいホワイトボードを用意する。ペンも新品で、フィルムが付いている。

 3人で捜査状況をまとめる。

「事件が発生したのは4年前。2015年、徳島県西阿波市にて、自宅で亡くなった女性が発見された」

 榊原警部は資料を読み上げつつ、被害者の写真をホワイトボードに磁石で張り付ける。ペンでその下に名前を記載する。

「星空 見伊那(みいな)。当時32歳の女性。キッチンにあったと思われる包丁と、カッターナイフにより首元をズタズタにやられていた」

 それを聞いた悠夏は、小さく「うわぁ……」と血の気が引く。

「住宅街だが、付近に防犯カメラはなく、目撃証言はなし。事件発生時刻に、悲鳴を聞いたという証言もなし。捜査方針は、事件発生以降に所在不明となっている9歳の息子、螢を捜索することになった。しかし、以降1ヶ月以上発見に至らず、ある日を境に螢の捜査が止まった」

 榊原警部は、ホワイトボードに螢の写真を貼る。

「これは、こちらで捜査した結果だが」

 これから話すことが、警視庁捜査一課の報告であることを断った上で、

「捜査員全員から、星空 螢に関する記憶が消失していた。先月の再捜査のタイミングまで……。いや、今も誰だか分からないそうだ」

 集団で特定の人物に関する記憶を消失する……。そんな事象として、1つ心当たりがある。鐃警は

「怪奇薬品ってことですか……? ケースとしては、廃忘薬(はいもうやく)

「否定できない。いや、むしろ状況証拠としては、それが最有力だと考えられる。螢が廃忘薬を服用したタイミングで、捜査に影響を与えたのだろう」

 廃忘薬は、悠夏達の関わった事件でも登場した薬品と思われる謎の効果薬だが、服用した人物以外に影響する。効果は、自分に関わる記憶を、使用した本人以外から消すという、普通では考えられないような効果である。

「改めて、廃忘薬は恐ろしいですね……。使用については、証言を特課が聞いてはいますが……」

 ルーイン・エンパイアで少女ユイアが証言しており、それを悠夏たちは聞いていた。しかし、

「あの異国での証言は……、裏取りにも証拠にも、なんにもならないですから……」

 鐃警もあの異国での出来事は、実際にあったこととして認知しているが、捜査には持ち込めない。一般常識から逸脱(いつだつ)しすぎていて、妄言としか……。

「特課の集団催眠もとい、異国転移の話はさておき」

 榊原警部は、ホワイトボードに別の人物の写真を貼る。3人の捜査会議とはいえ、異国転移というワードが出てくるのも、現実離れしている。

「4年の時を経て、今年の2月に三重県龍淵島(りゅうえんとう)の事件において、星空 螢の姿を確認。そのときに、1人の少女、屋嘉部(やかぶ) 志乃(しの)という人物と行動を共にしていた」


    *


 ロートン国。現地時間18時。夕暮れ時に、紅色の頭巾を被った13歳の少女、フロール・クリズンは、休業中の張り紙が貼られたお店の前で首を傾げていた。そこへ、元人間で現在は熊の姿となっている熊沢が現れ、

「どうしたんですか? お嬢ちゃん」

「シェイ君、どこかに行ってるの?」

「そうみたいですね……。張り紙には、どこに行ったときは書いてないですが」

 ”シューズ・ディーラ 短期休業のお知らせ”と書かれた紙には、遠出のため、しばらく休業しますとしか書かれていない。ただ、熊沢は事前に知っていた。しかし、シェイからフロールには言うな、と言われた。シェイ曰く、「フロールに言えば、彼女たちにまた会いたい」と言い、同行するだろう、と。そりゃそうだ。志乃と螢とは、仲良くなった。フロールは、また会う約束をしていた。熊沢がシェイに、「どうしてダメなんですか」と聞くと、「終わったら話す」としか言わなかった。ルーイン・エンパイアで起こった魔力暴走のあと、螢に関する話をすると、シェイの表情から笑顔が段々と消えていく。日に日に。何があったのか聞きたいが、聞きづらい。

 そんな少年、シェイ・ディーラは、5月13日。日本に入国していた……


To be continued…


また、この時期になったなと。もう1年経ったのか。

「螢・志乃篇」の最終章となります。来年は単発のクロスオーバーかなぁ。

今回、章良と恵菜が登場するのは序盤のみで、主に特課チームとシェイの話が中心になるかと。シェイに至っては、『紅頭巾』本編で語っていない日本での生活をこちらで展開することになりそうです。

昨年の第二部終了後、来年の作品タイトルは、私立富都枝(ふつえだ)学園附属小学校を舞台に展開する『学級攻城戦』を予定していましたが、最終章に向けて事件性が強くなりそうなので直前に変更。1時間以上悩んで、決まらなかったので、K3(ケースリー)で。

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